第156回 働き方改革は冷たい制度

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第156回「働き方改革は冷たい制度」


安田

天下のPanasonicさんで、持ち帰り残業を苦に自殺された方がいて。

久野

はい。

安田

そもそも残業なのかどうかっていう。自発的にやったとしても残業になるんですか。

久野

現在の法律では、やっぱり残業になるでしょうね。

安田

「いやいや、本人が勝手に頑張ったんだよ」っていう会社の意見も分からなくもないですけど。

久野

もう時代が変わってしまったんですよ。

安田

ということは、会社としてはそんなに頑張ってほしくなくても、本人が「成果上げるためにやんなくちゃいけない」って家でガンガン働きまくったら残業になる。

久野

なります。

安田

会社にいてタイムカードをつけてたら残業だとは思うんですけど。

久野

それは確実に残業ですね。

安田

タイムカードもつけずに家で勝手に仕事してても、やっぱり残業になるってことですか。

久野

難しいんですけど。基本的に「指揮命令があったかどうか」ってとこだと思います。

安田

なかったらしいですよ。これをやれっていう命令は。だけど成果は求められるので、「これだけの成果あげろ」っていうのは、もう指揮命令に近いってことですか。

久野

黙示の指揮命令ですね。

安田

なるほど。成果をあげるためにやらざるを得なかったらば、これはもう残業になると。

久野

そうです。

安田

たとえば営業だったら目標があるじゃないですか。

久野

はい。

安田

でもパフォーマンスって人によって違いますよね。残業しなくても達成する人もいれば、家に帰ってコツコツやらないと達成できない人もいます。

久野

そうですね。

安田

「この数字を達成しろ」って言われたら、パフォーマンスの低い人はやらざるを得ない。

久野

まず家でやることは禁止しなきゃいけないです。

安田

家で仕事しちゃいけない。

久野

そうです。「仕事を家に持って帰れた」ってところが問題になってるので。

安田

家で自分のパソコンで提案書をつくるとか、業界知識を得るためにネット検索して調べるとか。いくらでもやりようあると思うんですけど。

久野

そうですね。

安田

それすら「やるな」ってことでしょうか。

久野

「持ち帰りが禁止されてる」「会社のデータにアクセスできない」ってところが基本です。

安田

なるほど。まずはそこに手を打っておくと。

久野

あとは大多数がノルマをクリアできてること。

安田

普通の人は終業時間内に仕事が終わるってことですか。

久野

そういう状況が大事なんじゃないですか。

安田

でも営業みたいな仕事ってかなり能力の差が出ますよ。

久野

決められたルールの中で能力を出せないなら、その会社ではやってけない仕組みになってるべきです。

安田

とはいえ解雇することもできないし。目標3000万だけど300万しか売れませんでしたって人は解雇できるんですか。

久野

それだけでは出来ませんね。

安田

ですよね。だけど本人が努力したら残業になってしまう。

久野

時間外であれば残業になります。

安田

売れない営業マンを雇っちゃったら「赤字覚悟で給料を払い続けろ」ってことですか。

久野

本人がトレーニングや自己研さんをやるのは、労働時間じゃないです。

安田

トレーニングは仕事ではない?

久野

基本的にはトレーニングは労働時間じゃないです。ただ今回の場合は長期間にわたって夜中にメールしてたので。

安田

つまり仕事をしてたってことですか。

久野

そういうのが分かっていたにもかかわらず放っておいた。ちゃんと管理されてないことに関しては、会社の責任もあるんじゃないかと思います。

安田

見て見ぬふりをしたってことですか。

久野

要は「この時間で終わらない」ってことを会社は認識してたんだと思います。

安田

なるほど。

久野

自己研さんだったら何とでも言えるじゃないですか。本当にやってたかどうかも分からないので。

安田

それで残業手当がもらえるなら言いたい放題ですよ。

久野

ただ今回は「会社が謝った」ってところから逆算すると、おそらく自己研さんを超えて仕事を持ち帰ってることを、会社も把握してたんじゃないかと思います。

安田

能力って人によって違いますからね。会社が決めたやり方で、全員が同じパフォーマンスってあり得ないので。

久野

そうでしょうね。

安田

パフォーマンスを発揮できない人にも、自己研さんはいいけど、業績上げるための作業はやらせちゃいけないってことですよね。

久野

働き方改革っていうのは冷たい改革でして。ひと昔前は、自分が足りないなと思えばこそっと人より長く働いたり、家で準備して翌朝ロケットスタートが切れたんです。

安田

今はそれをやっちゃいけない。

久野

そういうのが全部禁止にされちゃったので。フライングができない状態です。

安田

できない人はできないままってことですか。

久野

そうなんです。だから本当に能力の高い人しか活躍できない。それが働き方改革の隠れた問題なんです。

安田

なぜこんな法案ができちゃったんですか。

久野

会社にも問題があるんですよ。安さを求めてすごい残業をさせたり。とにかく「長時間労働で何とかする」っていうスキームは禁止にしようと。

安田

これからは営業マンが家で資料を作っても残業になると。

久野

内容次第だとは思うんですけど。営業で提案書をつくるのは、ちょっと認定されづらいかもしれないですね。

安田

それはどうして。

久野

会社で提供してるものがあるはずなので。

安田

あったとしても自分で工夫してもっといい提案書をつくるでしょ。

久野

そんな人いない気がします。

安田

いないですか?昔いっぱいいましたけど。

久野

今はあまりいないと思います。

安田

資料は終業時間中につくって、会社を出たらもう仕事は終了と。

久野

そうじゃないですか。その部署がつくった資料を持っていくのが営業って感じ。

安田

それじゃ売れないじゃないですか。

久野

それでも売れるようにしなきゃいけない。

安田

渡された資料を「持ってきました」ってだけで売れたら、営業マンいらない(笑)

久野

それも含めてビジネスモデルになっちゃったのが、働き方改革なんです。

安田

昔は営業時間中に企画書つくってたら怒られましたけど。

久野

「足で稼げ」とか言われて(笑)

安田

今はオフィスの中で昼からダラダラ企画書をつくっていてもいい?

久野

ダラダラはダメです。一心不乱に資料をつくり一発でお客さんを仕留める。そういう人しか評価されない。ある意味冷たい時代なんです。

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久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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