何の適用拡大ですか?
社会保険の適用拡大です。中小企業だと週30時間を超えると、社会保険に入らなきゃいけない。聞いたことないですか?
あるような、ないような(笑)週5日働くとして1日6時間ですよね。確かにそれぐらい働いたら社会保険に入れてやれよって感じです。
じつは社会保険って、会社の人件費負担が15%ぐらい増えるんです。
そんなに。
そうなんですよ。だから会社としては、社会保険に入れたくないわけです。パートでも週25時間で社会保険に入ってない人は、安くていいなって思う。
そりゃ思いますね。
ところが法律が変わる。今年の10月から従業員101人以上の会社は30だったラインが20に変わる。
週20時間ですか。厳しいですね。でも101人以上なんですよね。
今回は101人ですけど。2024年には51人になります。
いきなり51になるんですか。
はい。51人以上の会社が対象になります。
じゃあ51人の会社は1人減らさないと。
そっちを考えるんですね(笑)
いやいや、普通は考えるでしょ。
だけど同じですね。すぐにまた50人以下も適用対象になりますから。
どんどん対象が広がっていくんですか。
はい。そういう方向にいくことはもう決定です。じつは501人以上の会社はもう適用拡大済なんです。
順番に来てるってことですね。
そうです。で、次が101〜500人のレンジ。ここって結構インパクトが大きくて。
なぜですか。
たとえば正社員が50人で、パート450人とかの会社もあるわけですよ。
なるほど。それは大きいですね。
とんでもなくコストが増えるはず。
これって働く人の手取りも減っちゃいますよね。
そうなります。
扶養に入ってる人にも、社会保険加入させたいってことですよね。
それもあります。あとは上限なく働いてほしいという狙いですね。今はそこがネックになってるので。
手取りが減っちゃって生活できない人とか出てきませんか。
なので働く時間を増やそうってことです。130万の壁って聞かないですか?
聞きますね。それを超えたらいきなり手取りが減っちゃうっていう。
所得税の扶養控除と健康保険の扶養というのがありまして。この2つが関係する境目を130万の壁っていうんですけど。結局これがあるから130万未満で働こうとする。
なるほど。
もともと労働法自体「旦那さんが働いて奥さんが家を支える」というモデルなんです。
今はそんなの無理ですけどね。共働きじゃないと食っていけないし。
だからこれを、どこかで終わらせなきゃいけない。そういう意図がある。
そのための社会保険加入だと。
いったんそこさえ突破したら、あとは働くしかないので。すごくシンプルです。
結果的に働く人が増えるわけですね。
社会保険に入ったら、もう稼ぐしかないですから。とにかく長く働くようにもっていこうという改革ですね。
「もっと稼ぐぞ」って人も出てくると思いますけど。辞めちゃう人も出てきませんか?
統計では世帯年収下がってきてるので、働かざるを得ないです。
なるほど。そこまで計算してると。
はい。ちょこっと働き始めたら社会保険に入れられちゃった。もうこれだったらフルタイムの方がいいや、みたいな感じで。
国としては共働き家庭を増やしたいわけですか。
それが働き方改革のひとつのミッションですから。1億総活躍って覚えてませんか。
ありましたね(笑)
あれの一環なんですよ。
なるほど。
じつは働き方改革って淡々と実行されてまして。皆さんが気づかないうちに。
そうなんですね。
もう「パートだから安い」という発想は無理です。
同一労働同一賃金ですからね。
そうです。時間が長い短いで評価を下げるのはもうダメ。
パートさんの雇い止めもダメになるんですか。
それはもう昭和の初期から駄目ですよ。
え!そうなんですか。
契約社員だけです。契約期間で終わっていいのは。
パートさんって、契約期間が決まってないんですか。
契約書を交わさずに「明日からパートで来てくれる?」って言ったら、定年までの契約を交わしたのと同じ。
なんと!そんなのぜったい知らないですよ。経営者は。
そこが問題なんです。
社保に入れて雇い止めもできないんだったら、社員と何が違うんですか。
時給で払ってるか月給で払ってるか。それだけの違いですね。
月給だって、厳密に言えば時給の積み重ねじゃないですか。
そうですね。
フルタイムかどうかの違いでしょうか。
フルタイムのパートさんもいますから。
そうなってくると益々社員と何が違うのか。
一緒だということですよ。
ですよね。残業手当も払わなきゃいけないし。
元々違いはないんです。
そもそもパートなんていうものはないんだと。
その通り。
人を雇うんだったら、正規雇用する覚悟じゃないと駄目ってことですね。
パートは雇用のバッファではないですから。
でもそう思ってる経営者は多いですけど。
その感覚はもう古すぎます。随分前から変わってきてますから。
じわじわ変わっていくから気がつかないんですよ。どこに注意すればいいんですか。
何人刻みとか、何年刻みとか、そういうワードが出てきたら要注意です。少しずつ逃げ道が塞がれていきます。
久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/
安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。