第164回 少しずつ逃げ道が塞がれていく

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第164回「少しずつ逃げ道が塞がれていく」


安田

何の適用拡大ですか?

久野

社会保険の適用拡大です。中小企業だと週30時間を超えると、社会保険に入らなきゃいけない。聞いたことないですか?

安田

あるような、ないような(笑)週5日働くとして1日6時間ですよね。確かにそれぐらい働いたら社会保険に入れてやれよって感じです。

久野

じつは社会保険って、会社の人件費負担が15%ぐらい増えるんです。

安田

そんなに。

久野

そうなんですよ。だから会社としては、社会保険に入れたくないわけです。パートでも週25時間で社会保険に入ってない人は、安くていいなって思う。

安田

そりゃ思いますね。

久野

ところが法律が変わる。今年の10月から従業員101人以上の会社は30だったラインが20に変わる。

安田

週20時間ですか。厳しいですね。でも101人以上なんですよね。

久野

今回は101人ですけど。2024年には51人になります。

安田

いきなり51になるんですか。

久野

はい。51人以上の会社が対象になります。

安田

じゃあ51人の会社は1人減らさないと。

久野

そっちを考えるんですね(笑)

安田

いやいや、普通は考えるでしょ。

久野

だけど同じですね。すぐにまた50人以下も適用対象になりますから。

安田

どんどん対象が広がっていくんですか。

久野

はい。そういう方向にいくことはもう決定です。じつは501人以上の会社はもう適用拡大済なんです。

安田

順番に来てるってことですね。

久野

そうです。で、次が101〜500人のレンジ。ここって結構インパクトが大きくて。

安田

なぜですか。

久野

たとえば正社員が50人で、パート450人とかの会社もあるわけですよ。

安田

なるほど。それは大きいですね。

久野

とんでもなくコストが増えるはず。

安田

これって働く人の手取りも減っちゃいますよね。

久野

そうなります。

安田

扶養に入ってる人にも、社会保険加入させたいってことですよね。

久野

それもあります。あとは上限なく働いてほしいという狙いですね。今はそこがネックになってるので。

安田

手取りが減っちゃって生活できない人とか出てきませんか。

久野

なので働く時間を増やそうってことです。130万の壁って聞かないですか?

安田

聞きますね。それを超えたらいきなり手取りが減っちゃうっていう。

久野

所得税の扶養控除と健康保険の扶養というのがありまして。この2つが関係する境目を130万の壁っていうんですけど。結局これがあるから130万未満で働こうとする。

安田

なるほど。

久野

もともと労働法自体「旦那さんが働いて奥さんが家を支える」というモデルなんです。

安田

今はそんなの無理ですけどね。共働きじゃないと食っていけないし。

久野

だからこれを、どこかで終わらせなきゃいけない。そういう意図がある。

安田

そのための社会保険加入だと。

久野

いったんそこさえ突破したら、あとは働くしかないので。すごくシンプルです。

安田

結果的に働く人が増えるわけですね。

久野

社会保険に入ったら、もう稼ぐしかないですから。とにかく長く働くようにもっていこうという改革ですね。

安田

「もっと稼ぐぞ」って人も出てくると思いますけど。辞めちゃう人も出てきませんか?

久野

統計では世帯年収下がってきてるので、働かざるを得ないです。

安田

なるほど。そこまで計算してると。

久野

はい。ちょこっと働き始めたら社会保険に入れられちゃった。もうこれだったらフルタイムの方がいいや、みたいな感じで。

安田

国としては共働き家庭を増やしたいわけですか。

久野

それが働き方改革のひとつのミッションですから。1億総活躍って覚えてませんか。

安田

ありましたね(笑)

久野

あれの一環なんですよ。

安田

なるほど。

久野

じつは働き方改革って淡々と実行されてまして。皆さんが気づかないうちに。

安田

そうなんですね。

久野

もう「パートだから安い」という発想は無理です。

安田

同一労働同一賃金ですからね。

久野

そうです。時間が長い短いで評価を下げるのはもうダメ。

安田

パートさんの雇い止めもダメになるんですか。

久野

それはもう昭和の初期から駄目ですよ。

安田

え!そうなんですか。

久野

契約社員だけです。契約期間で終わっていいのは。

安田

パートさんって、契約期間が決まってないんですか。

久野

契約書を交わさずに「明日からパートで来てくれる?」って言ったら、定年までの契約を交わしたのと同じ。

安田

なんと!そんなのぜったい知らないですよ。経営者は。

久野

そこが問題なんです。

安田

社保に入れて雇い止めもできないんだったら、社員と何が違うんですか。

久野

時給で払ってるか月給で払ってるか。それだけの違いですね。

安田

月給だって、厳密に言えば時給の積み重ねじゃないですか。

久野

そうですね。

安田

フルタイムかどうかの違いでしょうか。

久野

フルタイムのパートさんもいますから。

安田

そうなってくると益々社員と何が違うのか。

久野

一緒だということですよ。

安田

ですよね。残業手当も払わなきゃいけないし。

久野

元々違いはないんです。

安田

そもそもパートなんていうものはないんだと。

久野

その通り。

安田

人を雇うんだったら、正規雇用する覚悟じゃないと駄目ってことですね。

久野

パートは雇用のバッファではないですから。

安田

でもそう思ってる経営者は多いですけど。

久野

その感覚はもう古すぎます。随分前から変わってきてますから。

安田

じわじわ変わっていくから気がつかないんですよ。どこに注意すればいいんですか。

久野

何人刻みとか、何年刻みとか、そういうワードが出てきたら要注意です。少しずつ逃げ道が塞がれていきます。

この対談の他の記事を見る



久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

感想・著者への質問はこちらから