第175回 雇用されている国

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第175回「雇用されている国」


安田

防衛産業について話してもいいですか?

久野

はい。あまり過激にならない程度に(笑)

安田

ロシアとウクライナの問題で、日本でも「ロシアは危ない」みたいな話になってまして。

久野

日本も国境を接してますからね。

安田

そうなんです。「もっと自衛力を上げろ」って話になっていて。ただ日本では防衛産業が次々に撤退してるらしくて。

久野

日本は武器も輸入に偏ってます。

安田

自前の武器をつくらなくていいんでしょうか。

久野

いや、武器は絶対に自国で生産しなきゃ駄目ですよ。

安田

ですよね。よそから最先端の武器なんか来るわけがないですもん。

久野

そうそう。古いの売られるだけです。

安田

ちょっと型落ちしたやつとか。

久野

戦略面も分かっちゃうじゃないですか。「あそこはこんな武器を何個持ってるぞ」って。ゲームだったら完全に負けてしまいますよ。

安田

でも日本では防衛産業は儲からないらしくて。アメリカの軍需産業とかめちゃくちゃ儲かってるのに。なぜ日本の軍需産業は撤退するほど儲からないんですか。

久野

入札で値引き合戦になってるみたいですね。

安田

そうなんです。要望はきついし、業者はちょくちょく変えられるし、事業としてのうまみがないと。

久野

そもそも日本って、あまり武器の輸出ができないですよね。

安田

だいぶ規制が緩くなりましたが今でも反対が多く大々的には武器は売れないですね。

久野

部品はつくれるけど武器にして売れない。車の本体を売れない自動車産業みたいなもので。これはきついですよ。

安田

なるほど。国内の市場だけだったら開発しても元が取れないと。

久野

軍事費が決まっているので。最終的に成果物の数も決まっていて。入札で「あなたはどれだけ削れますか」って話になると、やってられない。

安田

手抜きもできないし。

久野

国民の命がかかってますから。めちゃくちゃ精度が求められるんですよ。だから構造的にちょっと無理があります。

安田

そうなると、多少防衛予算を増やしたところで、事業としての旨味がないと。

久野

全くないです。

安田

どうしたらいいんですか?日本の国防は。公務員が武器をつくったらいいんですか。

久野

日本は国家施策にイメージがなさ過ぎるんです。GDPの何%とか言ってる時点で、もうアウトじゃないですか。

安田

そうなんですか。

久野

普通は世界の情勢を考えて、他を削ってでもまず防衛予算を確保しなきゃいけない。どう産業をつくっていくかも含めて、国家プロジェクトにしないと。

安田

たとえばどんなプロジェクトですか。

久野

大学の研究室に軍事予算を投入するとか。国家として取り組まないと。

安田

今はまったくやってないんですか?

久野

やってるんでしょうけど、一生懸命取り組めない構造があるんでしょうね。

安田

ありそう(笑)いろんな忖度とか。

久野

そんな場合じゃないんですけど。やっぱり強くないと守れない。

安田

強くなること自体に反対する人もいるし。

久野

日本人と同じように海外の人が考えてるという、その思い込みがやばいと思います。今回のロシアの件で思い知ったと思うんですけど。

安田

もし攻め込まれてもアメリカ頼りですよね。

久野

というか、それしか手段がないって感じです。

安田

ウクライナみたいに、まず自国で頑張らないとだめじゃないんですか。

久野

そもそもマインドが違いますよ。自国を守るってことは、予算も含めて教育とか全て変えてかなきゃいけない。すごく大きなことです。

安田

国を守るって、言い換えれば自治権や統治権を守ることじゃないですか。

久野

はい。

安田

そもそも、そんなものが日本にあるんですかね。国内にこれだけアメリカの基地があって。果たして日本は独立国家と言えるのか。

久野

一応、独立国家ということになってます。

安田

中国やロシアからしたら、日本に攻め込むのはアメリカに戦争を仕掛けるみたいなもんじゃないですか。その覚悟がないと攻め込めないというか。

久野

現実はそうでしょうね。

安田

いざという時に守ってくれるかどうかではなく、現実的にアメリカの属国みたいなもんですよ。

久野

また過激ですね(笑)

安田

そもそも日本が独立国家なのかどうか。国民はもっとその議論をするべきだと思う。

久野

「日本は独立国家である」というのが大前提なので、そんな議論はできないです。

安田

アメリカが決めたことに真っ向から反対して「ノー」って言えないわけじゃないですか。

久野

今の構造じゃ無理ですね。しかもアメリカにとんでもなくお金払ってますもんね。

安田

そもそも自分たちで自由に物事が決められない状態なのに、いったい何を守るのか。前提がずれてる気がするんですけど。

久野

今回のことで国民も気付いたはずですよ。

安田

いざとなったら「アメリカは守ってくれるのか」って、みんな言ってますけど。守るもなにもアメリカの一部なんじゃないのって気がするんですけど。

久野

そういう感覚はないでしょうね。

安田

日本に攻め込むならまずアメリカの基地を叩くでしょうし。基地に攻め込まれたらアメリカも戦うしかないわけですから。

久野

普通に考えたらそうですよね。

安田

仮にどこかの国が攻めてきて、アメリカ軍が基地ごと全部撤退したら、ある意味ハッピーなんじゃないかって気もしますけど。

久野

そこに疑問を持ち始めたっていうのが、今回のロシア問題じゃないですか。

安田

武器を持たないってことに、疑問を持ち始めたのは確かですね。だけど独立国家だってことには疑問を持ってない気がするんですけど。

久野

有史以外の独立国家だと思ってるでしょう。

安田

他国の基地がこれだけある状態を、独立というのかどうか。アメリカだからいいってことでしょうか。

久野

自由があればってことじゃないですか。今はそれがあるので。

安田

アメリカは好きだけど「中国は嫌い」ってのもあるんじゃないですか。

久野

中国に支配されると「自由がなくなる」というイメージがあるので。

安田

アメリカが与えてくれる「自由らしきもの」が心地いいんですかね。

久野

自分たちで民主主義国家をつくったわけじゃないから。どうしてもアメリカ頼みになっちゃいますよ。

安田

どこまでも民主主義陣営についていく以外ないと。

久野

現状を考えるとそうですね。だって、ここから独立するのも難しいですもん。アメリカとの関係が難しいですし。

安田

完全なる独立国家なんていうのは無理だと。

久野

100%雇用の会社を100%業務委託に変えるぐらい難しいと思います。

安田

分かりやすい!日本は雇用されてる国家なんですね。

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久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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