第184回 報酬を下げあう妬みの構造

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第184回「報酬を下げあう妬みの構造」


安田

三菱UFJ証券さんが、営業マンの年収1億円を可能にするそうです。

久野

優秀な人材確保に向けて本気だということでしょうね。

安田

1億も稼いだら、もはやお金のために独立する必要がないです。

久野

外資の優秀な営業マンはこれぐらい稼いでますから。

安田

日本の場合は「平均を上げる」ってことを意識してきたんでしょうか。

久野

そう思います。1回払い始めると、ずっと払い続けなきゃいけないルールだし。

安田

三菱UFJ証券は1億をずっと払うんでしょうか。

久野

いえ。それはないと思います。おそらく歩合でしょうね。

安田

やったらやった分だけ払うと。

久野

そうでないとリスクが高すぎますから。

安田

今、格差がすごい問題になってますよね。

久野

はい。

安田

やった人に1億円払うためには、やらなかった人を削らなきゃいけないです。

久野

そうなりますね。

安田

これまでは黒字社員が赤字社員の分を賄っていたじゃないですか。

久野

もう二極化させざるを得ないんですよ。優秀な人が辞めると、会社のダメージが半端ないので。

安田

全体的に上げていくのはもう無理ってことですか。

久野

いま生産性アップを一生懸命やってますけど、上がった分を全体に還元するという発想じゃないですね。仕事のできる人に渡していく。

安田

これまで日本企業は「儲かったら全員に還元する」という文化だったじゃないですか。

久野

それだと優秀な人をもう繋ぎ止めることができないです。トヨタですらそう言ってますから。

安田

トヨタでも無理ですか。

久野

ちゃんと成果に応じた報酬を支払わないと無理でしょう。

安田

じゃあ同じ会社の中で二極化が起こることになりますね。

久野

同じ会社の中でも、昨日と同じ仕事をしてる人の給料は増えない。新たな成果を生み出した人はどんどん増える。

安田

出来る人はどんどん金持ちになって、出来ない人はどんどん貧乏になっていくと。

久野

はい。

安田

1割、2割だけがものすごく稼いで、大多数の人は下がっていきませんか。

久野

そうなっていくでしょうね。でも会社運営上はそうせざるを得ないです。

安田

ビジネスですからね。

久野

はい。国民全体のことまで考えてられないですよ。

安田

下はどんどん貧乏になっていくんでしょうか。

久野

アメリカを見ていると長期的には上がっていきます。上がどんどん上がれば、結果として下もいずれ上がる。

安田

そんなうまいこと行きますかね。

久野

マクロで見たらそうなっていきます。現にアメリカはずっと上がってますから。

安田

へえ〜。それは大企業に限らず?国民全部が上がってるんですか。

久野

そもそも物価が上がっているので全体に給与はどんどん上がっていってますが、現場職よりもマネジメント職のほうが上がっています。どちらかというと大手の現場の仕事のほうが厳しい感じがします。日本の場合は入ったら安泰だと思ってる人が多いですけどアメリカはそんなことはありません。

安田

大手の現場ってどういう仕事なんですか。

久野

ルーティンをひたすら回してくような仕事。そういう仕事にはもう高い報酬を払えないです。

安田

日本人の国民性からすると、「お互いさまだから支え合おうよ」みたいなとこがあるじゃないですか。

久野

ありますね。パートさんでも、仕事内容が違うのに「社長はあの人だけえこひいきしてる」みたいな。

安田

同じパートなのに給料が違うのは納得いかないと。

久野

隣の人との能力差が客観的に意識できてない。恐ろしいなと感じるときがあります。

安田

これって日本人特有の考え方なんでしょうか。

久野

そう思います。それぐらい平等意識が強いというか。同じフロアにいるのに、「なんで時給がこんな違うの」って思っちゃう。

安田

横並び意識が強いですよね、やっぱり。

久野

強いですね。なぜ金額が違うか、「説明してくれ」って言われれば、説明はできるんです。でもほんとに聞きたいですかって話ですよ。

安田

聞いても納得しないでしょうね。

久野

新卒の時から一律なので。そこに違和感をもたない時点でおかしいんですけど。

安田

そうですよね。新卒といえども能力は全然違いますから。

久野

明らかに違いますよ。

安田

新入社員同士は思わないんですかね。「なぜ俺がこいつと同じなんだ」って。

久野

自分に投資してきた人ほど思うでしょう。一律20万で買っちゃうわけですから。

安田

今は大企業に入っても3年以内に辞める人が多いみたいです。

久野

優秀な新卒ほどそうなります。下手したら既存の社員より優秀ですから。

安田

自分より給料が高い新卒なんて、既存の社員は絶対に納得いかないでしょうね。

久野

日本人には無理でしょう。世界では当たり前なんですけど。

安田

優秀な人はどんどんこの国から離れていってしまうかも。

久野

だから今回の三菱UFJ証券みたいな会社が出てくるんですよ。

安田

大企業といえども危機感を感じてるんでしょうね。

久野

すごく感じてると思います。彼らは世界標準で常に競争してるわけですから。

安田

じゃあこの先、二極化はさらに拡大しますか。

久野

拡大してくと思います。

安田

それが正しい方向だということでしょうか。

久野

会社が取るべき選択としては正しいと思います。経済競争に勝っていかなきゃいけないので。

安田

競争に勝って儲かる会社が増えていけば、結果的に国民全体の賃金も上がっていくと。

久野

それが世界の考え方ですね。

安田

でも、やっぱり足を引っ張るじゃないですか。日本人は。

久野

そこなんですよ。「あいつだけ稼いで」って優秀な人を妬んじゃう。

安田

自分のお金で月に行っても、テレビで文句を言われる国ですからね。

久野

それで視聴率が上がるのが現実なので。優秀な人は出ていきたくなりますよ。

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久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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