第200回 スケールかスモールか

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第200回「スケールかスモールか」


安田

アリ採り名人の島田さん知ってますか?アリマスターと呼ばれてまして。

久野

Yahoo!ニュースで見ました。飼育ケースを売ってる人ですよね。

安田

そうなんです。島田さん今40歳らしいですけど。高校中退後、東京都心でアリ専門の通販会社を立ち上げ、なんと今年で21年!

久野

すごいですよね。

安田

奥さんに「アリだけで食べていけるのか」って心配されたそうです。でもめっちゃ売れてる。

久野

アリ観察用の飼育ケースが1個7,000円するらしいですね。

安田

はい。アリを飼うだけで7,000円。それが年間1,500個も売れていて、生産が間に合わない。

久野

これ欲しいですよね。

安田

欲しいですか?

久野

はい。こういうの結構気になるんです。

安田

7,000円のは40〜50センチぐらいのサイズで、特大タイプは33,000円だそうです。「33,000円出してアリ飼うのか!」って感じですけど。

久野

入荷した瞬間に売り切れちゃうみたいですよ。

安田

そうなんです。でも「売上を伸ばす気はありません」って。

久野

もっと値上げしたらいいんですよ。

安田

いや、でも、十分高いっちゃ高いじゃないですか。

久野

欲しい人からしたら高くないですよ。

安田

そうかもしれませんね。富裕層が買ってるわけでもないでしょうし。

久野

お金があっても欲しくない人は買わないです。

安田

アリ飼育ケースなんて生活に必要ないですからね。

久野

だけど7,000円ですごく楽しめて。家にいる時間が豊かになるなら7,000円は決して高い買い物ではないです。

安田

確かに買えない金額じゃないですよね。

久野

だってスマホに比べたら安いですよ。毎月ずっとサブスクみたいに出ていくわけじゃないし。7,000円で3年ぐらい遊べちゃうかもしれない。

安田

こういうものが売れる時代ですよね。真面目に一生懸命、高性能な家電を作っても売れないのに。

久野

マーケットの大きさが違いますから。

安田

アリのケースを買う人なんて100人に1人もいないでしょうね。

久野

1,000人に1人いるのかなって感じです。

安田

数人で食っていくには十分なんでしょうね。アリが大好きな人だけで集まって。

久野

アリが好きな人って世界中にいるでしょうから。

安田

いそうですね。どこの国にも。

久野

絶対いますよ。

安田

もう組織の時代は終わりなんじゃないかって気がします。

久野

どういう意味ですか。

安田

たとえばアリの仕事で50人が食えるかって言われたら、無理だと思うんですよ。

久野

50人は厳しいかもしれません(笑)

安田

だけど好きな人2〜3人なら十分食えてしまう。たまに家族で旅行して、おいしいものを食べて、豊かに暮らしていくことが余裕でできちゃう。

久野

今の時代ならではですね。

安田

はい。ニッチなマイクロビジネスを数人でやって、楽しく生きていく時代です。

久野

アリの観察って楽しそうだし。

安田

本気で欲しくなってきましたか。アリケース(笑)

久野

欲しいです。そもそも虫が嫌いじゃないんで。

安田

久野さんの奥さんは、これを7,000円で買っても怒らない人ですか。

久野

絶対に怒られると思う(笑)

安田

普通は怒られますよね(笑)

久野

会社に置いたほうがいいかも。

安田

社員に怒られますよ。

久野

でも真面目な話、競争がないマーケットでやるのは、すごく大事だと思います。大きなマーケットだと大手資本がやり始めちゃうので。

安田

ですよね。

久野

100に1人とか。それでも多いかもしれない。

安田

300人に1人とか、500人に1人ぐらい。

久野

そうですね。

安田

それぐらいニッチになると、広告を打たなくても好きな人が集まってきそう。きちんと情報さえ発信してれば。

久野

そういうビジネスってMBAとか、ビジネスをバリバリにやってる人からは出てこないんですよ。本当に好きな人じゃないと。

安田

ビジネス感覚があると逆にできないでしょうね。

久野

ビジネス的に考えたらアリには行かないです。

安田

ちゃんと考えたら犬か猫に行くでしょうね。マーケットも大きいしお金もたくさん使ってくれるし。

久野

だから犬や猫の専門店が増えましたよ。

安田

昔は専門店なんてなかったですけど。近所のペットショップでカブトムシから、鳥から、ごちゃ混ぜに売ってました。

久野

百貨店の屋上とかで売ってましたよね。

安田

売ってました!

久野

今はぜんぶ専門店化してます。

安田

確かに。クワガタ専門的とかありますよね。

久野

よりニッチになっていくんでしょう。

安田

ニッチなマーケットでも拡大したがる人はいそうですけど。

久野

経営者は「拡大が止まると危ない」というイメージを持っているので。

安田

「去年より大きくしなきゃいけない」という、恐怖心みたいなのがありますよね。だけど大きくなるほど真似しやすくなるから。

久野

大きくなる過程でマニュアル化されるので。やるなら、とことんまで大きくするしかないです。

安田

それしかないですよね。

久野

もしくは「あえて大きくしない」という選択をするか。

安田

これまでは大手の下請け、孫請け的な中小企業が多かったじゃないですか。

久野

はい。下請けという仕組みが十分機能していました。

安田

だけど時代が変わってしまって。もはやミニチュア大企業みたいなのは成り立たないですよ。

久野

全く別のコンセプトが必要になってますね。このアリ屋さんみたいな。

安田

『AntRoom(アントルーム)』という立派な株式会社みたいです。

久野

女王アリとか売ってますもんね。けっこう高い(笑)アリ一匹1,048円。女王一匹+働きアリ30匹で2,900円。

安田

アリを売っちゃう発想がすごいですよ。

久野

資本主義のど真ん中にいる会社はでかくなるしかないんです。中途半端なサイズ感じゃもう生き残れないので。

安田

「スケールしない事業をやるやつはバカだ」って、昔はよく言われましたけど。

久野

今はとことん大きくするか逆に大きくしないか。スケールか、スモールか、それを決めなくちゃいけない時代です。

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久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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