第35回「なぜ副業は普及しないのか」

この記事について
税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第35回「なぜ副業は普及しないのか」

安田

副業って今、問題になってるんですか?

久野

労務管理という観点で「副業ってやっぱできないよね」となってます。

安田

それはどういう理由で?

久野

いちばん難しいのは労働時間ですね。

安田

労働時間?

久野

たとえば、とうかいで働いた後にコンビニで働いてますと。かなり疲れますよね。

安田

めちゃくちゃ疲れそうです。

久野

本人にとっては残業してるみたいなものですよね。

安田

そうですね。

久野

でも残業代のような1.25倍の時給は払えないよと。

安田

そりゃあ払えませんよね。コンビニとしては。

久野

とうかいとコンビニと「残業はそれぞれで管理しましょう」ってことになるじゃないですか。

安田

そりゃあ、そうなるでしょうね。

久野

でも「いやいや、それじゃあ健康を害するじゃないですか」ってことです。

安田

なるほど。

久野

政府としては「A社とB社の足し算」みたいな残業の定義はやめたいんですけど。

安田

それに反対する人がいるんですか?

久野

います。反対派はとにかく「従業員の健康が大事」だと。

安田

誰が反対してるんですか。政治家ですか?

久野

基本的には政治家ですね。この手の話になると必ず出てくる人たち。

安田

なるほど。副業反対の票を狙ってる政治家ですね。

久野

そうです。

安田

その人たちは、どういう主張なんですか?

久野

「もっと本業の報酬を増やせ」という主張ですね。

安田

「本業と副業で半分ずつ稼いでる」とか「3社で3分の1ずつ稼いでる」みたいな人は、どうしたらいいんですか?

久野

今後はそういうケースが増えていきますよね。

安田

はい。そうなったら「もっと本業の報酬を増やせ」という主張は通らないですよ。

久野

どれが本業か分かりませんからね。

安田

もはや正社員って扱い自体が難しくなるじゃないですか。

久野

結局、副業がどんどん進んでいくと、雇用という概念がなくなると思うんですよ。

安田

ですよね。

久野

でも彼らには「仕事終わった後に時間を切り売りする」という副業の発想しかないんです。

安田

困ったもんですね。

久野

副業って本来、もっと業務委託的なイメージだと思うんですよね。

安田

そうならないと意味がないですよ。時間を売る仕事だと24時間が限界だし、そんなに働いたら絶対に健康を害するし。

久野

発想が古いんですよ。それこそ昼休みに考えたアイデアを売るとかでも、ぜんぜんいいわけじゃないですか。?

安田

まさに、それこそが副業ですよ。

久野

昼休みといえば、トレーニングがてらUber Eatsをやる人が増えてるそうです。

安田

昼休みに?

久野

休憩時間に。ジムに行く感覚で自転車に乗って、牛丼とかハンバーガーとかのデリバリーをするんです。

安田

トレーニングと一石二鳥だと。

久野

はい。

安田

そういえばポスティングっていう仕事があるんですけど。

久野

チラシをポストに放り込む仕事ですよね。

安田

はい。年金もらってるおじいちゃんが散歩のついでにやるんですって。ちょっとしたお小遣い稼ぎ。散歩も兼ねて。

久野

いいですね。スマホ持ち歩いとけば「今日はこれだけ歩きました」みたいな。

安田

これだけお小遣いも稼げました。みたいな。一石二鳥。

久野

ちょっと発想を変えれば副業も変わるような気がするんですけど。

安田

いくらでも変えられますよ。働くことは悲惨だという前提がありすぎるんですよ。

久野

会社にとっても都合の悪いことがあるんですよ。副業って。

安田

辞めちゃうとかですか?

久野

そう。副業で稼いだら社員が辞めていくと思ってる。辞めない自信のある会社は「イノベーションにつながるかも」って賛成しますね。

安田

辞めたら辞めたでいいじゃないですか。

久野

「重要な技術や顧客情報が流出する」みたいな危惧もあって、難航してますね。

安田

なるほど。会社側もそんなに乗り気じゃないと。

久野

大手の優秀な人でも「何を副業にしていいか分からない」って人がほとんどですし。

安田

やりたいことを、やればいいのにと思うんですけど。副業って「お金が足りない」っていうのが前提なんですかね。

久野

大多数のイメージはそうじゃないですか。

安田

じゃあ働く側としても、本音では副業を禁止して欲しいんですかね。

久野

その分の給料が増えるなら、そっちのほうがいいんじゃないですか。

安田

でもそんなの絶対無理じゃないですか。会社が保たない。いまでもギリギリなのに。

久野

今、残業の上限規制がすごいじゃないですか。

安田

はい。

久野

残業が減って、早く帰らされて、逆にお金が足りなくなった人が増えてるらしいです。

安田

時間があるとお金使っちゃいますもんね。

久野

で、結局お金が足りないから、時給仕事で副業してしまう。

安田

それで健康に何かあったら、本業の会社が責任取らされるってことですよね。

久野

あまりにバランスが悪すぎなんですよ。

安田

労働者により過ぎってことですか?

久野

はい。今のままだと会社が副業を認める価値がない。副業されて情報が出てくかもしれないし、副業で疲れて出社してきてもクビにできないし。

安田

たとえば大手企業だったら、今リストラがすごいじゃないですか。

久野

はい。

安田

副業を機に、社員をリリースしたいっていう狙いもあるんじゃないですか。

久野

それが出来るなら、どんどん副業させるでしょうね。

安田

今後はどうなるんですか。タニタみたいに雇用契約を業務委託契約に変えていくとか。

久野

本人が望めばそういうケースも出てくるでしょうね。

安田

社員と合意していても、タニタさんなんかは叩かれてますけど。

久野

何とかして阻止したい人が一定数いるんですよ。

安田

どうして、そこまで反対するんでしょう?

久野

業務委託契約って、辞めるのとほぼ一緒ですからね。法的には。

安田

本気で好きなことを副業にしたいんだったら、本業の収入を減らすぐらいの覚悟は必要だと思いますけど。

久野

そこまで覚悟してる人が、まだいないってことですね。



久野勝也
(くの まさや)
社会保険労務士法人とうかい 代表
人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。
事務所HP https://www.tokai-sr.jp/

 

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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