第239回 日本のインフラは誰が支える?

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第239回「日本のインフラは誰が支える?」


安田

大阪万博の工事が進んでなくて、もう間に合わないって言われています。

久野

間に合わないですよね、これ。

安田

だけど責任者は「間に合う」と言ってまして。間に合わないとは言えないんですかね。

久野

これは2024年問題の一環でして。2024年4月から残業の上限規制が建設業に適用されるんです。

安田

2024年問題?

久野

もう無理な残業はできないってことですよ。建設業ってすごく法律を遵守する業界なので。

安田

意外ですね。現場ではむちゃくちゃやってそうなのに。

久野

公共工事の下請けが多くて、国の影響がすごく強くて、しっかり法律を守るんですよ。

安田

へえ〜。

久野

「残業の上限規制は絶対守る」という暗黙の了解が、他の業種よりずっと強いわけです。

安田

大阪万博に関しては「残業規制を適用外にしてくれ」と言ってますよね。そうじゃないと間に合いませんよって。ここは特別に認めるようになっていくんですか。

久野

これは相当難しいと思います。適用外になるのは災害とかの特殊なケースだけなので。確かに国家のプロジェクトですけど、そんなことはやっちゃいけないです。

安田

じゃあ、どうやって工期を間に合わせるんですか。

久野

是が非でも人を連れてくるんじゃないですか、最後は。

安田

どうやって連れてくるんですか。どこの建設現場も人が足りないと言われてるのに。

久野

オリンピックの時も問題になりましたよね。工期を詰めすぎて。パワハラだって。

安田

当時よりコンプラはさらに厳しくなってるわけで。残業させたら誰かが絶対に書き込みますよ。すぐにバレちゃう。

久野

まあ政府も建設とは密接に絡んでいるので。たぶん最後は鶴の一声みたいなのがあって、全国から人をかき集めてくると思います。

安田

全国から集めるにはかなり大きな予算が必要です。

久野

予算はつけるんじゃないですか。一応これ国家プロジェクトですから。

安田

他に方法がないですよね。規制を緩めるか予算を増やすか。

久野

仮に残業させても割り増し賃金が出るので。どちらにしても予算は増えるんです。

安田

なるほど。

久野

なので集めると思います。そのぶん地方が手薄になっていきます。

安田

地方の現場はどうなるんですか?

久野

さらに価格が上がると思います。どちらにしても2024年を過ぎると、もう現場で無茶な残業はできなくなっていきます。

安田

今でもこれだけ人が足りていないのに。どうするんですか。道路とかトンネルとか、どんどん劣化していきますけど。トンネルの崩落もあったじゃないですか。

久野

もうこれからは余計な工事はしなくなるんじゃないですか。

安田

余計な工事?

久野

日本は人が住んでいないところでも道路を綺麗にするじゃないですか。もうこれからは取捨選択せざるを得ないと思う。

安田

いやいや。少ないだけで何人かは住んでいると思いますよ。

久野

そういうところが取捨選択されちゃうということですね。

安田

そうせざるを得ないですよね。ある程度は固まって住んでもらって。でないとインフラが維持できないです。「地方はどうでもいいのか」って言う割に税金をあげると怒るし。

久野

インフラ工事に関しては「やらない」とは言わないと思います。だけどもう間に合わないんです。町で唯一の建設会社の1番若い人が60歳とか、そんなレベルまで来ていて。土砂崩れが起きても工事をやるのが大変。

安田

60歳が一番若い!日本の暑さだったら死んでしまいますよ。

久野

だから死なないようにのんびりやるんです。

安田

なるほど。インフラ工事は高齢者がゆっくりやっていくと。

久野

政府の目論みでは技術革新が進んでる予想だったみたいで。2024年には人手が少なくてもいけるだろうって。でも実際はほとんど変わってないです。

安田

インスタやFacebookの動画にはすごいロボットが出てきますけど。でも現実はおじいちゃんが一生懸命アナログでやるってことですね。

久野

運送業も「自動運転になってるから大丈夫」って言われてたじゃないですか。だけど全然イノベーションが追いついてないです。

安田

若い子は条件のいい仕事しかやらないし。日本のインフラは60歳以上で支えるしかないんでしょうか。

久野

いずれ価格が上がるでしょうから、報酬も増やして労働環境も良くしていかないと。そうじゃないと日本は現場から滅んでいきますよ。インフラは国を支える根幹ですから。

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久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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