7年前に採用ビジネスやめた安田佳生と、今年に入って採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。
第45回「ホントに使えるのは誰?」
石塚さんって、人材紹介業をやってたじゃないですか。
はい。ずっとそれが本業でした。
「大企業で働いてる」とか「元大企業」って人に、ものすごい数会ってると思うんですけど。
はい。数えきれないぐらい会いましたね。
大企業といえども、できる人とできない人って、いますよね?
明確に分かれますね。
どうやって見抜いていたんですか?できる・できないを。
過去から現在までの仕事説明を聞けば「できる・できない」は、すべて明確に出ます。
そんなに明確に出ますか?仕事の説明を聞いただけで。
はい。明確に出ます。
「自分はすごい成果出してました」って普通はPRすると思うんですけど。
もちろん。ただ僕もプロなんで、そこから具体的に掘り下げていくわけですよ。
掘り下げる?
どうしてそうなったのか。そのプロセスにおいて誰のどういう力を借りたのか。どこまでが独力で、どこまでが看板の力なのか。そういう細かい具体的な掘り下げ。
じゃあ、仕事の実績がすべてですか?
それしかないですね。仕事の履歴でしか見ないです。
なるほど。で、できない人はどういう話をするんですか?
できない人っていうのは、非常に抽象的な話をするんです。
たとえば、どんな感じで抽象的なんですか?
たとえば「プロジェクトを統括した」「プロジェクトを立ち上げた」以上、と(笑)
そういう時はどうするんですか?
「そもそも、これって、どうやって始まったんですか?」「あなたが発案されたんですか?」って聞きます。
「私が発案しました」って言いそうですけど。
もちろん、そう言うんです。で、それがどの程度のものなのかを、確かめていく。
問い詰めていくと。
いやいや、べつに取り調べじゃないんで。「おい、おまえ、これ本当か?」みたいな訊き方したら、そこで終わっちゃいますから。
じゃあ、どうするんですか?
まずアイスブレイクを十分にして、2割増しぐらいで「いやぁ~、安田さん、すごいですねぇ。いやぁ~、素晴らしいですよ」って。
なんか、いやらしいですね(笑)
でもこれ絶対に必要なんですよ。ちょっと気持ちよくして、ガードが下りたところから本番が始まる。
なるほど。まずはガードを下げさせると。
下がったところで「安田さんをいい会社にご紹介するために、もっと詳しくお聞きしたいんですけど」って。
なるほど。ここから掘り下げていくわけですね。
細かい話が始まるんですけど、決して追い詰めない。べつに自白させることが目的じゃないので。
追い詰める必要はないってことですか?
はい。説明の仕方、やり取りのプロセス、コミュニケーション力、表情。20分あれば「仕事できる・できない」は分かります。
凄いですね。
それでメシ食ってましたから。
「この人は仕事ができない」って見切る瞬間とか、ありますか?
「具体的に教えてください」って言っても抽象的だったり。あと、説明が長い。仕事ができない人は総じて説明が長い。
説明が長い人はダメですか?
ダメですね。そういう人って、説明しながらどんどん外れていく。
いやいや、本人は大まじめですよ。
まじめに答えてるつもりが、回答が的を射ていないっていうことですか。
もともと本人の中に答えがないんですよ。でも本人はあると思ってる。
なんと!大企業にも、そんな人にいるんですか?
そんな人だらけです(笑)
でも、そんなレベルでは、そもそも大企業に入れないと思うんですけど。
22~23歳の時の就活レベルは高いんですよ。
元のレベルは高かったけど、ダメになっていくってことですか?
「ビジネス」と「勉強」とは違いますよね。
まあ、勉強とは違いますね。
これを結構混同してるんですよ。日本の大企業って。
え!そうなんですか?
はい。いちばんタチが悪いのは「意識が高くて、勉強ができるバカ」。こんなこと言うとまた刺されるけど。
意識が高くて勉強ができる。でもバカだと。それって、どういう状態なんですか?
たとえば、あるお題が出て商品開発するとしますよね。
はい。商品開発。
たぶん、安田さんのアプローチとぜんぜん違うんですよ。
まあ、私は自己流ですから。意識高いバカな人は、どういうアプローチなんですか?
まず、大量のデータを集める。アンケートをしようとか。で、アンケートも調査会社に頼む。そこで資料が上がってくる。
つまり、外注から始まると。
で、「これをどうフレームワークにあてはめて分析するかだ」とくる。そんなプロセスでできた商品って、ウケるわけないじゃないですか。
まあ、そうですね。みんなが「いい」っていう商品が売れるわけじゃないですから。それで売れたら苦労しません。
大企業の仕事って、一言でいうと「気象予報官」なんですよ。
気象予報官?
「明日は晴れるでしょう」と。大量のデータと、いろんなデータ解析によって予報する。でも必ず当てられるかというと外れる時もある。
ということは、自分発でアイデアなり、商品なりを考えないってことですか?
そんな必要もないし。
え!必要ないんですか?
だって、仕事として開発をやってるだけなんで。
どういうことですか?
商品が売れるかどうかとか、失敗したら借入金が返せないとか、そういうのとほど遠いところにいるんですよ。
じゃあ、「開発しました」ってこと自体が重要だと。結果云々ではなく。
だってワンショットで10億ぐらい簡単にやれちゃいますから。調査だけで1,000万2,000万かけたってべつにぜんぜん平気。
結果が出なくても?
それが大企業の当たり前のコスト感覚なんですよ。それでスベったからって、そもそも責任なんてそんなに明確じゃない。
よくそれで成り立ちますね。
だから今、問題になってるんですけど。
ちなみに、転職マーケットで評価が高いのは、どういう人ですか?
私がオススメするのは、修羅場体験している人ですね。
修羅場ですか。
主流とか出世ルートから外れてる人。そういうのに乗ってない人のほうが、活躍する人は多いです。
どうしてですか?
早々に関連会社とかに出向させられて、現場で汗を流してるから。
じゃあ、現場力のある人は、大手では出世しないってことですか?
そもそも順調に出世していく人って、そんなドロドロした現場には行かない。
じゃあ、管理職はできるけど、現場はできないってことですか?
大企業って軍隊型組織だから。作戦本部の参謀の方が上なんですよ。
そういう、いわゆる大手のエリートって、転職市場では人気あるんですか?
いや、転職は無理ですね。そもそも、そういう人は作戦本部に入ったら、絶対出ないです。
それは、自分の市場価値を分かってるからですか?
いや、転職自体をすごく下に見てるから。「自分は、保守本流の選ばれしエリートだ」って意識がすごいです。
石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。
安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。