7年前に採用ビジネスやめた安田佳生と、今年に入って採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。
前回は 第51回『序列と格と上下関係』
第52回「銘柄を背負い続ける人たち」
たとえば「俺がＮＥＣをかえてやる」とか「東芝をかえてやろう」みたいな人が入ってくるとするじゃないですか。意欲をもって。
どこから入るんですか？
新入社員で。
それは申し訳ないけど無理ですね。
「私がＮＥＣや東芝を変えます」って言った時点で採用されない？
いや、入れたとしても、誰もそんな話は聞いてくれないですよ。
まぁ実績積まないと聞いてくれないでしょうね。
その実績積むのに何年かかると思いますか。
確かに。2〜3年では無理ですよね。
ひょっとすると、ジーニアスな新入社員だったら2〜3年で役員レベルの仕事をするかもしれないですよね。
そういう人も世の中にはいるじゃないですか。
でも、やっぱり、役員にはなれないんですよ。
じゃあ、そういう人も大企業の色に染まっていくんですか。それとも組織を飛び出しちゃうんですか。
両方のケースがありますね。出る人は見切りが早いです。
そういう人はベンチャーに転職するんですか？
もしくは自分で起業しちゃう。こっちの方が多いかな。前にも言いましたけど、今はすごくお金がつきやすいので。
そういう意欲のある人が、40歳ぐらいまで耐えてから飛び出すってことはないんですか？
そこまで行ったら、もう飛び出さないです(笑)
やっぱりそうですか。
入社5年以内じゃないですか。30過ぎてからっていうのは、あまり聞かないですね。
30歳を過ぎると「もう染まってしまえ」と割り切るんですか？
染まってるという自覚とか、染まっていったという記憶もないと思います。ただ目の前の、部分最適の仕事を一生懸命やってるだけ。
じゃあ、自分でも気がつかないうちに。
大企業ってそうじゃないですか。あまりに大きいから。目の前のことを一生懸命やっていったら気が付いたらそうなる。
じゃあ30歳を過ぎた人の定着率は高いんですか。
大企業は、ある一定年数を過ぎると定着率がめちゃくちゃ高い。ほぼ100％です。40過ぎて辞めるって、介護とかご家庭の事情を除けば、ほぼゼロじゃないですかね。
じゃあ早期退職についてはどうなんですか？応募する人がたくさんいますけど。
それはチャンスだと思ってるんですよ。お金がバサッともらえるから。
それは優秀な人の話ですよね。
優秀であればあるほど早期退職は前向きになりますね。
2000〜3000万ですよね。もらえる退職金って。
おっしゃるとおり。それだけのお金があればリセットできますから。
でも大企業で40過ぎまでいたら、そのぐらいの貯蓄はあるんじゃないですか？
貯蓄はほとんどないですね、子供の教育費と住宅ローンが高いから。大企業のサラリーマンほどお金持っていないですよ。
今の若い人たちは質素な生活しますけどね。
いやー、今の40以上はみんな見栄張ってますよ。
そういう人って、定年になった後はどうするんですか？ずっと見栄張れないでしょ。
東京23区で、老人クラブや老人会の加入率がいちばん低い区って、どこだかわかります？
老人会ですか？いや、分かりません。
世田谷区なんですよ。
世田谷区は老人がたくさんいそうですけど。
いるんですけど加入率が低い。なぜだと思います？
世田谷って、大企業にお勤めだった方が住んでるから、上下関係が厳しいんですよ。
え！近所付き合いに上下関係なんてあるんですか？
これがあるんですよ。格下の人から気楽に「石ちゃん！」なんて言われたら、「お前俺を誰だと思ってるんだ」と。
それは会社員時代の肩書きってことですか？
はい。
そんなの社外の人からみたら関係ないじゃないですか。
でも本人はそれが世界だから。退職しても、何歳になっても、自分を変えられない。
それ本当なんですか？
はい。だからゲートボールはなくなって来てます。
ゲートボール？
ゲートボールは団体戦だから。一流企業を出た人が、めちゃくちゃ鬼のように、陣頭指揮とって仕切るんですよ。
遊びなのに？
はい。だから楽しんでやっているのに切なさしかない。外すと「何をやっているんですか！」ってなる。
もはや接待ゲートボールですね。
遊びがない世代だから。全部ミッションになってしまうんですよ。
ミッション？
「おれが指導しなくては」って思ってるんですよ。「おれがマネジメントして立て直さなくては」みたいな余計なお世話というか、勝手な使命感というか(笑)
迷惑な老人ですね。
そういうおじいちゃん多いらしいですよ。世田谷に限らず都内は。だからゲートボールが廃れて、今は一人でやれるグランドゴルフ。
そういう人がいるとチームプレーは楽しくないですもんね。
そりゃあ楽しくないでしょ。「日ごろの練習が足りないんじゃないですか」とか言われたら。
本当にそんなこと言うんですか？
ホントです、これ全部実話です。
じゃあ、そこまで言って、本人が失敗したらどうするんですか？
だから本人は、人一倍練習するんですよ。
そういう人って練習が好きなんですか。
なんでもモーレツにやるんですよ(笑)努力するプロセスが好きな人たちですから。それを「ゆるくやろう」って言ったら、宇宙人が来たかと思いますよ。
そういう人たち同士は仲悪いんですか？
すごく連帯感が強いですね。お互いに「日本経済をけん引してきた銘柄企業出身だ」って自負がありますから。
自分たちがけん引してきたって思ってるんですか？
それは強烈にありますよ。一緒に飲んだ時の、あの「日本経済は俺が引っ張ってるんだ感」「この会社は俺が背負ってるんだ感」。思わず笑っちゃいそうになります。
言っちゃ悪いですけど、大きな組織の一部品みたいなもんじゃないですか。そういう感覚はないんですか？
ご本人にはないですね。
じゃあ一生その会社のブランドを背負って生きていくと。
それ以外の生き方を見つけられないんですよ。
石塚毅
（いしづか たけし）
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。
安田佳生
（やすだ よしお）
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。
