第133回「いい銀行員の境目」

この記事について

2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第132回「コロナ危機の境目は年収500万」

 第133回「いい銀行員の境目」 


安田

久しぶりに銀行の話をしたいんですけど。

石塚

はい。

安田

メガバンクから地銀に「行員を派遣させる制度」をつくろうとしてるって。

石塚

Yahooニュースに出てましたね。

安田

大手の銀行から地銀に行員を派遣したり、あるいは中小企業に派遣したり。この目的は何ですか。

石塚

そこは単純で、希望退職に応じた方の再就職先を本店人事部がお世話できないから。

安田

お世話できない?

石塚

お世話できない。再就職先を紹介できないんですよ。

安田

つまり転職してほしいけど「転職先が見つからない」ってことですか。

石塚

辞めてもらうんですけど。今までは「次もこちらから紹介するよ」ってのが銀行の慣例だったんですよ。

安田

早期退職を募るときに、退職金を払うと同時に「次の就職先もお世話する」と。

石塚

そうです。

安田

なるほど。それが見つからなくなった。

石塚

見つからないです。充足率は大体2割ぐらいです。

安田

なぜ見つからなくなったんですか?

石塚

銀行出身の人を必要としてないからです。

安田

銀行員を採用するメリットが減ってきたってことですか。

石塚

おっしゃる通りです。潮目が変わったのは銀行が貸し剥がしするようになってから。

安田

貸し剥がし?

石塚

はい。銀行のOBを財務課長や部長として置いても、銀行は手心を加えない。回収するときは回収する。あるいはOBが融資を申し込んでも機能しないことも多い。

安田

昔は融通が利いたんですか?資金を回してもらえたり、多少業績が悪くても貸し剥がしされなかったり。

石塚

はい。でも今は「そんなこと言ってられないよ」って。それで政府が慌てて「モラトリアム法」をつくったわけです。

安田

亀井静香さんの?

石塚

そう。当時の金融大臣が「そんなこと言わないで、ちょっと猶予してやれ」って。つまり国策として「銀行への返済を止めてOK」という法案ができた。

安田

なるほど。

石塚

そういう歴史があって、今はもう一般企業も銀行をあてにしてないわけです。特に優良企業なんて銀行そのものがいらないわけですよ。

安田

べつに銀行から借りなくてもいいと。

石塚

おっしゃる通りです。

安田

だから銀行員を採用するメリットがなくなった。

石塚

それともうひとつ。銀行員が致命的なのは決算書を見慣れてること。

安田

どういうことですか?

石塚

銀行員は有名大出身のエリート意識の高い方が多い。だからみんな「自分は経理財務のプロである」と思ってるんです。

安田

思ってるでしょうね。

石塚

ところが事業会社の経理財務って全く筋肉の使い方が違う。決算書を見て分析できるだけでは役に立たないんですよ。

安田

具体的にはどう役に立たないんですか。

石塚

いわゆる経理財務の実務ができない。

安田

なぜできないんですか?

石塚

それは簡単な話で。「決算書読む」ことはできるけど、「決算書を組む」ってことをやってこなかったから。

安田

なるほど。

石塚

そうすると彼のために「手を動かす人」を必ず1人付けなきゃいけない。余計な人件費が増えるし、そもそも本人の報酬も高い。

安田

経理ができないのは分かるんですけど財務に関してはプロですよね。「こういう企画書をもっていけば銀行は金貸すよ」ってアドバイスできるんじゃ?

石塚

優良企業ほど銀行のような間接金融の調達っていらないんですよ。

安田

マーケットから調達する方がいいってことですか。

石塚

おっしゃる通り。今は世界中から集められるじゃないですか。

安田

確かに。じゃあ「リストラしても次を紹介できなくなったので、中小企業や地銀に行かせる」ってことですか。

石塚

おっしゃる通りです。

安田

ちなみに中小企業や地銀は引き受けるんですか?大手銀行の行員を。

石塚

今は余裕ないから引き受けないと思います。

安田

でも制度化するってことは「引き受けなさい」ってことですよね。

石塚

つまり押し付けですよ。

安田

中小企業や地銀さんが「ほしい」と言ってるわけではない。

石塚

全く違います。

安田

大手の行員さんが地銀に行ったら役には立つんですか。

石塚

立たないと思います。

安田

仕事のやり方が違うんですか。

石塚

地域のネットワークもなければ、そういうノウハウもないので。

安田

中小企業なら借り入れのニーズはありそうですけど。マーケットから調達するのも簡単じゃないし。

石塚

そうですけど。そこの融通が効かなくなったので。

安田

なぜ融通を効かせないんでしょう。「自分たちの行く先」になるかもしれないのに。「ちょっと手心加えておこう」とはならないんですか。

石塚

ならないですね。そもそも資金に困ってるような会社には行かせたくない。お金も貸したくないし。

安田

それが銀行の不思議なところですよね。必要なところに貸さないで必要ないところに「借りてくれ」って言ってくる。

石塚

それが日本の銀行ですから。

安田

でも優良な企業は大手からの行員なんていらないでしょう。

石塚

要らないです。

安田

なんかすごく矛盾してるように感じるんですけど。

石塚

これまでの歴史を見ると、銀行は都合のいいときは自分のリクエスト言うけど、いざって時にはまたドアを閉める。

安田

そんなことしたら受け入れ先がなくなりますよ。ちょっと手心を加えて「いざという時お願いします」ってなりそうなもんですけど。

石塚

いや、ならないです。

安田

自分の将来は考えないんですかね。

石塚

安田さんの感覚からすると信じられないと思いますけど。

安田

どうしてそうなるんですか。

石塚

銀行員って会社に対するロイヤリティがめちゃくちゃ高いんですよ。自分のことより銀行。信じられないぐらい従順なんです。

安田

自分の人生よりも?

石塚

そうなるように新卒の時からずっと教育してるわけです。

安田

恐ろしいですね。なぜそんな業界がいまだに学生に人気なのか。

石塚

学生は世の中を知らないから。そういう人たちがいい銀行員になっていくんです。

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石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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