第134回「帰りたくないのは誰?」

この記事について

2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第133回「いい銀行員の境目」

 第134回「帰りたくないのは誰?」 


安田

オリンパスでも950人のリストラがありました。

石塚

かわいそうに。

安田

一方で株価は上がっていて。離職率もリーマンショックほどではないと言われてます。

石塚

リーマンショックって、おしなべてどの会社も悪かったし、まず金融機関自体が止められたじゃないですか。

安田

そうですね。「お金が止まっちゃった」というイメージです。

石塚

でもコロナって別に金融機関そんなに影響ないですよね。

安田

そのわりに大手さんはリストラしまくってますけど。

石塚

コロナに乗じてやってるだけです。

安田

やっぱりそうですか。

石塚

今は新聞もメディアも叩きませんから。株主は「むしろ調子のいいときにさらに筋肉質にしろ」と思ってる。

安田

なるほど。だから株価には影響しないと。

石塚

おっしゃる通り。つまり今はリストラに踏み切るネガティブなものが何もない。これが業績悪くて2期連続赤字で「経営陣は責任取れ」って話になると株価は下がる。

安田

逆に人を切れば株価は上がりますもんね。

石塚

余剰人員を整理すれば利益が増えますから。

安田

世間の批判対象は今ぜんぶ政府にいってるし。

石塚

その通りです。だから今のうちにコロナに乗じてって感じですよ。

安田

オリンパスもじつはリストラしなくても余裕あるんですか。

石塚

あそこは創業事業であるカメラがもうメタメタなので。全社の足を引っ張ってます。

安田

カメラに代わる事業がない?

石塚

内視鏡の事業はいいんですけどね。コロナの影響で検査の件数自体が減ってしまった。だから機器の販売が鈍っている。

安田

そういう前提があってのリストラだと。

石塚

「カメラ事業は売却をして内視鏡事業に集中します。だからリストラです」というロジックですね。

安田

先を見据えたリストラということですね。

石塚

そうです。

安田

大手はみんなそんな感じですね。この先マイナスを抱えそうなところは「この機会に全部整理しとこう」っていう。

石塚

そう。余裕があるうちに。とにかく将来何が起こるか分からないし、手元に蓄えがあるうちに「マイナスのものをどんどん外して身軽になろう」と。

安田

国としては、会社の中に押し込めたいわけですよね。

石塚

年金払えないから。

安田

そうですよね。でも石塚さんの見立てでは大手もそんなに余裕はない。

石塚

ないですね。先を見たら。

安田

ということは国もお手上げで、企業もお手上げ。

石塚

そういうことになります。

安田

だったら、どうなるんですか。これから。

石塚

想像したくもないですけど相当悲惨なことが待ってると思う。もちろん全部の会社が駄目ってことじゃないので、リーマンショックとの違いはありますけど。

安田

ダメじゃない会社もリストラはするんですよね。

石塚

「今のうちにリストラしよう」「リストラすれば株価も上がるし、われわれの役員報酬も上がる」「よしリストラだ」みたいな流れです。

安田

みんな深刻そうな顔してますけど。

石塚

深刻そうな顔をして内心は「うふふ」ってほくそ笑んでる。それが現実だと思う。

安田

役員は自己保身しか考えてないと。

石塚

そう思いますね。残念ながら。大企業勤務って本当はリスクがすごくあるんですよ。今業績がよくても次に何が飛び出してくるか分からない。

安田

怖いですね。

石塚

お化け屋敷にいるような感じ。今どっちのサイドに自分が立っているかによって全然違う。

安田

リストラされた人たちはどうなるんでしょう。40代、50代の人を積極採用する会社って、あんまりないですよね。

石塚

ないでしょうね。一部の例外を除いて。

安田

一部の例外ってどういう会社ですか?

石塚

若年者採用を止めたツケが10年後、15年後にきている会社。中間管理職が足りないんですよ。それと急成長して管理職が足りなくなった会社。このどちらかですね。

安田

そういう会社は「名前だけ管理職」みたいな人でも就職できるんですか。

石塚

いや、かなり競争は厳しいです。1社の応募に400~500人は来る。

安田

そんなに!じゃあ多くのリストラ組は行く場所を失いますね。

石塚

だからベーシックインカムを検討してるんだと思う。

安田

なるほど。

石塚

日本は遅かれ早かれ、北欧型の社会民主主義みたいにならざるを得ない。僕はそう思います。

安田

社会民主主義?

石塚

「納税負担は高いけど、その分ベーシックインカムや社会保障は充実してる。だから消費税35%でもしょうがないよね」っていう社会。

安田

消費税が上がっても「社会保障には回らない」と言われてますけど。ベーシックインカムは実現するんでしょうか。

石塚

そうならざるを得ないんじゃないですか。

安田

年金は廃止される方向ですか。

石塚

もしくは支給年齢をぐっと上げてくでしょうね。77とか。

安田

リストラ組はベーシックインカムをあてにするしかないと。

石塚

それで家計が賄える人はいいんじゃないですか。大手企業の方は生活水準が高いので厳しいでしょうけど。

安田

そうですよね。

石塚

まずそこをリストラしないと。

安田

会社にリストラされたら、まず家計をリストラしなさいと。

石塚

できないでしょうけど。

安田

それは家族の理解とか、そういうことですか。

石塚

まずは親世代の相続があれば賄えます。あとはマイホームと子どもの教育にこだわりがなければ、なんとか切り抜けられます。

安田

本人にこだわりがなくても家族はこだわるかもしれないし。

石塚

奥さんがこだわるケースが大多数じゃないでしょうか。だから厳しいんですよ。

安田

奥さんたちはこういう現実を知らないんですか。

石塚

知らないと思います。

安田

知らないんですか!こんなにニュースになってるのに。

石塚

自分たちは別だと思ってるから。

安田

でも旦那さんは気付いてますよね。

石塚

気づいてます。だから「家に帰りたくない」って人が出てくるわけです。

\ これまでの対談を見る /

石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

感想・著者への質問はこちらから