2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。
前回は 第133回「いい銀行員の境目」
第134回「帰りたくないのは誰?」
オリンパスでも950人のリストラがありました。
かわいそうに。
一方で株価は上がっていて。離職率もリーマンショックほどではないと言われてます。
リーマンショックって、おしなべてどの会社も悪かったし、まず金融機関自体が止められたじゃないですか。
そうですね。「お金が止まっちゃった」というイメージです。
でもコロナって別に金融機関そんなに影響ないですよね。
そのわりに大手さんはリストラしまくってますけど。
コロナに乗じてやってるだけです。
やっぱりそうですか。
今は新聞もメディアも叩きませんから。株主は「むしろ調子のいいときにさらに筋肉質にしろ」と思ってる。
なるほど。だから株価には影響しないと。
おっしゃる通り。つまり今はリストラに踏み切るネガティブなものが何もない。これが業績悪くて2期連続赤字で「経営陣は責任取れ」って話になると株価は下がる。
逆に人を切れば株価は上がりますもんね。
余剰人員を整理すれば利益が増えますから。
世間の批判対象は今ぜんぶ政府にいってるし。
その通りです。だから今のうちにコロナに乗じてって感じですよ。
オリンパスもじつはリストラしなくても余裕あるんですか。
あそこは創業事業であるカメラがもうメタメタなので。全社の足を引っ張ってます。
カメラに代わる事業がない?
内視鏡の事業はいいんですけどね。コロナの影響で検査の件数自体が減ってしまった。だから機器の販売が鈍っている。
そういう前提があってのリストラだと。
「カメラ事業は売却をして内視鏡事業に集中します。だからリストラです」というロジックですね。
先を見据えたリストラということですね。
そうです。
大手はみんなそんな感じですね。この先マイナスを抱えそうなところは「この機会に全部整理しとこう」っていう。
そう。余裕があるうちに。とにかく将来何が起こるか分からないし、手元に蓄えがあるうちに「マイナスのものをどんどん外して身軽になろう」と。
国としては、会社の中に押し込めたいわけですよね。
年金払えないから。
そうですよね。でも石塚さんの見立てでは大手もそんなに余裕はない。
ないですね。先を見たら。
ということは国もお手上げで、企業もお手上げ。
そういうことになります。
だったら、どうなるんですか。これから。
想像したくもないですけど相当悲惨なことが待ってると思う。もちろん全部の会社が駄目ってことじゃないので、リーマンショックとの違いはありますけど。
ダメじゃない会社もリストラはするんですよね。
「今のうちにリストラしよう」「リストラすれば株価も上がるし、われわれの役員報酬も上がる」「よしリストラだ」みたいな流れです。
みんな深刻そうな顔してますけど。
深刻そうな顔をして内心は「うふふ」ってほくそ笑んでる。それが現実だと思う。
役員は自己保身しか考えてないと。
そう思いますね。残念ながら。大企業勤務って本当はリスクがすごくあるんですよ。今業績がよくても次に何が飛び出してくるか分からない。
怖いですね。
お化け屋敷にいるような感じ。今どっちのサイドに自分が立っているかによって全然違う。
リストラされた人たちはどうなるんでしょう。40代、50代の人を積極採用する会社って、あんまりないですよね。
ないでしょうね。一部の例外を除いて。
一部の例外ってどういう会社ですか?
若年者採用を止めたツケが10年後、15年後にきている会社。中間管理職が足りないんですよ。それと急成長して管理職が足りなくなった会社。このどちらかですね。
そういう会社は「名前だけ管理職」みたいな人でも就職できるんですか。
いや、かなり競争は厳しいです。1社の応募に400~500人は来る。
そんなに!じゃあ多くのリストラ組は行く場所を失いますね。
だからベーシックインカムを検討してるんだと思う。
なるほど。
日本は遅かれ早かれ、北欧型の社会民主主義みたいにならざるを得ない。僕はそう思います。
社会民主主義?
「納税負担は高いけど、その分ベーシックインカムや社会保障は充実してる。だから消費税35%でもしょうがないよね」っていう社会。
消費税が上がっても「社会保障には回らない」と言われてますけど。ベーシックインカムは実現するんでしょうか。
そうならざるを得ないんじゃないですか。
年金は廃止される方向ですか。
もしくは支給年齢をぐっと上げてくでしょうね。77とか。
リストラ組はベーシックインカムをあてにするしかないと。
それで家計が賄える人はいいんじゃないですか。大手企業の方は生活水準が高いので厳しいでしょうけど。
そうですよね。
まずそこをリストラしないと。
会社にリストラされたら、まず家計をリストラしなさいと。
できないでしょうけど。
それは家族の理解とか、そういうことですか。
まずは親世代の相続があれば賄えます。あとはマイホームと子どもの教育にこだわりがなければ、なんとか切り抜けられます。
本人にこだわりがなくても家族はこだわるかもしれないし。
奥さんがこだわるケースが大多数じゃないでしょうか。だから厳しいんですよ。
奥さんたちはこういう現実を知らないんですか。
知らないと思います。
知らないんですか!こんなにニュースになってるのに。
自分たちは別だと思ってるから。
でも旦那さんは気付いてますよね。
気づいてます。だから「家に帰りたくない」って人が出てくるわけです。
石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。
安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。