2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。
第135回「失敗者のニーズ」
大塚久美子さんがついに社長を辞任しましたね。
お疲れさまでしたというべきか、遅きに失したというべきか。
「本人が望んで辞めた」ってニュースには出てました。
そうじゃないと思います。経営者としては能力がなかったということ。
ヤマダ電機は「買収してからその事実に気が付いた」ってことですか。
もう折り込み済みで買ってると思います。全てシナリオ通り。
1年ほどやらせてみて「やっぱり回復できなかったから」ってことで、辞めてもらう予定だったと。
僕はそう思います。
借金からは解放されるんでしょうか。連帯保証もヤマダ電機さんが引き継いで。
連帯保証は外れてるはずです。
外れてなかったら辞めないですよね。
辞められないですよ。
社長を引き継いだときは「100億の現金と50億の有価証券」があって。今は借金もあるので200億円近くすってしまった感じです。
すっちゃったわけですね。
それだけのお金があれば悠々自適で暮らしていけそうですけど。
本当ですよね。
本人には別に後悔の念などはないのでしょうか。
少なくとも今はルンルンでしょ。
ルンルンですか。
「あー、良かった」「一時はちょっとドキドキしたけど個人保証も外れたし、ちょっと手金も残ってるし。はー!」みたいな感じじゃないですか。
「今後はコンサルタントで食べていく」とおっしゃってます。
みたいですね。
「そんなやつに誰が仕事を頼むんだ」ってネットには書かれてました。
安田さんはどう思います?
私も会社を潰しているので。自分の経験からすると「もしかしたら発注する人はいるかも」と思います。
私もそう思いますね。分野を間違わなければコンサルとして食えますよ。
そう思いますか。
はい。絶対食えます。
どういう人が発注してくるんでしょう。
同族会社で、資本政策で悩んでたら、まずこの人に相談したほうがいい。
「社長を追い出すこと」には成功したわけですからね。
業績が良くて、内部留保の厚い同族会社で、持ち株が散ってて悩んでるケース。そういうのは久美子さんに聞けばいいんですよ。
ニーズはありますか?
あると思います。「どうしたらいいんですか?」って、みんな相談したいはず。
「失敗した人」とは見られませんか?
経営の成功失敗って、そのときの環境やタイミングもあるので。僕は経営者だけの責任じゃないと思う。
世の中の評価はそうでもないですけどね。
75日もすればみんな忘れますよ。
忘れますか。
忘れます。日本人は熱しやすく冷めやすいから。で、渦中にいた人っていうのは、それを体験してるじゃないですか。これ強いですよ。
実体験が生きてくると。
こんな生々しい失敗をしてるわけで。「どうやるとまずいのか」ってことを聞くだけでも価値がある。
それって経営コンサルですか?
この人に経営コンサルティングを発注する人はいないと思う。
じゃあ何を発注するんですか。
同族企業で「父親とどうしたらいい」とか「どうやったら手を切れるか」とか「兄弟との確執を抱えてる」とか。
講演やったら人が来そうですよね。
来るでしょう。僕も1回聞いてみたいですもん。
同族経営の人にしてみたら「ちょっと話を聞いてみたい」ってなるわけですね。
ちょっとどころか今一番聞いてみたい人じゃないですか。
ちなみに久美子さんのお父さんはどうですか。「お父さんがやってても同じだった」って人もいますけど。
お父さんは多分変えなかったと思うんです。
路線を?
はい。お父さんだったら縮小しながらまだ大塚家具は残ってるでしょうね。
少なくも200億円すってしまうってことはない?
なかったと思います。お店は2割から3割減ったかもしれない。コロナを受けて売り上げも半分になったかもしれない。けど大塚家具は存続してた。
社員も安泰でしたか。
内部留保も厚いから、今ごろ希望退職とか出してるんじゃないですか。
そっちのほうが良かったんでしょうか。中にいる人からしたら。
まあ経営って後付けでは何とでも言えるので。あのときは久美子さんのやり方がベストだと思ったんでしょう。内部留保も潤沢だったし。
資本家もそれを良しとして、久美子さんに票を投じたわけですからね。
あの時点で有名なコンサル会社が入ってるはずですから。彼らの描いた経営戦略や事業戦略が外れたってことですよ。
別に久美子さん1人で考えた戦略ではなく。
ひとりじゃ無理です。
お父さんがやってる匠大塚はどうですか。まさに「規模を縮小し、同じ高級路線で、優秀な元社員だけ集めて」やってる。理想的なかたちになってますか。
業績はいいと聞いてます。
でもそれほど余裕はないでしょうね。
僕は小さなブルーオーシャンの成功例だと思ってます。匠大塚の最大の資産はファンですから。
ファンはついてきてると。
家具にこだわりのある人がほしいものがそこに行けばある。市場はぐーっと小さくしたかもしれないけど、ニトリとかじゃ絶対満足できない層もあるので。
昔からの大塚ファンが今は匠大塚に流れてますか。
はい、その通りです。
大塚家具もそっちを目指すべきだったんでしょうか。
後付けですけど「サイズをスモールダウンして残る」っていうのが正解だったのかもしれません。
それだったら、お父さんを追い出す必要はなかったですね。
もし講演に参加できたら、それを久美子さんに質問してみたいです。
石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。
安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。