2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。
前回は 第135回「失敗者のニーズ」
第136回「ほくそ笑むのは誰?」
飛行機業界はコロナで大変じゃないですか。
いやあ大変ですよ。
国としてはANA、JALをなんとか救うと思うんですけど。自分たちではもはやどうしようもないっていうか。
ANAは無理でしょう。
え!無理ですか。
日本航空と統合ですよ。
統合?
もう間違いないと思います、僕は。
2社同時に救うのは無理と。
無理。
ANAとJALって企業文化が違う気もしますけど。
そんなこと言ってられない状況ですから。
確かにそうですけど。どっちが主導権を握るんでしょう。
日本航空ですよ。だから日航は笑ってますもん。
笑ってる?
笑いが止まらないでしょ。ボーディングゲートビジネスって本当に難しい。
ANAってすごく頑張ってたのに。
ねえ。
「ANAからトヨタに出向させる」という話もありますよね。
あります。
三菱重工でも同じような話が出てました。「一時期トヨタに避難する」って。
はい。
なぜみんなトヨタに送り込むんですか。なぜトヨタがそれを引き受けるのか。とても疑問なんですけど。
正確に言うと「公益財団法人産業雇用安定センター」ってのがあるんですよ。半官半民の組織で。
何ですかそれは?
出向先を産業雇用安定センターに預けて、「余裕のあるところ」にとりあえず従業員を避難させる。
へえ。そういう仕組みなんですね。
出向先が決まったら給料の差額だけ払うんです。出向お願いしている方が。
その出向先がたまたまトヨタだったと。
そういうことです。ANAは産業雇用センターに大量に人を預けていて、その大口派遣先のひとつがトヨタ。
トヨタには引き受けるだけの仕事があるってことですか。
今のところは。
どんな仕事をやらせるんですか?ANA出身の人に。
正直なんでもいいんです。
なんでもいい?
客室乗務員であろうが、グランホであろうが、経験とかじゃないんです。そんなこと言ってられないので。これをやってくださいって言ったら、これなんです。
たとえば工場での組み立てとか。
さすがにそれはないでしょうけど。でもそれしか仕事がなかったらやらせるでしょうね。
トヨタはどれぐらい給料を負担するんですか。
トヨタは規定の賃金を払うだけ。
トヨタの社員と同じ賃金ってことですか。
そうです。
結構いい給料じゃないですか。トヨタの社員だったら。
どのグレードで受入れするかにもよりますけどね。
実質どうなんですか。人件費の半分ぐらいはトヨタが負担してる感じですか。
半分以上負担してます。ANAが負担してるのは差額分だけなので。
いずれはANAに戻る前提ですよね。
そうです。出向は原則1年間。
今はちょっと避難していただいて、コロナが落ち着いたら戻るっていう。これは社員も納得して行くんですか。
はい。ANAに戻るまでは頑張ろうってことで、みんな出向先で頑張ってます。
なるほど。
一応は戻ることが前提なので。
じっさい戻れるんですか?
無理だと思います。
なんと!
ANAは来年までお金がもたない。残念ながらJALとの経営統合になる。だから社員には大量に辞めてもらわなきゃいけない。
解雇ってことですか。
まず考えるのは今の出向先への転籍ですね。
さすがにそれは「イエス」とは言わないですよね、社員も。
他に選択肢がない人は「イエス」でしょうね。まだ若くて他に転職できるんだったら「ノー」でしょうけど。
転籍したら給料はどうなるんですか。
トヨタの給与水準になります。
トヨタは採用しますか?
産業界のリーダーなので採用せざるを得ないでしょう。社会貢献として引き受けざるを得ない。
リーダーも大変ですね。
大変ですよ。押し付けられて。トヨタだけじゃないですけど。
トヨタだけじゃないんですか。
ものすごい数あります。
ANAってコロナ前まですごく頑張ってて、業績も良かったのに。
飛行機を飛ばすためには、ものすごくコストがかかるんです。
資金がないと続けられないビジネスなんですね。
搭乗率が一定数あるから回るビジネスモデルなわけです。
搭乗率が低くても飛ばさなきゃいけないし。
そうなんです。公共性の高いビジネスなので。飛ばさないわけにいかない。でも飛ばせば飛ばすほど赤字になるっていう。
それはJALも同じですよね。JALもお金がないような気がするんですけど。
JALは一度ダメになって、ばっさりぜい肉をそぎ落としてるから。それにJALって国内線のいいところをもってるんですよ。
なんかズルいですね。漁夫の利的な。
だから笑いが止まらないんですよ。
石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。
安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。