2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。
第148回「国を変えるお祭り」
「DX人材を民から官へ」って。知ってます?これ。
もちろん。5年契約の公務員ですよね。
そうです。DX室なるものをつくり、定期契約でスペシャリストを増やしていく。
とにかく日本のお役所仕事は非効率で遅いから。最新のシステムなんて誰も使えないし。
だから使える人材を民間から引っ張ってこようと。5年契約で年収が800〜1,000万だそうです。
20年遅いけど、やらないよりはいいですね。
20年も遅いですか?
はい。完全に手遅れです。
けっこう集まってるみたいですよ。「仕事にやりがいがある」って。年収も1,000万近くもらえるし。公務員なので解雇もされないし。
人気があるのはよく分かります。
5年限定の仕事ですけどね。それでも人気がある。
たぶん、これに応募してくる人って、役所でずっと働こうなんて思ってない。
なるほど。
メリットから考えるとわかりやすいんですけど。ここに参加する面白さって、安田さんは何だと思いますか?
行政の面倒な手続きを「俺が変えてやる!」というやりがいでしょうか。
それもありますよね。あと、あんまり報道されないですけど、霞ヶ関って結構面白いプロジェクトをやってるんですよ。
へぇ~。たとえば?
たとえばデジタルサイネージ。あれ総務省が仕掛けたプロジェクトです。
デジタルサイネージ?
品川駅なんかに行くと、いろんなところにディスプレイがありますよね。
あります、あります。
あれって全部ネットワークでつながってて、いざという時いろんな情報発信ができるわけです。
そんなにすごいものだったんですか。「どんどんデジタル化していってるなあ」とは思ってたんですが。
すごいんですよ。ああ見えて。
そんなすごいものを官僚さんが考えた?
そうなんです。
なんか意外ですね。お金儲けの仕事もするんですね。
お金儲けというより、要するにメディアをつくろうとしてるわけです。
メディアですか。
日本版の新しいメディアをつくろうと。そこで着目したのが看板と自動販売機なんですよ。
へえ〜。
自動販売機って24時間・365日、電気を通してるでしょ。日本には500万台もあるそうで。
そんな面白いアイデアを考えられる人が、官僚の中にもいるんですね。
じつは各省にいろんなプロジェクトを考える人がいるんです。
だったら外部の人材なんて必要なさそうですけど。
面白い企画はあるんだけど、それを形にする力がない。官僚の世界って障害が多すぎるので。
どんな障害ですか。
事務次官や審議官が柔軟な人じゃないと進まないんですよ。
「前例がない」とか言い出しそうですよね。
ちょっと前に会食問題で更迭された人がいたでしょ。総務省の。
いましたね。
あの人なんかはすごく柔軟で、どんどんそういうプロジェクトを通してました。
へえ〜。
いなくなっちゃいましたけど。総務省には結構いいプロジェクトがあったんです。
トップが変わるとそこも変わっちゃうと。
はい。だから中の人たちだけではなかなか続かないんです。
そこで考えたのがDX室というわけですね。
はい。プロジェクトに5年間バッチリ関われて、やりがいもあって面白い。
面白いんですかね?
だって、ものすごい人数をユーザーにできる機会だから。霞ヶ関ってすごいデータを持ってますし。
国民全員がユーザーですもんね。
国のデータを見ることができる。いじることができる。これって大きな魅力ですよ。
たしかに。
多少自分の給与が下がっても「こんな面白いことはないや」って集まってくる。
5年後のキャリアステップも開けそうですよね。
おっしゃる通り。自分のキャリアに書き込めるだけですごい価値です。
こういう人材が増えれば国民も助かりますよね。
上手く機能すれば。
なぜ5年限定なんでしょう。ずっと雇いつづければいいのに。
期間限定じゃないと官僚たちが邪魔し始めますから。
邪魔し始める?
自分たちの既得権益を侵食するから。
ややこしいですね。
物事を変えるのは「よそ者、若者、ばか者だ」って言われてまして。要するに今回は「よそ者」を入れたわけですよ。
あくまでも「よそ者」だからいいんだと。
レギュラーメンバーになったら、たぶん取り込まれちゃう。でないと自分のポジションを守れないので。
ポジションを失ってまで改革するのは嫌だと。
5年限定の祭りだからいいんです。「おう、やれやれ!」って感じですよ。
自分たちの脅威にはならないから。安心なわけですね。
そう。上の人間の脅威にはならない。
下の人間にとってはどうなんですか?IT化されたら仕事が減っちゃいそうですけど。
いま国家公務員って、どれぐらいの人数が目指してるか知ってます?
ぜんぜん知りません。
キャリア官僚を目指してる人ってどんどん減っていて、ピーク時の3分の1ぐらいなんですよ。つまり各省とも人材不足なんです。
仕事が減るぐらいでちょうどいいと。
そういうことです。
石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。
安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。