第148回「国を変えるお祭り」

この記事について

2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第147回「破壊的イノベーション」

 第148回「国を変えるお祭り」 


安田

「DX人材を民から官へ」って。知ってます?これ。

石塚

もちろん。5年契約の公務員ですよね。

安田

そうです。DX室なるものをつくり、定期契約でスペシャリストを増やしていく。

石塚

とにかく日本のお役所仕事は非効率で遅いから。最新のシステムなんて誰も使えないし。

安田

だから使える人材を民間から引っ張ってこようと。5年契約で年収が800〜1,000万だそうです。

石塚

20年遅いけど、やらないよりはいいですね。

安田

20年も遅いですか?

石塚

はい。完全に手遅れです。

安田

けっこう集まってるみたいですよ。「仕事にやりがいがある」って。年収も1,000万近くもらえるし。公務員なので解雇もされないし。

石塚

人気があるのはよく分かります。

安田

5年限定の仕事ですけどね。それでも人気がある。

石塚

たぶん、これに応募してくる人って、役所でずっと働こうなんて思ってない。

安田

なるほど。

石塚

メリットから考えるとわかりやすいんですけど。ここに参加する面白さって、安田さんは何だと思いますか?

安田

行政の面倒な手続きを「俺が変えてやる!」というやりがいでしょうか。

石塚

それもありますよね。あと、あんまり報道されないですけど、霞ヶ関って結構面白いプロジェクトをやってるんですよ。

安田

へぇ~。たとえば?

石塚

たとえばデジタルサイネージ。あれ総務省が仕掛けたプロジェクトです。

安田

デジタルサイネージ?

石塚

品川駅なんかに行くと、いろんなところにディスプレイがありますよね。

安田

あります、あります。

石塚

あれって全部ネットワークでつながってて、いざという時いろんな情報発信ができるわけです。

安田

そんなにすごいものだったんですか。「どんどんデジタル化していってるなあ」とは思ってたんですが。

石塚

すごいんですよ。ああ見えて。

安田

そんなすごいものを官僚さんが考えた?

石塚

そうなんです。

安田

なんか意外ですね。お金儲けの仕事もするんですね。

石塚

お金儲けというより、要するにメディアをつくろうとしてるわけです。

安田

メディアですか。

石塚

日本版の新しいメディアをつくろうと。そこで着目したのが看板と自動販売機なんですよ。

安田

へえ〜。

石塚

自動販売機って24時間・365日、電気を通してるでしょ。日本には500万台もあるそうで。

安田

そんな面白いアイデアを考えられる人が、官僚の中にもいるんですね。

石塚

じつは各省にいろんなプロジェクトを考える人がいるんです。

安田

だったら外部の人材なんて必要なさそうですけど。

石塚

面白い企画はあるんだけど、それを形にする力がない。官僚の世界って障害が多すぎるので。

安田

どんな障害ですか。

石塚

事務次官や審議官が柔軟な人じゃないと進まないんですよ。

安田

「前例がない」とか言い出しそうですよね。

石塚

ちょっと前に会食問題で更迭された人がいたでしょ。総務省の。

安田

いましたね。

石塚

あの人なんかはすごく柔軟で、どんどんそういうプロジェクトを通してました。

安田

へえ〜。

石塚

いなくなっちゃいましたけど。総務省には結構いいプロジェクトがあったんです。

安田

トップが変わるとそこも変わっちゃうと。

石塚

はい。だから中の人たちだけではなかなか続かないんです。

安田

そこで考えたのがDX室というわけですね。

石塚

はい。プロジェクトに5年間バッチリ関われて、やりがいもあって面白い。

安田

面白いんですかね?

石塚

だって、ものすごい人数をユーザーにできる機会だから。霞ヶ関ってすごいデータを持ってますし。

安田

国民全員がユーザーですもんね。

石塚

国のデータを見ることができる。いじることができる。これって大きな魅力ですよ。

安田

たしかに。

石塚

多少自分の給与が下がっても「こんな面白いことはないや」って集まってくる。

安田

5年後のキャリアステップも開けそうですよね。

石塚

おっしゃる通り。自分のキャリアに書き込めるだけですごい価値です。

安田

こういう人材が増えれば国民も助かりますよね。

石塚

上手く機能すれば。

安田

なぜ5年限定なんでしょう。ずっと雇いつづければいいのに。

石塚

期間限定じゃないと官僚たちが邪魔し始めますから。

安田

邪魔し始める?

石塚

自分たちの既得権益を侵食するから。

安田

ややこしいですね。

石塚

物事を変えるのは「よそ者、若者、ばか者だ」って言われてまして。要するに今回は「よそ者」を入れたわけですよ。

安田

あくまでも「よそ者」だからいいんだと。

石塚

レギュラーメンバーになったら、たぶん取り込まれちゃう。でないと自分のポジションを守れないので。

安田

ポジションを失ってまで改革するのは嫌だと。

石塚

5年限定の祭りだからいいんです。「おう、やれやれ!」って感じですよ。

安田

自分たちの脅威にはならないから。安心なわけですね。

石塚

そう。上の人間の脅威にはならない。

安田

下の人間にとってはどうなんですか?IT化されたら仕事が減っちゃいそうですけど。

石塚

いま国家公務員って、どれぐらいの人数が目指してるか知ってます?

安田

ぜんぜん知りません。

石塚

キャリア官僚を目指してる人ってどんどん減っていて、ピーク時の3分の1ぐらいなんですよ。つまり各省とも人材不足なんです。

安田

仕事が減るぐらいでちょうどいいと。

石塚

そういうことです。

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石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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