第150回「キャリアバリカン」

この記事について

2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第149回「家電で負け、金融で負けた、その先は?」

 第150回「キャリアバリカン」 


安田

すごい名前のサービスを始めましたね。キャリアバリカン。転職相談でしたっけ。

石塚

はい。転職にまつわる、いろんな悩みを解消するサービスです。

安田

面白そう。石塚さんって、その人に合ったキャリアを考えるのがすごく上手ですよね。

石塚

得意な分野ではあります。

安田

私とポッドキャスト番組をやってる栃尾(とちお)さん。

石塚

はい。栃尾さん。

安田

石塚さんに「家庭教師が向いてる」って言われたそうで。それ聞いてなるほど!と感心しました。

石塚

きめ細かいサービスができる家庭教師って、今すごい脚光を浴びてまして。現場ではぜんぜん人手が足りないんですよ。だけど家庭教師って誰でもできるわけじゃない。

安田

栃尾さんは人気講師になれそうですか。

石塚

あの方は国立の一期校出身だし、理工系だし。経歴も悪くないし、ルックスもいい。家庭教師をやったら、たぶんすぐ稼げるようになります。

安田

言われてみれば向いてそうですよね。

石塚

仕事柄そういうのを見つけるのが上手いんですよ。ポジとネガみたいなもので。

安田

ポジとネガ?

石塚

ひとつのものをどっちから見るかっていう。需要と供給の関係なので、企業側から見るのか、人材側から見るのかだけの違い。

安田

なるほど。企業から見ると求人になり、人材から見ると「あなたの適職探し」になる。

石塚

そうです。おっしゃる通り。

安田

私は「その人にしかできない仕事をつくり出す」ということをやってまして。石塚さんがやっているのは「今ある仕事から適職を見つける」ということですよね。

石塚

そのふたつは地続きだと思っていて。

安田

地続き?

石塚

安田さんがつくり出した時点ではまだ需要が少ない。でも需要が大きくなれば職業化するわけじゃないですか。

安田

なるほど。

石塚

まだ見つけられてない未踏の湖や川って、地図に載ってないから誰も行けないだけ。地図ができればみんな行くことができる。

安田

私は人の数だけ職業があると思ってまして。

石塚

私も同意見です。

安田

石塚さんは「いまある職業の中に向いてるものは必ずある」という感覚ですか?

石塚

はい。マッチングだけの問題だと思ってます。

安田

どうやってマッチングさせるんですか。

石塚

基本的には「ナチュラルに得意で強いこと」を職業にしていく。

安田

そこは同意見ですね。

石塚

それを知るには、子どものときから何をやってきたかを知る必要があって。

安田

なるほど。

石塚

高校を卒業するぐらいまで。10〜18歳ぐらいまでで人間の7割はできあがってる。

安田

早いですね。

石塚

小学校4年生から高校卒業するまで。その間に「ものの捉え方」「自己肯定感が高い低い」「意思決定の仕方」みたいなものは、7割ぐらいできあがってます。

安田

へぇ~。

石塚

もちろん例外はありますよ。でも基本的にはこのパターン。ここにその人の強みも弱みも苦手も得意もあると思ってます。

安田

一般的なキャリアコンサルタントとは違うアプローチですね。

石塚

キャリアコンサルタントの致命的な欠陥は、いまの職業から考えること。

安田

石塚さんは違うんですか?

石塚

はい。そこが「安田さんと地続き」と考える理由です。子どもの頃すごく自然にやってたことを「どこかの職業で生かせないか」という順序。

安田

基本的に私とやってることは同じなわけですね。

石塚

一緒です。今、我々は新しい職業が山ほど出てくる時代にいて。ものすごい勢いで新しい職業が生まれるわけじゃないですか。

安田

ユーチューバーとか。

石塚

まさに。どんどん生まれる新しい職業も含めて、マッチングの可能性はどんどん広がってるわけです。

安田

私はそれをつくろうとするけど、石塚さんは自分の頭にあるデータベースの中から「これじゃないか」という職業を見つけていく。

石塚

そうです、そうです。

安田

最後の一手が違うだけで、やってることは同じですね。

石塚

もうほとんど一緒です。

安田

ということは、新たな職業が生まれてきたら、それを常にインプットするという作業をやってるわけですか。

石塚

やってます。

安田

大変ですね。

石塚

もともと子どもの頃からめちゃくちゃ好奇心が強いので。アンテナたくさん立てて好きな情報をどんどん取り込んでいくのがすごく好きなんですよ。

安田

頭の中でカテゴリー分けとかしてるんですか?

石塚

してますね。それを絞り込んでいく感じ。

安田

18歳までの話を聞きながら?

石塚

「どういう子だったのか」「直近でどんな仕事をやってきたのか」「自分の中で自慢の仕事はどれなのか」この辺りを組み合わせると大きなヒントが出てきます。

安田

たとえば「手先が器用」って人でも、美容師から画家から家具職人から、いろいろあるわけじゃないですか。

石塚

「手先が器用だ」ということを「誰が言ってたか」ってことを聞きたい。

安田

ほお。

石塚

「手先が器用だって誰に言われてましたか?いつ言われましたか?どんなときにそれを言われましたか?」ってことを、ちゃんと聞かなきゃいけないんです。

安田

なるほど。

石塚

お母さんに代わって「料理をつくってました」という器用さなのか。お父さんの仕事を見よう見まねでやったら「うまいな」って言われたのか。工作の時間に「上手だね」って言われたのか。これってぜんぶ違うんですよ。

安田

へえ〜。

石塚

どういう関わり方で評価されたのか。ここが重要なポイントですね。

安田

多くの人は「手先が器用」「人と話すのが好き」ってところで止まってますよね。

石塚

そうなんです。そこを代わりに掘ってあげる。

安田

自分では掘れないんですか?

石塚

ひと言でいうと抽象化しすぎなんですよ。もっと具体的に掘ってほしい。

安田

たとえばコーチという職業には、どういう人が向いてるんですか。

石塚

コーチングという職業には大前提があって。「人間と話が面白い」というのが第一条件です。

安田

へぇ~。

石塚

安田さん、いろんな人見てるじゃないですか。「この人は人間も面白いし、話も面白いなあ」なんて、なかなかいないでしょ?

安田

少ないですね。

石塚

それがないと「コーチの職業適性はないですよ」ってことですね。みんな勉強の延長でコーチになれると思ってる。それは誤解です。

安田

じゃあキャリアコンサルタントの適性は?

石塚

この職業はどういう要素からつくられてるのか。人には何の要素がないと成り立たないのか。それをちゃんと説明できない人はキャリアコンサルタントにはなれません。

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石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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