2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。
第152回「本当のブラックは2割未満」
コロナの割に「社員が不足してる」という会社が37％もあるそうですよ。
そりゃありますよ。
ネットの書き込みを見ると「不足してるのは安い給料で死ぬほど働く社員。どうせろくな仕事じゃない」みたいな書かれ方でした。
どちらも極論を言っていて。まず全体として採用求人数が減ってるのはたしかです。
やっぱそうなんですね。
とくに飲食店さんって店舗ごとの求人だから。求人数がすごく多いんですよ。
なるほど。
居酒屋さんが10店舗で店長候補を募集したら、それで10件じゃないですか。
ですね。
それにホールとキッチンを合わせて3×10っていったら、すぐ30件ですよ。
それがコロナでなくなってしまったと。
そう。飲食業が求人を止めると一気に求人件数が減るんですよ。
飲食業は非正規というイメージですけど。コロナ前は正社員も結構とってたんですか？
コロナ禍でしたたかに生き残りながら、なんとか持ちこたえているところは、店長やサブにいい正社員をキチっと配してるところだけです。
へぇ～。
「アルバイトによるアルバイトのための」なんていうタイプの某居酒屋チェーンは、いまボロボロです。
なるほど。
ボロボロだけどアルバイトの採用はバンバンやってます。どんどん抜けちゃうから。お店に軸がないんですよ。
へぇ～。
パートさん・アルバイトさんをたくさん雇ってもいいんですけど、やっぱり軸がないと回らないんですよ。
店長ってことですか。
店舗マネジメントする店長、そしてそのサブ、キッチンとホールでひとりずつ。この軸がないと回らない。
なるほど。だけどコロナでそこの求人が減っちゃったってことですね。
おっしゃる通りです。
元からそこがしっかりしてる店は生き残っていけると。
その通りです。店長と副店長の2人がいれば店舗は開けるんですよ。腕もいいし、他のパート・アルバイトを休ませても、店舗をある程度までは回せる。
なるほど。
こういうお店は強いんです。質の高い店長・副店長を抱えている飲食店さんはしたたかに残っていきます。
だけど正社員採用はストップしてるんですよね？
さすがに正社員の採用はないと思います。むしろアルバイト店長みたいな人に仕事をさせていた店は、逆にいま「どうしよう」って動いてるはず。
それはどうして？
アルバイト店長はこういう状態になると辞めちゃいますから。
へぇ～。
調子のいいとき、業績のいいときはいいんですよ。でも業績が悪くて「何かを改善しないと」ってときに、「すいません、そんな責任負えないんで辞めます」っていうのがオチ。
そうなんですね。
ええ。
じゃあ求人数に関しては、飲食の影響もあって減ってると。
減ってますが、相変わらず人が必要な職場って日本中あるんですよ。
なるほど。
今まで採れなかった企業がものすごい勢いで「欲しい」「欲しい」となってる。
へえ〜。こんな状況を見ても正社員を抱えるんですか。
安田さんも私も「雇わない経営」とかいろいろ言うけど、「やっぱり正社員で抱えたい」っていう会社がまだ圧倒的に多いんです。
そうなんですね。
意外かもしれませんけど、士業なんかはみんなそうですよ。
士業さん？
はい。
抱えたいんですか？正社員を。
この間も、ある相続に特化した会計事務所のトップと話をして「ものすごく業績がいいから職員を増やしたい」って。
へえ。
「業務委託とか、雇わない経営のスタイルってありますよ」って話をしたら、「いや、そういうのはダメなんだ。ぜんぶ正社員として抱えたいんだ。」「そうじゃないとロイヤリティが低い」とか「一体感がない」とか。
ちょっと発想が古くないですか。
「うーん」とは思うんですけど。こういう職場・会社がまだ圧倒的に日本は多い。
そこは社員にとって「いい職場」なんですか？ネットでは「いまの状態で不足っていうのは、よっぽどひどい仕事なんじゃないの？」なんて書かれてまして。
「いい職場もあるし、悪い職場もある」ってことだと思う。
なるほど。
ぜんぶが悪い職場、ぜんぶがいい職場ってことはないと思うんですね。
つまり、いい職場でも正社員は不足してるってことですか？
そうです。
へぇ～。意外ですね。
なぜかと言うと「全員にとっていい会社」なんてものはないので。
なるほど。
たとえば我々の出身のリクルートだって、いい会社だと思いますけど「全員にリクルートが合う」とは、とてもじゃないけど思えないでしょ？
確かに。
すべての人にとっていい会社なんて幻想ですよ。そんなものはない。
だけど、すべての人にとって悪い会社はあると思うんですけど。
はい。それはありますね。
だけど、そういう会社ばかりではないよってことですね。
おっしゃる通りです。ちゃんと探せば「自分に合ういい会社」は必ずあります。
割合はどうなんですか？誰にとってもひどい職場って何％ぐらいあるんですか。
10％台ですね。どんなに多くても2割ぐらいだと思います。
そんなに少ないですか？
そんな多くないですよ、言われてるほど。
つまり「そういう会社ばかりだ」とか言ってる人は、単なる思い込みだと。
もしくは記事をバズらせたいから書いてるのか。現場を何社も見てから書いてるとは思えない。
ブラック企業なんてそうそうないよと。
意図的なブラック企業、「搾取してやろう」みたいな悪意に満ちてる会社は、せいぜい10％台だと思います。
石塚毅
（いしづか たけし）
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。
安田佳生
（やすだ よしお）
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。
