第152回「本当のブラックは2割未満」

この記事について

2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第151回「コロナ禍の生き残り戦略」

 第152回「本当のブラックは2割未満」 


安田

コロナの割に「社員が不足してる」という会社が37%もあるそうですよ。

石塚

そりゃありますよ。

安田

ネットの書き込みを見ると「不足してるのは安い給料で死ぬほど働く社員。どうせろくな仕事じゃない」みたいな書かれ方でした。

石塚

どちらも極論を言っていて。まず全体として採用求人数が減ってるのはたしかです。

安田

やっぱそうなんですね。

石塚

とくに飲食店さんって店舗ごとの求人だから。求人数がすごく多いんですよ。

安田

なるほど。

石塚

居酒屋さんが10店舗で店長候補を募集したら、それで10件じゃないですか。

安田

ですね。

石塚

それにホールとキッチンを合わせて3×10っていったら、すぐ30件ですよ。

安田

それがコロナでなくなってしまったと。

石塚

そう。飲食業が求人を止めると一気に求人件数が減るんですよ。

安田

飲食業は非正規というイメージですけど。コロナ前は正社員も結構とってたんですか?

石塚

コロナ禍でしたたかに生き残りながら、なんとか持ちこたえているところは、店長やサブにいい正社員をキチっと配してるところだけです。

安田

へぇ~。

石塚

「アルバイトによるアルバイトのための」なんていうタイプの某居酒屋チェーンは、いまボロボロです。

安田

なるほど。

石塚

ボロボロだけどアルバイトの採用はバンバンやってます。どんどん抜けちゃうから。お店に軸がないんですよ。

安田

へぇ~。

石塚

パートさん・アルバイトさんをたくさん雇ってもいいんですけど、やっぱり軸がないと回らないんですよ。

安田

店長ってことですか。

石塚

店舗マネジメントする店長、そしてそのサブ、キッチンとホールでひとりずつ。この軸がないと回らない。

安田

なるほど。だけどコロナでそこの求人が減っちゃったってことですね。

石塚

おっしゃる通りです。

安田

元からそこがしっかりしてる店は生き残っていけると。

石塚

その通りです。店長と副店長の2人がいれば店舗は開けるんですよ。腕もいいし、他のパート・アルバイトを休ませても、店舗をある程度までは回せる。

安田

なるほど。

石塚

こういうお店は強いんです。質の高い店長・副店長を抱えている飲食店さんはしたたかに残っていきます。

安田

だけど正社員採用はストップしてるんですよね?

石塚

さすがに正社員の採用はないと思います。むしろアルバイト店長みたいな人に仕事をさせていた店は、逆にいま「どうしよう」って動いてるはず。

安田

それはどうして?

石塚

アルバイト店長はこういう状態になると辞めちゃいますから。

安田

へぇ~。

石塚

調子のいいとき、業績のいいときはいいんですよ。でも業績が悪くて「何かを改善しないと」ってときに、「すいません、そんな責任負えないんで辞めます」っていうのがオチ。

安田

そうなんですね。

石塚

ええ。

安田

じゃあ求人数に関しては、飲食の影響もあって減ってると。

石塚

減ってますが、相変わらず人が必要な職場って日本中あるんですよ。

安田

なるほど。

石塚

今まで採れなかった企業がものすごい勢いで「欲しい」「欲しい」となってる。

安田

へえ〜。こんな状況を見ても正社員を抱えるんですか。

石塚

安田さんも私も「雇わない経営」とかいろいろ言うけど、「やっぱり正社員で抱えたい」っていう会社がまだ圧倒的に多いんです。

安田

そうなんですね。

石塚

意外かもしれませんけど、士業なんかはみんなそうですよ。

安田

士業さん?

石塚

はい。

安田

抱えたいんですか?正社員を。

石塚

この間も、ある相続に特化した会計事務所のトップと話をして「ものすごく業績がいいから職員を増やしたい」って。

安田

へえ。

石塚

「業務委託とか、雇わない経営のスタイルってありますよ」って話をしたら、「いや、そういうのはダメなんだ。ぜんぶ正社員として抱えたいんだ。」「そうじゃないとロイヤリティが低い」とか「一体感がない」とか。

安田

ちょっと発想が古くないですか。

石塚

「うーん」とは思うんですけど。こういう職場・会社がまだ圧倒的に日本は多い。

安田

そこは社員にとって「いい職場」なんですか?ネットでは「いまの状態で不足っていうのは、よっぽどひどい仕事なんじゃないの?」なんて書かれてまして。

石塚

「いい職場もあるし、悪い職場もある」ってことだと思う。

安田

なるほど。

石塚

ぜんぶが悪い職場、ぜんぶがいい職場ってことはないと思うんですね。

安田

つまり、いい職場でも正社員は不足してるってことですか?

石塚

そうです。

安田

へぇ~。意外ですね。

石塚

なぜかと言うと「全員にとっていい会社」なんてものはないので。

安田

なるほど。

石塚

たとえば我々の出身のリクルートだって、いい会社だと思いますけど「全員にリクルートが合う」とは、とてもじゃないけど思えないでしょ?

安田

確かに。

石塚

すべての人にとっていい会社なんて幻想ですよ。そんなものはない。

安田

だけど、すべての人にとって悪い会社はあると思うんですけど。

石塚

はい。それはありますね。

安田

だけど、そういう会社ばかりではないよってことですね。

石塚

おっしゃる通りです。ちゃんと探せば「自分に合ういい会社」は必ずあります。

安田

割合はどうなんですか?誰にとってもひどい職場って何%ぐらいあるんですか。

石塚

10%台ですね。どんなに多くても2割ぐらいだと思います。

安田

そんなに少ないですか?

石塚

そんな多くないですよ、言われてるほど。

安田

つまり「そういう会社ばかりだ」とか言ってる人は、単なる思い込みだと。

石塚

もしくは記事をバズらせたいから書いてるのか。現場を何社も見てから書いてるとは思えない。

安田

ブラック企業なんてそうそうないよと。

石塚

意図的なブラック企業、「搾取してやろう」みたいな悪意に満ちてる会社は、せいぜい10%台だと思います。

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石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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