第187回「ホントに来ちゃったこの時代」

この記事について

2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第186回「みずほの終わりと金融業界の未来」

 第187回「ホントに来ちゃったこの時代」 


安田

雇用という枠に収まらない?

石塚

はい。ある程度以上の能力やスペックがある人は、雇用という枠に収まらなくなる。

安田

それは私も同感です。

石塚

いま副業人材のマッチングサイトが、急激に広がってるでしょ。

安田

増えてますね。

石塚

マッチング会社が想像以上に伸びてますよ。

安田

マッチングするんですかね。副業で活躍できる人材って、なかなか少ない気がするんですけど。

石塚

マッチングの数も増えてます。

安田

へえ〜。そうなんですね。

石塚

CMも増えてるし。

安田

ビズリーチさんとか。「エグゼクティブ人材は、ここに登録するだけでスカウトが来ます」とかおっしゃってますね。

石塚

あれはちょっとやり過ぎだけど。

安田

あれって自称エグゼクティブじゃないですか。1,000万以上稼げるスキルがある人じゃなくて、1,000万以上稼ぎたい人たち。

石塚

大半はそうでしょうね。

安田

1,000万円以上のスキルがある人って、ああいうサイトに登録するとは思えないんですけど。絶対に声がかかるでしょうし。

石塚

まず今の時代、ほぼ全員が転職を考えているのは事実ですよね。

安田

「一生この会社」って人は、さすがに少なくなってますか。

石塚

まずいないです。

安田

へぇ~。

石塚

少なくとも35歳以下は全員考えてるはず。

安田

それは大手でも?

石塚

大手でも。当然、人材紹介会社としてはそういう層をあおりたい。だからああいうCMをやるんですよ。

安田

なるほど。

石塚

たとえば30歳のビジネスマンが100人いたとして、上位の1・2・3・4・5位までは自分で起業するんです。

安田

そんなに?

石塚

これは間違いないです。

安田

起業っていうのはフリーランスも含めて?

石塚

法人化する人ですね。

安田

人を雇うってことですか。

石塚

何人雇うかの差はあるけど、雇いますね。

安田

へえ〜。

石塚

スタートアップや成長企業に、副業人材をマッチングする市場がいま急拡大してる。

安田

そうなんですか。

石塚

「ここをサポートしてほしいから、とにかくできる人にお願いします」って。雇用契約にこだわらない集め方をしてますね。

安田

そこにマッチングさせるわけですか。

石塚

じつは成長企業やアーリーステージの会社が副業人材をすごく使ってる。だから市場が伸びてるわけです。

安田

つまり能力がある人に外注してやってもらうってことですね。

石塚

起業ってひとりではできないから。最低限のチームが必要じゃないですか。

安田

でもコアメンバーは外注では無理でしょ?

石塚

いわゆるボードメンバーは雇って抱えてしまうわけです。

安田

それは取締役みたいな形で?株も持たせて。

石塚

そう。

安田

なるほど。それなら集まりそうですね。

石塚

100人のうち上位5人は、だいたいそこに行っちゃうわけです。つまり起業する人と、そのビジネスパートナー。

安田

5人で起業するみたいなイメージですね。

石塚

そうそう。

安田

それはよくわかります。でも5人だけじゃ仕事は回らないですよね。

石塚

回らない。だからフリーランス人材をかなり活用する。もちろん自前で雇用もします。だから転職市場がものすごく活況なんです。

安田

何歳ぐらいの人がターゲットなんですか?

石塚

雇用するのは20代ですね。

安田

20代ですか。

石塚

はい。人件費もそんなに高くないし現場は20代で十分回せます。

安田

その人たちは転職しないんですか。

石塚

同じですね。優秀な人は起業していく。だけどフリーランスとして繋ぎ止める人もいる。

安田

なるほど。

石塚

順位で言うとトップ5は起業しちゃう。もしくはボードメンバーになっちゃう。で、6番から20番まではフリーランスでも機能する。

安田

フリーで機能する人は会社には残りませんか。転職して収入を増やしていくとか。

石塚

転職しても成功するだろうけど、フリーランスもしくは副業をするでしょうね。ひとつの会社だけでは収まらない。ここがかなり大きな変化だと思う。

安田

なるほど。

石塚

この上位2割とそれ以外の落差が激しいんですよ。

安田

それ以外の人ってどういう人ですか。

石塚

ごく普通の人たちですね。副業をやりたいと思っても力がないから通用しない。

安田

いわゆるコンビニバイトみたいな副業になっちゃうってことですね。

石塚

そう。だけどそれは副業というより時間売りですね。

安田

そうですね。

石塚

「フク業」も2種類あって。「複業」は自分のメインを生かしながら、他の職場でも稼げる人。「副業」は単なる時間売りになっちゃう。

安田

「副業」は食っていけなくて、仕方なく掛け持ちするパターンですね。

石塚

そうです。

安田

それが8割もいますか。

石塚

私の見立てではそんな感じです。

安田

つまり本業にぶら下がり続けたほうがいい人たちですよね。

石塚

彼らが収入を増やすには労働時間を増やすしかない。

安田

で、トップ20%は1社だけに雇われる選択肢はなくなっていくと。

石塚

リクルートやビズリーチが一生懸命「ハイクラス転職」とか「エグゼクティブ転職」とかってあおってるでしょ。あれは必死さの表れですよ。

安田

奪い合いってことですか。

石塚

いや、安田さんのおっしゃる通りです。本当のエグゼクティブは、ああいうところには登録しないってこと。

安田

じゃあ看板に偽りありですね。

石塚

おそらくこれから5年ぐらいで「エグゼクティブ転職」「ハイクラス転職」で儲けてる会社はすごい打撃を被る。それが僕の予測です。

安田

そのクラスを正社員として雇用することはもう無理だと。

石塚

むずかしいですね。安田さんが言ってる「できる人なんて雇えない」って時代が、本当に来ちゃったんですよ。「雇わない経営」が当たり前になっていくんです。

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石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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