2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。
第200回「世界一厳しい消費者」
「企業物価」って、あまり意識したことがなくて。
そうですか。普通に発表されている数字ですけど。
つまり企業が物を仕入れる値段ってことですよね。
そうです。企業が買い手の場合の物価ってことです。
たとえば牛丼だったら、牛肉を仕入れる値段ですか。
そう。でも材料費が上がっているのに売価には転嫁できない。ここが日本経済の、日本企業の宿痾ともいうべき構造です。
企業物価には人件費も入るんですか?採用費とか給料とか。
入ります。
給料が安い代わりに物価も安いって、よく言われますよね。
これまでは。だけどこの先はそうもいかない。
海外から仕入れるとなると、そういうわけにいかないですもんね。
そうなんですよ。いまウクライナ紛争で想像以上にいろんなものが値上がりしてて。食料から、鉄から、石油から、なにからなにまで。日本は海外依存が強いから。
ですよね。よく「食料自給率を上げろ」って話がありますけど、食料をつくるにしてもエネルギーは不可欠なわけで。
おっしゃる通り。どう考えても自給自足をやるのは無理なんですよ。
なぜここまで日本は安くなってしまったんですか。
安易にグローバル展開したからでしょうね。要するに「いちばん安いところで仕入れりゃいいんだ。それがグローバル化だ」って20年もやっちゃったから。
先のことまで考えてなかったんでしょうか。
まさかこんな戦争が起こるとは予想もしてなかったし。ロシアがこうなっちゃって、みんな慌てふためいていると思いますよ。
ロシアの問題があるにしても、円安って国力の低下が原因でしょ?
おっしゃる通り。
日本人がずーっと安い給料を我慢している間に、他国の経済はどんどん伸びていって。円の価値が低くなっている分、高く買わざるを得ないという。
買値が高くなる、仕入れ値が高くなるという問題。そして買いたくても物が入ってこないという問題。このダブルパンチですね。
この先どうなるんですか。企業が値上げして、消費者も高いものを買うしかないってことですか。
いま続々と値上げの発表をしてるじゃないですか。
してますね。
「戦争という非常事態だから、値上げもやむを得ない」って空気に、いま日本はなってる。
確かに。今は我慢だって思っている人は多いです。
だから値上げのチャンスでもあるんですよ。ここで上げられなかったら、もう上げられないから。
ロシアと関係ないものでも上げちゃえってことですか。
だってこのまま安売りを続けたらどこかで破綻しますよ。
海外に行くと値切り交渉が凄いじゃないですか。中国とかも。
すごいですよね。
日本人はそこまでしないじゃないですか。それなのに値上げにはうるさいんですか。
表立って文句を言わないだけ。
表立って文句は言わないけれど、みんな買わないっていう。
買わない。
なるほど。
だって牛丼をちょっと値上げしただけで、一斉に客離れするんですよ。たった30円の値上げで。だから怖いんですよ。
離れた客にしたって、どこかの店では食べるわけですよね。
日本人は外食するのを控えて、家で食べるわけです。
家で食べるにしても、そもそも原料自体も高いじゃないですか。
そうなっていきますね。だからいま「米粉でいろんなことをしよう」としてます。米は国産率が高いから。
米は値上がりしませんか?
いや、お米も100%自給できるわけじゃないし。過剰に「欲しい欲しい」となれば、それは当然値上がりするでしょうね。
それでも家でつくるという選択をしますか。
日本人はそうなりそうな気がします。
へぇ~。
どこまで給与を上げていけるかって話になるでしょうけど。
値上げしても給料は上げられないですよね。原材料費も上がってるわけで。儲けが増えたわけじゃないし。
そうなんですよ。給料を増やすのは難しい。
もっと早く値上げしときゃよかったんですよ。
この10年で社会保険料が何割上がったか知ってますか。
5%ぐらいでしたっけ。
いやいや。この10年で11%上がってるんですよ。
そんなに上がったんですか!?
給料の3割は社会保険料で引かれる。日本人の生活はどんどん厳しくなってます。
恐ろしい。
給料を増やすにも、社会保険料の値上がり以上に上げないと意味がないんです。
ちょっとぐらい給料が増えても手取りは増えないと。
あんまり言いたくないけどシュリンクするばっかりで。
最終的にはどうなるんでしょう。どこかで底を打って上がっていくのか。このままずっと下がりつづけて貧乏になっていくのか。
ゆっくり死んでいくような感じがします。
死にはしないんじゃないんですか。贅沢しなければ。
まあ、なんていうか、ゆっくり後退していく感じ。そして価格に転嫁できない企業は廃業せざるを得ない。
値上げできない企業は廃業ですか。
街の飲食店なんか当然そうなわけで。ここで勝負して値上げしないと。
牛丼とかハンバーガーは難しいですよね。高いと行かなくなっちゃうし。
外食業界は「街の飲食店」か「超・大チェーン」の二択になるでしょうね。真ん中はもう存在できない。大手チェーンはバイイングパワーでとにかく安くしないと。
いい店だったら多少高くても行くんじゃないですか。
余程のお気に入りじゃないと行かないと思う。
行かないんですか。それとも物理的に「行けない」んですか。
むずかしい質問ですけど。たぶん行かないんだと思う。
そこまで貧乏ではないけど、節約すると。
「そこまで出して買わないよ」っていう。ここが日本の「世界一厳しい消費者」って言われる所以じゃないかと思う。
味が落ちたら文句言うし。サービスも下がったら文句言うし。店が汚いと文句言うし。だけどちょっとでも値上げしたら行かないし。
たくさん文句を言ってるうちに「世界一厳しい消費者」になってしまったんですよ。
石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。
安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。