第199回「派遣が建てる億ション」

この記事について

2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第198回「ハロワ求人の真実」

 第199回「派遣が建てる億ション」 


安田

ゼネコンが4年ぶりに初任給を上げるそうです。

石塚

これ、たぶん国策だと思うんですよ。

安田

国策ですか。

石塚

「これだけ儲けさせてるんだから、建設業界はちゃんと上げろ」って。国から圧力がかかっているんじゃないかと僕は推測しますね。

安田

へえ〜。でもその割に5,000円ぽっちしか上げないんですね。

石塚

だからですよ。「うーん……じゃあ5,000円上げますよ」みたいな。

安田

なるほど。渋々上げてる感じで。ということは採用目的ではない?

石塚

違うでしょうね。ニュースに出てたゼネコンレベルは採用できてるので。

安田

現場の人も採れてるんですか?

石塚

現場がいちばん難しいんです。

安田

ですよね。

石塚

東京でいうと年収400万台の現場の人。いわゆるスタッフレベルの採用がいちばん難しい。

安田

それって年収が安いからですか。

石塚

もちろんそれはあります。「きつい仕事だから800万払うよ」って言ったら話が変わる。

安田

なぜ増やさないんですか。

石塚

短期的にはそれで集まるけど続かないですよね。人口が減ってるから。業界全体で増やしても「俺、どっち行こうかな」ってなるだけ。

安田

いいことじゃないですか。働く人にとっては。

石塚

まあね(笑)けれど労働人口の減少からは逃れられない。そもそも年収800万円も出したら会社がもたない。

安田

下請け業者では無理ってことですか。

石塚

はい。

安田

元請けゼネコンはどうなんですか。もっと賃金を上げても大丈夫じゃないですか。

石塚

ゼネコンはそんなの痛くもかゆくもないですよ。

安田

だったらなぜ現場にもっと払わないんですか。

石塚

だって、ゼネコンは仕事を投げるだけだから。

安田

自分たちは現場に行きませんか。

石塚

行かない。せいぜい責任者を1人出して終わり。

安田

なんと。ゼネコンなのに。

石塚

それが現実ですね。

安田

ウチの近所で高層マンションが建ちまくってるんですけど。みんな大手の看板ですよ。

石塚

看板はね。

安田

現場で体を動かしている人は、大手の社員じゃない?

石塚

もちろん(笑)二次請けですらないかも。三次請け、四次請け、下手したら派遣社員です。

安田

派遣社員が億ションを建ててるんですか!

石塚

そうですよ。末端の現場は雇用形態が入り乱れてて。利益なんてカツカツです。

安田

だけどゼネコンは儲かっていると。

石塚

ゼネコンは儲かってます。なにもしないでただ投げるだけなので。その差額が儲かるわけです。

安田

だから「5,000円ぐらい上げろ」ってことですか。

石塚

そう。大手ゼネコンにしてみれば、こんなのはべつに大したことない。

安田

でも現場が回らなくなったら、上にいるゼネコンだって困るでしょ?

石塚

おっしゃる通り。

安田

将来的にはどうなるんですか。ゼネコン本社の社員が現場に出るようになるんですか。

石塚

すごくいい話で、だんだん自前主義になっていきますよ。だって丸投げして利ざや取るなんていう優雅な商売はもうできないから。

安田

ですよね。

石塚

なんとか人手を確保して、自前でぜんぶやろうってことになると思う。そうならざるを得ない。

安田

現場スタッフも可哀想ですよね。一次・二次・三次の利ざやを抜いたあとのお金を払っているわけですもんね。

石塚

おっしゃる通り。

安田

「人が採れない」「これ以上給料を増やしたら利益が出ない」ってなると、いちばん下がまずなくなるわけですか?

石塚

そうです。ドミノが逆になるように。

安田

4次請け3次請けがなくなって、2次も潰れて、最終的にはゼネコンが自分でつくるようになると。

石塚

それに近い形が大和ハウス工業ですね。

安田

そうなんですか。

石塚

はい。建設だけだと限界があるから。不動産開発や商業施設とか、それこそアパートとか、いろんなことをやるなかで建設業もやってる。

安田

人手は足りてるんですか?

石塚

足りなくなったら他のセクターから回すんですよ。「人手が足りなくなったからこっちに行ってくれ」って。とにかく無駄がないように労働力をグループで有効活用してます。

安田

少子化を見込んだビジネスモデルってことですか。

石塚

たぶん大和ハウスはそれを考えていると思う。

安田

「建築現場だけでは人が足りなくて、いずれ仕事が回らなくなるぞ」ってことですか。

石塚

そうです。ゼネコンもそんなに儲からなくなる。だから「不動産開発の仕事をしよう。事業を垂直化させて、土地の仕入れからやろう」と。

安田

もう利ざやを抜くだけではだめですか。

石塚

さすがにもう無理でしょうね。先を見てる会社はマネタイズポイントをちょっとずつ変えてきてます。

安田

「給料が安くて不人気だけど、現場を回すには必要」って仕事が、世の中にはいっぱいありますけど。

石塚

ありますよね。

安田

たとえばレジ打ちとかはどうなるんですか。

石塚

まず機械や自動化で置き換わるところは一気に変わります。レジ打ちなんてセルフレジが当たり前になってきているじゃないですか。

安田

確かに。

石塚

あの職業の層がなくなりますよ。建設現場でも自動化やロボット化で置き換えられるものは仕事がなくなる。

安田

どうしても人じゃないとだめってところだけが残ると。

石塚

そうなります。そして昔の戦国時代のようになる。つまり従業員満足度の高い会社に人が集中する。

安田

やっぱり給料ですか。

石塚

給料は限界があります。どうせ給料を増やしたって社会保険料で消えちゃうし。法定外福利厚生ですね。

安田

法定外福利厚生?

石塚

たとえば会社が保険も入ってくれて、自分でわざわざ高い保険に入らなくてもいいとか。キャンプ用品を週末に貸してくれるとか。

安田

そんなので人が来るんですか。

石塚

自分のお金を使わなくて済むじゃないですか。だから手取りが残るんですよ。社宅を持っていて家賃負担が少ないとか。車を持たなくても会社の車が使えるとか。

安田

つまり額面じゃなく、手取りをいかに増やしてあげるかってことですか。

石塚

おっしゃる通り。ベースアップなんかしたって社員は喜びません。一番は手取りですよ。デフレでみんな世知辛いから。

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石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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