第219回 最低賃金をめぐる攻防

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第219回「最低賃金をめぐる攻防」


安田

最低賃金を1,000円にしようという話が進んでます。

久野

はい。岸田さんが言ってますね。

安田

岸田さんは1,000円にすると断言しておられます。可能なんでしょうか?

久野

無理じゃないですか。

安田

やっぱり無理ですか。

久野

まあ4%ぐらいは上がると思いますけど。いま最低賃金は高知と沖縄がいちばん安いんですよ。確か853円。

安田

じゃあ150円上げれば1,000円になりますね。

久野

安田さん。150円ってめちゃくちゃ高いんですよ(笑)150円で160時間働くと1万円ですよ。

安田

1人たった1万円でしょ。月に。

久野

「1万円でしょ」って(笑)

安田

給料を上げて成り立たないような商売はやめろ!って、いつも久野さん言っているじゃないですか。

久野

いやあ・・・答えにくいですね(笑)

安田

ここはビシッと言ってください。

久野

そもそもこれって「全国平均で1,000円を超えよう」という話ですから。

安田

あ、平均ですか。最低賃金の?

久野

加重平均だと思います。だから「めちゃめちゃ上がる」かというと、ほんのちょびっと。20~30円の話。

安田

最低でも1,000円って言われると、最低でも1,000円になりそうな気がするんですけど。そんなことないんですね。

久野

最低でも平均を1,000円ってことですね。

安田

騙されました(笑)

久野

本当は安田さんの言う通り、一番下を押し上げないといけないんですけど。

安田

ですよね。

久野

いま平均が961円ちょっとだと思います。

安田

つまり39円弱しか上がらないと。

久野

39円でも結構大きいですけどね。

安田

先進国の最低賃金と比較すると、1,000円でもまだ安いぐらいじゃないですか。

久野

日本は安いと思いますよ。

安田

1人あたりの生産性を上げるために、まず賃金を上げようとしているわけで。平均じゃなく最低1,000円ぐらいにはしないと。

久野

いきなりは難しいでしょうね。

安田

だけど、どこかで必ず越えなくてはならない壁ですよね。

久野

どうでしょう。今のままだと難しい会社が多いと思います。

安田

大企業なんて1,000円になろうがぜんぜん関係ないでしょ。

久野

いや、大企業でも小売業とかは大変ですよ。

安田

小売業が大変なのは売値が安いからですよね。

久野

そうです。簡単には値上げできないし。

安田

最低賃金が上がれば、どの会社も売値を上げざるを得ない。みんな一斉に上がるわけじゃないですか。

久野

はい。

安田

「うちは値上げしない」とかできないわけで。

久野

たとえば全員が上げざるを得なくなって、価格を上げましたと。問題は今までと同じようにお客さんが来るかどうかですよ。

安田

全員で値上げしても、値上げしたらお客さんが来なくなる店もあると。

久野

当然あるでしょう。

安田

そういう店は淘汰される?

久野

そうなりますよね。

安田

久野さんは「優秀な人材を確保するには、まず値上げして給料を上げるしかない」って、いつも言っているじゃないですか。

久野

理屈はその通りなんです。

安田

それをやらないとジ・エンドなわけでしょ?

久野

ジ・エンドって(笑)そう一緒ですよ。どっちが先かという話です。

安田

どっちが先か?

久野

最低賃金が1,000円を超えるか、企業が勝手に上げて1,000円を超えるか。私は後者の方が先じゃないかと思います。

安田

なるほど。無理やり上げなくてもそうなっていくと。

久野

今はそういう流れになってきてます。先手先手で動き出す企業が出てきたので。

安田

自発的に「1,000円以上にしよう」と経営者が考えないと、もうビジネスが成り立たないってことですか。

久野

そうです。最低賃金キワキワでOKだと思っていたら、もうまずい。

安田

でもキワキワの会社っていっぱいあるんでしょうね。

久野

私に聞かないで欲しいです。

安田

言いにくいんですか?

久野

言いにくい(笑)

安田

ということはたくさんあるんですね。

久野

地方にはまだまだ多いですよ。でも正直すごく疑問なんです。東京と沖縄だったら東京のほうが地代家賃は高いじゃないですか。

安田

はるかに高いですね。

久野

人件費も東京のほうが高くて地方は安いわけじゃないですか。本当はめちゃくちゃ楽なはずなんですよね。

安田

確かに。給料も安いし家賃もかからないし。

久野

だから地方の優良企業はすごく儲かってます。

安田

そうですよね。

久野

そういう会社を見ていると、最低賃金を上げなくちゃいけない気がします。

安田

地方の儲かっている会社は、さすがに最低賃金では雇ってないでしょう。もっと払ってるんじゃないですか。

久野

どうでしょうね(笑)

安田

そんなことないんですか?

久野

まわりの価格に引っ張られて安くなっていると思います。ちょっと楽してる。

安田

じゃあ1,000円なんて本当は余裕なんでしょうね。

久野

儲かっている会社は余裕でしょう。

安田

つまり平均1,000円は現実的に可能なんですね。たった39円のアップだし。

久野

39円はけっこう大きいんですけど、これはあっという間に行くと思います。やらないと政治が持たないので。

安田

39円でもついて来られない会社が出てきますか。

久野

39円で160時間をかけると6,240円。この分の値上げができない会社は厳しいでしょうね。

安田

それぐらい値上げすればいいじゃないですか。

久野

値上げすると買わなくなるんですよ。

安田

給料も上がったら買うでしょう。

久野

いや。時給はアップして欲しいけど、買う側になると安さを求める。これが日本国民の最大の問題なんですよ。

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久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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