2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。
第246回「楽天の誤算」
楽天モバイル事件。
あれはやばいです。
楽天の元部長が100億円も会社のお金を使い込んでいたという。
ですね。
どうやったら100億も着服できるのか。
単純な話で、200億円のアンテナ工事に100億円乗っけてたんですよ。
200億の工事に100億乗せるって、めちゃくちゃ大きいじゃないですか。
ね。
そんなのバレないわけがない。
うまくやってたんでしょうね。
100億は絶対返ってこないでしょう。
まあ、無理でしょうね。その10分の1も戻れば御の字でしょう。
楽天って部長が100億も決裁できちゃうんですね。
僕はこの事件でふたつ思うことがあって。楽天って「非常に混乱しているんだなあ」というのと、「権限のパワーがすごい」ってこと。
権限のパワーですか。
部長や執行役員になるとすごい権限なんでしょうね。だからいろんなことをやれる。
でも100億を搾取できちゃう立場に置くってどうなんでしょう。
まあ人間ですからね。魔が差す時もあるし。
普通はできないような体制になってるじゃないですか。ダブルチェック、トリプルチェックが当たり前で。
これが事業の加速とコンプラを両立する難しいところで。こういう事件があってコンプラを厳しくすると、裁量範囲が減って仕事が面白くなくなる。
まあそうですけど。
事業スピードは、能力のある1人がガーッと動かしたほうが早いわけです。
それはそうですね。
「よし、俺がまとめて決めるから、これで発注する!」ってどんどん進めて。
確かに。
それを「部長の次は本部長、本部長の次は執行役員、執行役員の上は取締役で、最後はCEOの……」なんて言っている間に1か月たっちゃったりして。
それが日本の大企業の問題点ですもんね。
そう。だからこのバランスはすごく難しいんです。どうしてもこういうリスクがつきまとう。
中国の日系企業では現地社長がなんの決済権も持ってなくて、馬鹿にされるみたいです。
共産党って人治主義の極だから。能力よりも相手の弱みを握ったり、ライバルを蹴落とす力のほうが優先される。サラリーマン社長では成り立たないんですよ。
共産主義の中国のほうが実力主義になっていると。
そう、実力主義になってる。すごい権力闘争ですよ。命がかかってますから。
とはいえ100億を水増しされて分からない制度も大問題です。
基地局をつくる工事って、少なく見積もっても5年かかるわけです。そうすると月々の工事発注金額って5億なんですよ。
そのうち1億6,000万は水増しですよ。
1億6,000万の工事発注なんてザラじゃないですか。
そうなんですか。
1億6,000万をうまく7~8人で分けて。自分の手元に2,000~3,000万入るようにするスキームでしょうね。
それが3年間もバレないっていうのが、ある意味すごいですけど。
ある意味すごく信頼された、仕事ができる人なのかもしれません。
もしかして給料が安かったんでしょうか。
たぶん三木谷さん、そんなに携帯電話事業に詳しくないんでしょうね。「この人間にまかせておけば間違いない」と思ったんじゃないんですか。
信じちゃった、ってことですか。
そう思います。まあ、しょうがないですよ。信じて任せた人間が飲んじゃっただけで。
飲んじゃった!
その飲み方が1,000万2,000万だったらともかく。「桁が違うぞおまえ」っていう話ですよ。
桁が違いすぎますよ。
これから連鎖倒産がどんどん出てきます。
え!誰が連鎖倒産するんですか?楽天以外に被害者がいるんですか。
当然、楽天は「払うわけねーだろ」って言うでしょう。傘下の孫請け、ひ孫請けまで工事代金が支払われなくなる。
なんと。
もう倒産しているという噂は聞いてます。だって工事代金が入ってこないですから。
発注先の業者が全部グルだったってことですか。
わかっていて握ったところと、全く関係ないところとがあるでしょうね。
グルだったところはともかく、関係ない会社には払わないといけないでしょう。
下請けが2次3次構造になってるから。おいしいのは発注側と1次請けまでじゃないですか。2次3次なんて、ただ言われたことをやっているだけで。
そこの支払いも止まっちゃうわけですか。
当然でしょう。ぜんぶ切るでしょ。
アンテナは誰が建てるんですか?工事を請けてくれる会社も人材も不足してるのに。
おっしゃる通り。このままだと立ち行かなくなるかもしれません。
そもそも楽天の携帯電話事業って儲かってるんですか。
無料サービスで顧客数を伸ばしてきたんですけど。
「有料になったから楽天やめます」って人が出てきてますよね。
菅さんがグッと携帯料金を下げちゃったから。料金が変わらなくなれば、それは安いドコモを使いますよ。
ここまで三木谷さんが携帯事業にこだわるのは、どうしてですか。
モバイルを押さえることによって全部押さえられるから。決済も今みんなスマホじゃないですか。
確かにそうですね。
インフラを押さえることによって、そこをぜんぶ押さえにかかりたいわけですよ。
なるほど。
楽天経済圏というものをすべて盤石にしたい、という思いがあるんじゃないんですか。
壮大なビジョンですね。
ただし、インフラ事業をゼロからやって成功した人は、歴史上ほとんどいない。資金的にもかなり厳しいと思います。
石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。
安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。