第247回「新たな人気職種の誕生」

この記事について

2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第246回「楽天の誤算」

 第247回「新たな人気職種の誕生」 


安田

タクシー会社が「GOアプリ」に特化したパート募集をするそうです。

石塚

アプリがあれば、ノウハウがまったくない人でも稼げちゃうから。

安田

新卒ドライバーも増えましたよね。

石塚

あらゆる業種で起こっている、「職人さんを不要にする」というビジネスモデルの一例ですよ。

安田

GOアプリがそれを実現したということですね。

石塚

GOアプリは「お客さんを拾う」という仕事をなくしちゃったわけです。

安田

経験がないといいお客さんを拾えなかったですもんね。

石塚

「この時間に、この通りを行けば、長距離客が拾える」という、経験と勘でしか稼げない仕事だったわけです。

安田

それを GOアプリが変えた。

石塚

アプリで順番に取っていけば稼げてしまう。営業に例えると「見込み顧客を発見する」という仕事から解放したということ。これは凄いですよ。

安田

これまで職人技で稼いでいた人はどうなるんでしょう。

石塚

難しいでしょうね。長距離の人ほどちゃんと車を選ぶから。

安田

流しのタクシーは当たり外れが大きいですもんね。

石塚

アプリだとドライバーの評価も分かるし。車種もスライドドアの小型バンに変えてるでしょ。あれが快適なんですよ。

安田

あれ、いいですよね。

石塚

あれは便利です。座面も高いし。みんな高齢化してきて腰痛の人が多いから、高いほうが楽なんですって。

安田

車体も新しいから綺麗だし。

石塚

昔は個人タクシーを選ぶ人も多かったんですよ。車種がクラウンとかで背もたれもフカフカで。

安田

「個人タクシーはちょっとランクが上」というイメージでした。

石塚

そうなんです。だけど今は嫌がる人が多いです。腰に負担があるみたいで。

安田

うちの奥さんも個人タクシーを嫌がります。「GO乗ろうよ」って言いますね(笑)

石塚

たぶん奥さまは、あの「ニオイ」じゃないかなと思うんですよ。

安田

ああ、なるほど。

石塚

個人タクシーは年配のドライバーが多くて。ずっと座ってるから加齢臭が入り交じってる。

安田

確かに。

石塚

あれ、僕も嫌ですもん。

安田

嫌ですよね。ちなみに今回のGOアプリ専任パートですけど。なぜパートなんですか。

石塚

タクシー業界の勤務形態って何十年もずっと同じで。丸1日乗車して、丸1日休み、これを交互にくり返すんです。

安田

ですよね。

石塚

それを今回、初めてパートにした。24時間拘束じゃなく「できるところ数時間でもいいよ」って。いままでは絶対にあり得なかったわけです。

安田

なぜあり得なかったんですか?

石塚

1台のタクシーを2人で休みなく使わせるのが、いちばん効率がいいからです。

安田

タクシーをフル回転させようと思ったら、どうしても労働時間が長くなると。

石塚

そう。ところがAIアプリの登場によって、見込み顧客の発見時間がすごく短縮できるようになった。だから長時間乗車しなくても売上が読めるようになった。

安田

なるほど。フル回転じゃなくても採算が取れるようになったと。

石塚

うまくパートをシフトすればアイドルタイムもなくなるし。「Aさん、Bさん、Cさんでこのタクシーをやろう」みたいな。

安田

4人5人で回したっていいわけですもんね。

石塚

そうです。パートならそれが可能ってことですよ。

安田

たとえば子育て中の主婦を募集するなら昼間の部分だけとか。

石塚

昼間も時間によって何交代かしてもいいし。

安田

夜は夜で、別の人を募集して。

石塚

「夜やりたい」っていう人は夜だけやる。

安田

昼間の短時間でも稼げるんでしょうか。

石塚

GOアプリ100%なら稼げると思います。おそらく指定したエリア待機なので。

安田

稼げちゃうんですね。

石塚

稼げるし、車の走行距離も減るから車の消耗も少なくなる。無駄な時間がないわけですよ。

安田

流しとかはしなくていい? 

石塚

「余計な工夫はしてくれるな」って感じでしょう。アプリの指示通りに動いてくれればそれでいい。

安田

だから待機場所が決まってるんですね。「このへんで待機しておいて」みたいな。

石塚

おっしゃる通り。お手洗いも使えるような公園の横とか。あるいはエリアさえ合えば自宅近くでもいい。

安田

それは便利ですね。人が集まりそう。

石塚

集まると思います。長距離なんて狙わなくたって、1,000円前後の短距離をたくさんやればいい。

安田

新卒で経験がなくてもちゃんと稼げて。次はパートにまで広がっていくんですね。

石塚

女性が一定数増えると一気に流行り始めますよ。

安田

タクシーのイメージがガラッと変わるかも。

石塚

土曜日に高円寺から荻窪まで「GO」を呼んだんですよ。そうしたら、もう絶対新卒だろうと思う女子が運転していて。

安田

若い女性のドライバーが増えましたよね。

石塚

本当にそのとおりで。興味津々いろいろ聞いたら「もうすぐちょうど1年になります」って。

安田

私も新卒の女性ドライバーに聞いたことがあります。「仕事が面白い」って言ってました。

石塚

その女性は旅行代理店業界に行きたかったんですって。だけれどコロナで採用がなくなっちゃって。

安田

かわいそうに。

石塚

それで合同説明会のブースを歩いていたら、日本交通さんから「どうだ」って誘われたそうです。

安田

タクシードライバーになる理由ってやっぱり収入ですか。

石塚

その女子が言うには、お客さんから「ありがとう」って言われることだそうです。応援してくれる人が結構多いんですって。

安田

へえ〜。

石塚

僕も娘みたいな感じがして「がんばって。急がなくていいよ」って。みんなそう言ってくれるんですって。

安田

嫌な客もいそうですけど。

石塚

「嫌なお客さんとかいない?」って聞いたら、みんないいお客さんばっかりだって。アプリだから目的地も間違えないし。楽なんですって。

安田

先に入力しますもんね。

石塚

そう。それと夜はやらないんですって。「えっ、“夜乗れ”とか会社に言われない?」って聞いたら「言われないです。シフトも自由です」と。

安田

そんなので稼げるんですか。

石塚

それで基本給がちゃんと出るんですって。

安田

なんとまあ。これは人気職種になるでしょうね。

石塚

「これは20代でも行くわ」と思いましたね。シフトが自由で、そこそこ稼げて。変な上司もいないし。パワハラもないし。

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石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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