2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。
前回は 第246回「楽天の誤算」
第247回「新たな人気職種の誕生」
タクシー会社が「GOアプリ」に特化したパート募集をするそうです。
アプリがあれば、ノウハウがまったくない人でも稼げちゃうから。
新卒ドライバーも増えましたよね。
あらゆる業種で起こっている、「職人さんを不要にする」というビジネスモデルの一例ですよ。
GOアプリがそれを実現したということですね。
GOアプリは「お客さんを拾う」という仕事をなくしちゃったわけです。
経験がないといいお客さんを拾えなかったですもんね。
「この時間に、この通りを行けば、長距離客が拾える」という、経験と勘でしか稼げない仕事だったわけです。
それを GOアプリが変えた。
アプリで順番に取っていけば稼げてしまう。営業に例えると「見込み顧客を発見する」という仕事から解放したということ。これは凄いですよ。
これまで職人技で稼いでいた人はどうなるんでしょう。
難しいでしょうね。長距離の人ほどちゃんと車を選ぶから。
流しのタクシーは当たり外れが大きいですもんね。
アプリだとドライバーの評価も分かるし。車種もスライドドアの小型バンに変えてるでしょ。あれが快適なんですよ。
あれ、いいですよね。
あれは便利です。座面も高いし。みんな高齢化してきて腰痛の人が多いから、高いほうが楽なんですって。
車体も新しいから綺麗だし。
昔は個人タクシーを選ぶ人も多かったんですよ。車種がクラウンとかで背もたれもフカフカで。
「個人タクシーはちょっとランクが上」というイメージでした。
そうなんです。だけど今は嫌がる人が多いです。腰に負担があるみたいで。
うちの奥さんも個人タクシーを嫌がります。「GO乗ろうよ」って言いますね(笑)
たぶん奥さまは、あの「ニオイ」じゃないかなと思うんですよ。
ああ、なるほど。
個人タクシーは年配のドライバーが多くて。ずっと座ってるから加齢臭が入り交じってる。
確かに。
あれ、僕も嫌ですもん。
嫌ですよね。ちなみに今回のGOアプリ専任パートですけど。なぜパートなんですか。
タクシー業界の勤務形態って何十年もずっと同じで。丸1日乗車して、丸1日休み、これを交互にくり返すんです。
ですよね。
それを今回、初めてパートにした。24時間拘束じゃなく「できるところ数時間でもいいよ」って。いままでは絶対にあり得なかったわけです。
なぜあり得なかったんですか?
1台のタクシーを2人で休みなく使わせるのが、いちばん効率がいいからです。
タクシーをフル回転させようと思ったら、どうしても労働時間が長くなると。
そう。ところがAIアプリの登場によって、見込み顧客の発見時間がすごく短縮できるようになった。だから長時間乗車しなくても売上が読めるようになった。
なるほど。フル回転じゃなくても採算が取れるようになったと。
うまくパートをシフトすればアイドルタイムもなくなるし。「Aさん、Bさん、Cさんでこのタクシーをやろう」みたいな。
4人5人で回したっていいわけですもんね。
そうです。パートならそれが可能ってことですよ。
たとえば子育て中の主婦を募集するなら昼間の部分だけとか。
昼間も時間によって何交代かしてもいいし。
夜は夜で、別の人を募集して。
「夜やりたい」っていう人は夜だけやる。
昼間の短時間でも稼げるんでしょうか。
GOアプリ100%なら稼げると思います。おそらく指定したエリア待機なので。
稼げちゃうんですね。
稼げるし、車の走行距離も減るから車の消耗も少なくなる。無駄な時間がないわけですよ。
流しとかはしなくていい?
「余計な工夫はしてくれるな」って感じでしょう。アプリの指示通りに動いてくれればそれでいい。
だから待機場所が決まってるんですね。「このへんで待機しておいて」みたいな。
おっしゃる通り。お手洗いも使えるような公園の横とか。あるいはエリアさえ合えば自宅近くでもいい。
それは便利ですね。人が集まりそう。
集まると思います。長距離なんて狙わなくたって、1,000円前後の短距離をたくさんやればいい。
新卒で経験がなくてもちゃんと稼げて。次はパートにまで広がっていくんですね。
女性が一定数増えると一気に流行り始めますよ。
タクシーのイメージがガラッと変わるかも。
土曜日に高円寺から荻窪まで「GO」を呼んだんですよ。そうしたら、もう絶対新卒だろうと思う女子が運転していて。
若い女性のドライバーが増えましたよね。
本当にそのとおりで。興味津々いろいろ聞いたら「もうすぐちょうど1年になります」って。
私も新卒の女性ドライバーに聞いたことがあります。「仕事が面白い」って言ってました。
その女性は旅行代理店業界に行きたかったんですって。だけれどコロナで採用がなくなっちゃって。
かわいそうに。
それで合同説明会のブースを歩いていたら、日本交通さんから「どうだ」って誘われたそうです。
タクシードライバーになる理由ってやっぱり収入ですか。
その女子が言うには、お客さんから「ありがとう」って言われることだそうです。応援してくれる人が結構多いんですって。
へえ〜。
僕も娘みたいな感じがして「がんばって。急がなくていいよ」って。みんなそう言ってくれるんですって。
嫌な客もいそうですけど。
「嫌なお客さんとかいない?」って聞いたら、みんないいお客さんばっかりだって。アプリだから目的地も間違えないし。楽なんですって。
先に入力しますもんね。
そう。それと夜はやらないんですって。「えっ、“夜乗れ”とか会社に言われない?」って聞いたら「言われないです。シフトも自由です」と。
そんなので稼げるんですか。
それで基本給がちゃんと出るんですって。
なんとまあ。これは人気職種になるでしょうね。
「これは20代でも行くわ」と思いましたね。シフトが自由で、そこそこ稼げて。変な上司もいないし。パワハラもないし。
石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。
安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。