2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。
第249回「サイバーセキュリティの壁」
いまネット犯罪が多いじゃないですか。
どんどん増えてますね。
その対策としてサイバー捜査員を募集してるんですけど。募集してもぜんぜん来ないそうです。
2019年と20年は採用ゼロですね。
そうなんです。「そもそも、あまり知られていないんじゃないか」とか、「警察官なので、体力が必要だと思われているんじゃないか」みたいな話もあって。
これは理由はひとつしかなくて。採用競合が強すぎて負けちゃっているという、ただそれだけの話ですね。
やっぱりそうなんですか。
はい。それしかないです。この分野の人材って民間でも引く手あまたなので。
福岡県警だと平均年収640~800万らしいですけど。このぐらいだと見劣りしちゃうんですか。
しますね。「800万〜」という感じです。最低がそのライン。
これ以上払うって公務員では難しいですよね。
「エシカルハッカー」といって、通称EHと言うんですけど。
エシカルハッカー?
エシカルは「倫理的な」「道徳的な」という意味で。ハッカーには「白いハッカー」と「黒いハッカー」がいるわけです。
いいハッカーと悪いハッカーですね。
そう。「侵入してやるぞ」というハッカーと、侵入の仕方をわかっていて「防御する」というハッカー。この攻防戦があるわけですよ。
ドラマの世界みたいですね。
サイバーセキュリティ分野では、こういう攻防戦を毎日繰り広げているわけです。「スーパーガードマン」たちが見えないところで守ってる。
それで正常な状態が維持されていると。
そう。だけど人種的にはこのふたつはかなり近いわけですよ。
盗聴する人と、盗聴を発見する人、みたいな関係ですか。
そうそう。仕掛けるほうと発見するほうと。つまり技術は一緒なわけです。それをどっちサイドでやるのかっていう。
ホワイトハッカーになる人は正義感が強そう。警察官になりたい人とかいそうですけど。
いや、どちらかというと、プログラムにずば抜けている人ですね。ある意味変わっている人が多い。
そうなんですね。
“いっちゃってる人”が多いんです。優秀な人ほど“ぶっ飛んでる人”が多いから、制服着て朝8時には会社に行って、とかって合わない。
警察官だとそういう決まりがあるでしょうね。
日本はありそうですよね。だけど採用競合が強すぎるので。
そこを変えた方がいいと。
「服装自由、自宅でOK、報酬は高い、そして面白い話がいっぱいあるよ」って言ったら、話が変わるんですけど。
ネット警察っていう、勝手に犯人捜しをする人がいるじゃないですか。
いますね。
顔写真が出ていない容疑者を特定したり。ああいう人たちにしてみたら、“お墨付き”が出るわけで。希望する人もいそうですけど。
おそらく警察が採用ターゲットをよく分かってないんですよ。
なるほど。
だからデジタル庁はスゴ腕の人たちをみんな落としちゃってます。
人不足なのに落としてるんですか?
「あいつらヤバいやつと付き合っているらしい」とか、「ああいうの、ちょっと倫理的にどうなんだ?」みたいな。
一応、国家公務員ですからね。
そう。「公務員だからこうじゃなくちゃ」っていう暗黙の了解があって。
何でもいいというわけにいかないんでしょうね。
そうなんですよ。
みすぼらしい格好で警察に来られても困るでしょうし。となると、やっぱり採用自体が難しいと。
そういう結論になってしまうんですよ。
本気でここを強化するんだったら、どこかで割り切るしかない?
どっちを取るかですよ。規律とか見た目を気にするのか、サイバー犯罪を抑止するという目的で「スキルさえあればなんでもいいぞ」となるのか。
どっちになると思いますか。
日本では後者は難しいと思う。
ですよね。アメリカだったら平気で雇いそうですけど。
アメリカはハッカーと司法取引して働かせますから。罰するかわりに働かせる。
そのぐらい考えなきゃダメってことですね。
そうなんですよ。ついこの間までハッキングしていたやつを使うのがいちばんいい。
現役ですもんね。
どこまでそこに迫れるかですね。
ちなみに報酬はどうですか?報酬をもっと高くして、能力の高いまともな技術者を集めるとか。お金だけじゃ無理ですか?
お金だけでは無理でしょうね。もちろんIT業界に見劣りしないぐらいの報酬は出さないと来ないでしょうけど。
報酬は必要条件であって十分条件ではないと。
それだけでは十分じゃないです。採用競合が強すぎるので。
腕がいい人はどれぐらいの報酬になるんですか?
最低1,000万から。ただそれは日本での話であって、グローバルだったら2,000万3,000万なんて当たり前。世界はもう単位が違うんです。
公務員なら社会保険制度もあるし、退職金もしっかりしてますけど。
安田さんが言うと、すごく違和感がありますね(笑)
ハッカーになる人は退職金なんて考えませんか。
「退職金?」「は?」みたいな人たちだから。まともな感覚でいっちゃうと話が合わない。
学校で勉強してたどり着く境地じゃないですもんね。
真逆ですよ。才能の世界でもあるし。
「ちょっと偏ったオタク」みたいな人ですか。
ええ。最長10年もやってくれたら良しとしないと。
警官になりたい人ってどういうタイプなんですか?
「気は優しくて力持ち」みたいなタイプですね。
聞けば聞くほどハッカーとはぜんぜんタイプが違いますね。
そこが理解できないとまず採用できないでしょう。
石塚さんがもし警察から依頼を受けたら、どういう条件を出すんですか?
まず「俺を警察庁長官にしろ」ですね(笑)長官の権限で本当に詳しい人を責任者にする。もちろん報酬もはずむ。職場も“秘密のアジト”みたいなのを沖縄の離島とか銀座のど真ん中につくる。
やっぱり日本では無理ですね(笑)
石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。
安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。