第356回「ゆるい転職と遠回りな採用」

この記事について

2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第355回「経営者が手に入れるべきは自分専用AI」

 第356回「ゆるい転職と遠回りな採用」 


安田

20代社員の「ゆるい転職」なるものが流行っていまして。今すぐ転職するわけじゃないけど転職サイトには登録する。

石塚

当然ですよ。いろんなセミナーやコミュニティにも時々顔を出して。

安田

はい。いつでも転職できるように準備しておくみたいです。

石塚

自分の市場価値を常にチェックしたいというのもあるでしょうね。

安田

今の職場に不満があるわけじゃなく、今すぐ転職する気もなく、こうやって活動するのはなぜですか?

石塚

「なぜだ?」って考える方がおかしいんです。そんなの普通ですよ。比較サイトは山のようにあるし。自分がどういう状態なのか把握しておきたいに決まってる。

安田

転職する気もないのに?把握してどうするんですか。

石塚

自分の価値って他人との相対比較だから。社外での評価を知っておきたいって当然じゃないですか。

安田

仮に社外での評価が社内より高い場合は転職も考える?

石塚

当然ですよね。

安田

なるほど。とくに不満がなくても転職しちゃうってことですね。こういう活動をしている20代ってどれくらいの割合なんでしょう?

石塚

少なく見積もっても半分はそうじゃないですか。

安田

半分も!

石塚

それぐらいいますよ。

安田

ネットに登録しておくのは理解できるんですけど。わざわざリアルイベントにまで行きますか。

石塚

いわゆるオフ会みたいなところに行く気持ちはすごく分かります。ネットと違って「ここだけで聞ける話」みたいなものって価値があるから。

安田

どんな価値ですか?

石塚

今はChatGPTに聞けば大概のことは出てくるじゃないですか。だから余計にリアルな声を聞きたいんですよ。安田さんもリアルイベントやってますよね?

安田

確かにやってますね。リアルの方が成果につながりやすいというか。

石塚

それと同じですよ。

安田

逆に考えると、そういうイベントを通して採用している会社があるってことですか。

石塚

当然そうなりますよね。企業はより手間がかかりますけど。

安田

このネット時代にかなりの手間ですよ。

石塚

だけどやる価値はあると思います。条件が似通った会社ってネットでは差別化しにくいから。人と人との繋がりを感じられるコミュニティって売りになるんですよ。

安田

そこでガンガン口説くわけですか?

石塚

いやいや。そんな直接過ぎるコミュニティはZ世代に受けない。キーワードになるのは公益性じゃないですか。社会のためのコミュニティ。新聞の社会面に取材を受けそうな活動。

安田

めちゃくちゃ遠回りですね。

石塚

だからいいんですよ。「うちの会社はこういうことを地域でやっています。よかったら参加して一緒にやりませんか。」って。

安田

そういえばゴミ拾いをスポーツイベントとしてやっている会社がありまして。北海道の古紙回収屋さんですけど。いつの間にか北海道の人気企業になっていました。

石塚

はい。そういう社会性のあるイベントがいいんですよ。一見採用と関係なさそうな。

安田

なるほど。

石塚

僕が採用支援している新聞販売店さんも、所轄の警察署と組んで「地域の防犯活動」をやっています。毎朝毎夕、一定の場所に行くわけじゃないですか。

安田

配達しますからね。

石塚

そう。すると「あれ?なんか表札に変なマーキングしてある」とか「普段見かけない人がちょっとたむろってる」とか。配達中に出くわすわけですよ。

安田

それを通報するんですか?

石塚

今までだったら「余計なことすんな」って言われそうじゃないですか。それを「大歓迎です。ぜひ勉強会やりましょう」って所轄の警察が言ってくれる。地域の防犯に役立つわけですよ。

安田

警察も人不足ですからね。

石塚

そうそう。新聞を配達しながら「一緒に地域の安心と安全を守るんだ」って。

安田

それで採用に結びつきますか?

石塚

地元の大学生がそういうメッセージを見て「じゃあちょっと夏休みここでバイトしようかな」ってなるじゃないですか。

安田

なるほど。報酬より保安活動に興味があって応募してくると。結果的に新聞店さんはスタッフの確保が出来ちゃう。

石塚

そういう中長期的な仕掛けをする会社が増えてますね。ただ間違えちゃいけないのは共感が大事ってこと。採用丸出しのイベントは共感されない。

安田

一見遠回りに見える活動が採用の近道ってことですね。

石塚

ゆるい転職の時代には効果的だってことです。

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石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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