変と不変の取説 第73回「見える病気と見えない病気」

「変化だ、変化だ、変化が大事だ」とみなさんおっしゃいますが、会社も商品も人生も、「変えなくてはならないもの」があるのと同様、「変わらないもの」「変えてはならないもの」もあるのです。ではその境目は一体どこにあるのか。境目研究家の安田が泉先生にあれやこれや聞いていきます。

 第73回「見える病気と見えない病気」

前回、第72回は「オペレーションはどこまで残る?」

安田

東洋医学について聞きたいんですけど。

はい。

安田

じつは最近、鍼灸院さんのブランディングを手伝ってまして。

ほう。

安田

失礼ながら「ちゃんとした医療なんだ」ってことが、分かりました。

ちゃんとした医療ですよ。もちろん。

安田

「東洋医学って怪しいんじゃないの?」っていうイメージがあるじゃないですか。

ありますね。残念なことに。

安田

でも良く考えてみたら、西洋医学が入ってくる前はずっと東洋医学でやってきたわけで。なぜこんなイメージができちゃったんですか。

ひとつはやっぱり、明治維新のときに西洋化したところがスタート。「西洋のほうが優れている」という刷り込みをしたわけです。

安田

「東洋は遅れている」と。

はい。「西洋が進んでいるので、早く文明追いつこう」ってなった瞬間に「東洋医学は古い」と。

安田

ひどいですね。今まで世話になってたのに。

西洋医学をどんどん導入したので、東洋医学の価値を伝承できる人がいなくなっていったんです。それでだんだん廃れていった。

安田

なるほど。でも実際にツボとか経絡って医学的なエビデンスは弱いですよね。

科学的に証明されてないってことですか?

安田

たとえば西洋医学だと、肩が痛いときには肩に痛み止めを貼るじゃないですか。

西洋医学は対処療法ですから。

安田

でも東洋医学だと、肩が痛いときに足に針を刺したりする。だから「なんで肩がよくなるの?」って疑問が残って、怪しく見えちゃう。

東洋医学は元々持ってる力を引き出したり、滞ってる気の流れを調整するんです。

安田

はい。確かに実際やってもらうと凄く楽になる。あれは気持ちの問題なんですか。それとも人類が解明できてない領域なんですか?

人類が解明できてない領域だと思います。

安田

やっぱりそうですか。

そもそも「気」というものがまだ解明されてないので。

安田

気というのは実際にあるものなんですか?

ありますね。

安田

じゃあ、いずれその正体が解明されるんですか。

どうでしょう。気の計測器ができたら解明されるかもしれないですね。

安田

東洋医学は分かりにくいので、どうしても西洋医学より下に見ちゃいます。

じつはアメリカでは、いま鍼灸院がどんどん出来てるんです。

安田

日本のほうが遅れてる?

遅れてますね。

安田

アメリカ人ってエビデンスがないものは信じないイメージですけど。

そんなことないです。禅なんかも凄く流行ってますし。

安田

なるほど。

日本には「東洋医学が古くさくて、西洋がすばらしい」という“上書き”の時代があった。でも彼らにはそれがないからフラットに見れるんでしょう。

安田

なぜ今さら東洋医学を取り入れるんですか?

何かしら限界を感じてるんでしょうね。彼らにとっての新しい答えを探している。

安田

なるほど。彼らにとっては新しいわけですね。

東洋医学って予防医学なので。アメリカは慢性病が多いじゃないですか。成人病みたいな。

安田

多いですね。肥満とか。

急に病気になるわけじゃなくて、ジワジワと病気になっていく。東洋医学は慢性病に効くんですよ

安田

治すのではなく、病気にならないようにするっていう思想ですよね。

「未病」と言います。

安田

それが新しいと。

はい。

安田

そもそも人間ってなぜ病気になるんですか。

東洋医学的にいくと、病気というのは健全な状態なんですよ。

安田

え!病気が健全?

はい。体が治ろうとする過程。それが病気として現れています、という考え方。

安田

じゃあ病気になるのは正しいってことですか?

ちゃんと病気になれる人は健康なんですよ。だから「ちゃんと病気になってください」ってことです

安田

風邪ひいた時に熱が出るのと一緒ですか。

そうです。風邪ひいて熱が出る人は健全なんです。

安田

なるほど。

老人になってくると熱が出なくて逆に死んでしまう。体が健全に病気になれないので。

安田

へえ。でもガンみたいな病気もあるじゃないですか。

あれは体が滅んでいく病気ですね。健全でない状態が積み重なると、ああいう病気になる。

安田

正しい病気をやらないと、間違った病気になるってことですか?

そういうことです。健全な病気と不健全な病気がある。

安田

いまいち「健全な病気」ってイメージが湧かないんですけど。

体がよくなるために、体の声として「休め」とか「動くな」っていう、メッセージとしての病気。

安田

ああ、なるほど。症状としては正常じゃないけど、正常になろうとして起こっている現象だと。

そうです。

安田

じゃあ正常に向かっていくための病気は悪いことじゃないと。

はい。健全な病気ですね。

安田

どんどん悪くなる病気はよくない病気?

そうです。そこまで行っちゃったら、西洋医学でブチッとガン細胞を切るしかない。

安田

なるほど。じゃあ西洋医学も間違ってるわけじゃない。

間違ってないです。対処療法だというだけ。

安田

みんなが未病の状態になったら、西洋医学はいらなくなりますね。

医療費がだいぶ安くなります(笑)

安田

じっさい、病気にならないことって可能なんでしょうか。

ウイルスなんかも、たまたま体調が悪いと感染してしまう。病気ってそういう意味では偶発的な世界なんですよ。

安田

偶発的?

はい。世の中には偶発という領域がある。東洋医学はそこに焦点を当てた医療かなと思う。

安田

気やエネルギーの流れで偶発的な病気が防げるってことですか?

人間には「まだ理解できないもの」がたくさんあるんですよ。

安田

それは、あるでしょうね。

理解できないまでも「それを防いでいく」という思想。それが東洋医学の根底にはある。


場活師/泉一也と、境目研究家/安田佳生
変人同士の対談


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第1回:「変わるもの・変わらないもの」
長い間、時間をかけて構築された、感覚や価値観について問い直します。

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