第125回 社長という「権利収入」の終焉

この対談について

人は何のために働くのか。仕事を通じてどんな満足を求めるのか。時代の流れとともに変化する働き方、そして経営手法。その中で「従業員満足度」に着目し様々な活動を続ける従業員満足度研究所株式会社 代表の藤原 清道(ふじわら・せいどう)さんに、従業員満足度を上げるためのノウハウをお聞きします。

第125回 社長という「権利収入」の終焉

安田

私は25歳で起業したんですが、当時はなんとなく人を雇い、当たり前に借金を重ねながら会社を大きくしていきました。でも冷静に考えたら、人を雇うってなかなかリスキーだなと思いまして。


藤原

確かに、冷静に考えたら怖いですよね。

安田

そうなんです。売り上げがゼロでも採用した翌月から無条件に給料も社会保険も払わないといけない。その代わり、儲かったらトップが総取りというトレードオフがあった。


藤原

そういうリスクの裏返しみたいなことはありましたね。リスクを取った人だけが大きな利益を得るというか。

安田

そうなんです。変な話、当時は毎日ゴルフしててもお金が入ってきたわけです。でも「俺はその分リスクを背負ってきたんだ」と言えたわけですよ。それで皆も納得していた。


藤原

リスクの裏返しとして、「うまくいったときに社長が楽をするのは当然だ」という雰囲気はありましたよね。社員たちも「まあ社長はリスク背負ってるからな」と受け入れていた。

安田

ええ。でも今の時代、リスクを負ってるからという理由で社長が総取りはもう無理なんじゃないかと思ってまして。当時みたいな納得感は薄れてきている感じがするんですよ。


藤原

わかります。よほどすごいビジネスモデルを作り上げた方は別だと思いますけど、普通の中小企業ではもう通用しないでしょうね。

安田

ああ、やっぱりそう思われますか。


藤原

ええ。もちろん、例えばユニクロやソフトバンクのようなクラスになると、社員の権利もしっかり守られていて、一般社員のリスクとリターン、役員に求められるものが明確に設計されている。そういう仕組みの上で柳井さんや孫さんが莫大な富を得ていても、誰も文句は言わないでしょうけどね。

安田

しかも社員の給料自体が高いし、幹部になれば十分すぎる報酬がある。孫さんも柳井さんも誰よりも朝早くから働いていたという実績もありますからね。仰るとおりそういう企業は今でもしっかり納得感が維持されている。問題なのは中小企業の方で。


藤原

そうですね。まあでも、中小企業の社長さんの中には、「ある程度まで頑張ったらあとは社員に任せて悠々自適」というのを目指す方も多いんでしょうね。

安田

そうそう。大手の下請けで仕事が入ってくる仕組みがあって、番頭さんみたいな人が現場を回してくれて。でも今は人手不足で、社長がベンツに乗っていい思いをしているのに社員はカツカツ、みたいな構図がそもそも成り立たなくなってきている。


藤原

人が集まらないという一点において、そのゴールは完全に消えましたね。前時代的な仕組みがギリギリ続いているところはあるかもしれませんけど、これから新たに目指す方向としてはナンセンスな気がします。

安田

そうですよね。若い経営者でもそこを理解している方が増えてますけど、まだ「一発当てて大金持ちに」という人もいて。社員にガンガン仕事をこなさせて、給料はさほど高くない。それなのに退職者にすごく腹を立てている人がいるんですよ。


藤原

「誰がそんなところで働きたいんですか」って話ですよね(笑)。「俺はリスクを背負ってるんだ」という言い分はもう通用しない。「じゃあ一人で頑張ってください」と離れていかれるだけですから。

安田

でもそれが伝わらないんですよね。「俺は若い頃にもっと苦労した、社員は甘えている」と本気で思っている経営者がまだいるんです。


藤原

結局、自分の成功体験の中にしか正解がないと思っているんでしょうね。時代が変わっているのに過去の成功パターンを引きずっている。それでは社員がついて来ませんよね。

安田

ええ。ある程度利益が出たときにちゃんと社員にも配分し、よりやりがいを持てる現場を作り続ける。そういう経営の仕事をやり続けないと。「俺の権利収入だ」となった時点で、普通の中小企業は終わりじゃないかと。

藤原

仰るとおりで。要は経営者自身が、自分の好きなことが仕事になっていないとダメだということだと思うんです。会社員は自由がなくて経営者は好きなことができると思っている人がいますけど、案外経営者でも仕事が好きじゃない人って多いですよね。

安田

「お金のため」と割り切ってやっている人は多いですよ。「稼いで早く楽になりたい」という発想で経営している人が、私の周りにもたくさんいて。でも社長がちやほやされる生活に憧れて起業する時代はもう終わりだと思うんです。

藤原

同感です。そもそも「リスクを取ったんだから権利収入は当然だ」と思っているからこそ、「成功したら俺はもう仕事しない」という思考になってしまう。それって仕事が好きじゃないと自分で認めているようなものだと思うんです。

安田

株や不動産で利益を得ているのなら別ですけど、会社の場合は相手が人間ですから。昔みたいに「雇ってやる」という態度でも人が来た時代とは違う。今は一人でも仕事ができてしまう人がいくらでもいますからね。

藤原

「楽してリッチな生活を手に入れるために会社を作る」という発想自体がもう無理ですよ。それに成り立たないだけじゃなく、それだと結局人生つまらないと思うんです。事業そのものの方がよっぽど楽しいと思うんですけど。

安田

いや、私の知る限り、事業が楽しいという社長の方が少ないですよ。圧倒的にお金目的で、早く楽になりたくて頑張っている。でもこれからは、そのやり方では儲からなくなっている。経営は本当に好きじゃないとできない時代になっていると思います。

藤原

見方によっては、それが成り立たなくなってきた世の中って、いい方向に行っている気がしますけどね。逆に言えば、社員を大事にする経営者がちゃんと報われる時代になってきたということですから。少子化の唯一の恩恵かもしれません。

安田

ああ、確かに。少子化になってよかったのかもしれませんね。私は昔から社長室だけ立派で社員がボロボロの机というのが嫌で、社長室を作らずに社員のスペースを豪華にしていたんです。「なんでそんなバカなことを」と周りには言われましたけど(笑)。

藤原

ちょっと時代が早すぎましたね(笑)。でもようやく世の中がそっちに追いついてきた。好きでやり続けられる人だけが経営者として残っていく、そういう健全な時代がようやく来たんだと思います。

 


対談している二人

藤原 清道(ふじわら せいどう)
従業員満足度研究所株式会社 代表

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1973年京都府生まれ。旅行会社、ベンチャー企業を経て24歳で起業。2007年、自社のクレド経営を個人版にアレンジした「マイクレド」を開発、講演活動などを開始。2013年、「従業員満足度研究所」設立。「従業員満足度実践塾」や会員制メールマガジン等のサービスを展開し、企業のES(従業員満足度)向上支援を行っている。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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