さよなら採用ビジネス 第92回「緊急の境目」

この記事について

7年前に採用ビジネスやめた安田佳生と、今年に入って採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第91回『プロ経営者の境目』

 第92回「緊急の境目」 


安田

コロナで採用がパッタリ止まりましたね。

石塚

今まで散々「採れない」って言ってたのは何だったのか。

安田

人口構成が変わるわけじゃないんですけどね。

石塚

その通り。

安田

なんで中小企業って、大手が採用やるときに採りたがるんですかね?お金はかかるし、いい人採れないし。

石塚

まったく同感ですね。まあ一言でいえば「人に関して分かってる人」が中小企業にはいないんですよ。

安田

人に関して分かってないと。

石塚

そう思いますね。お金に関しては、資金繰りとか調達が上手な人はいる。でも人に関して「うまいなぁ」って感じる中小企業はまずない。

安田

中小企業の経営者さんは人の調達が下手だと。

石塚

そうです。もともとセンスがない。

安田

それは、どういうところを見て感じるんですか?

石塚

「人に興味がない」っていうパターンが一番多いです。

安田

人に興味がない?経営者なのに。

石塚

中小企業の経営者さんの、第一の興味は自社の商品とサービス。技術屋だったら技術。その次がお金。

安田

へぇ。人じゃないんですね。

石塚

違いますね。税金対策の方がまだ興味がある。

安田

「人を増やすのが好き」っていう社長さん、私の周りには結構いますけど。

石塚

そういう人は多いです。

安田

じゃあ社員を増やしたいのと、人に対する興味は別ってことですか?

石塚

別ですね。

安田

朝礼で社員に話をするのが好きとか、社員を連れて飲みに行くのが好きとか。人に興味なくはないと思うんですけど。

石塚

僕が言いたいのは、人を採ることとか組織をつくることに、本気で取り組んでないってこと。ちゃんと「組織として出来上がってる中小企業」って、ないでしょ?

安田

まあ、ないですね。

石塚

よく例えるんですけど、中小企業って大名じゃないんですよ。大名はやっぱ大企業。

安田

大名?

石塚

はい。中小企業は大名ではなく豪族。強い家父長を中心に一族郎党がそこに車座してるみたいな。

安田

でも豪族だったら余計に人と人が近いんじゃないですか。人に対する興味とか悩みとか、より一層大きくなりそうですけど。

石塚

優秀な人を採るとか、強い組織をつくるとか、口で言ってる割には行動が伴わない。

安田

なるほど。じゃあ人に興味がないというより、採用に興味がないってことですね。

石塚

そういうことです。人の調達に興味がない。

安田

だけど「優秀な子が欲しい」「社員のレベルを上げたい」って、いつも言ってますよ。

石塚

言ってるけど、その気持ちが長続きしないんですよ。

安田

へぇ。

石塚

そういう気持ちになるのは事実です。でも忘れちゃう。

安田

忘れちゃう?

石塚

そう忘れちゃう。中小企業って日々いろんなことがあるから。だから優先順位が下がっちゃう。

安田

でもコロナの前はみなさん相当焦ってましたよ。

石塚

構造的に採れなくなったから慌て始めたわけです。

安田

そんなの昔からじゃないですか。

石塚

昔は多少目をつぶれば、人はいくらでも来た。

安田

なるほど。目をつぶっても採れなくなったと。

石塚

その通り。

安田

で、事業が回らなくなった。

石塚

そう。回らなくなって焦り始めた。

安田

もともと採用熱心な社長もいますけどね。新卒の説明会には「社長自ら必ず行く」みたいな。

石塚

それは、かなり少数派ですね。

安田

へぇ。そうなんですね。私の周りには多いですけど。

石塚

それは安田さんがそういう発信をし続けてるから。だからそういう人が集まってくるだけ。

安田

なるほど。

石塚

よく「ヒト・モノ・カネ」って言いますけど、中小の経営者は順番が逆。「カネ・モノ」ですね。

安田

ヒトは?

石塚

ヒトまで行く人って、なかなか少ない。

安田

え!ヒトまで行かないんですか?

石塚

はい。ヒト・モノ・カネをバランスよく考えられる社長って、実はすごく少ない。まずカネが回って、モノを買って、最後に付け足しみたいな感じ。

安田

カネが大事っていうのは分かりますけど。モノに関してもあんまり考えてない気がします。

石塚

僕が言ってる“モノ”は設備やシステムの投資ですね。

安田

なるほど。商品開発という意味の“モノ”ではなく。

石塚

商品開発に関してはおっしゃるとおりです。従来のことを従来どおり繰り返すだけ。それはヒトに関しても同じ。従来のことを従来どおり繰り返すだけ。

安田

でも「とにかく人を入れれば利益が上がる」という時代は、もう終わりですよ。

石塚

そこまで思い至らないですよ。コロナ前はとにかく人が取れなかったので。

安田

じゃあ「人さえ採れれば何とかなる」って思ってたんですか?この時代に。

石塚

そこは変わってないですね。

安田

でも、それじゃあ利益が出ないですよ。この時代。

石塚

おっしゃるとおりです。ただ中小企業って歴史のある会社が多いので。

安田

それが関係あるんですか?

石塚

たとえば社歴30年の会社って、30年間なんとかなってきたんですよ。

安田

これまではそうだったかもしれませんけど。もはやなんとかなったりしませんよ。

石塚

そうなんですけど。なんとかなるという気持ちが根底にあるんです。

安田

それが抜けきらないと。

石塚

もちろん「このままじゃダメだ」という考えはあるんですよ。

安田

ですよね。わざわざ私の講演を聞きに来てくれたりしますし。

石塚

はい。それが重要なことはわかってる。分かってるし「安田さんの言うとおりだよな」とも思う。

安田

じゃあ話は早いじゃないですか。。

石塚

いやいや。そこから腰が重いんですよ。

安田

確かに。「いい話でした」って言ってもらえますけど、実際に変わる人はほとんどいませんね。

石塚

まあ100人にひとりでしょうね。緊急性がないから優先順位は下がっていく。

安田

十分緊急性はあると思いますけど。

石塚

彼らにとっての緊急って、倒産が目の前に見えたときですから。

個人で出来る、採用支援。
\ 石塚本人がスキルを伝える /
石塚求人大学開講 受講生募集中
詳しくはClick

石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

感想・著者への質問はこちらから