7年前に採用ビジネスやめた安田佳生と、今年に入って採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。
前回は 第91回『プロ経営者の境目』
第92回「緊急の境目」
コロナで採用がパッタリ止まりましたね。
今まで散々「採れない」って言ってたのは何だったのか。
人口構成が変わるわけじゃないんですけどね。
その通り。
なんで中小企業って、大手が採用やるときに採りたがるんですかね?お金はかかるし、いい人採れないし。
まったく同感ですね。まあ一言でいえば「人に関して分かってる人」が中小企業にはいないんですよ。
人に関して分かってないと。
そう思いますね。お金に関しては、資金繰りとか調達が上手な人はいる。でも人に関して「うまいなぁ」って感じる中小企業はまずない。
中小企業の経営者さんは人の調達が下手だと。
そうです。もともとセンスがない。
それは、どういうところを見て感じるんですか?
「人に興味がない」っていうパターンが一番多いです。
人に興味がない?経営者なのに。
中小企業の経営者さんの、第一の興味は自社の商品とサービス。技術屋だったら技術。その次がお金。
へぇ。人じゃないんですね。
違いますね。税金対策の方がまだ興味がある。
「人を増やすのが好き」っていう社長さん、私の周りには結構いますけど。
そういう人は多いです。
じゃあ社員を増やしたいのと、人に対する興味は別ってことですか?
別ですね。
朝礼で社員に話をするのが好きとか、社員を連れて飲みに行くのが好きとか。人に興味なくはないと思うんですけど。
僕が言いたいのは、人を採ることとか組織をつくることに、本気で取り組んでないってこと。ちゃんと「組織として出来上がってる中小企業」って、ないでしょ?
まあ、ないですね。
よく例えるんですけど、中小企業って大名じゃないんですよ。大名はやっぱ大企業。
大名?
はい。中小企業は大名ではなく豪族。強い家父長を中心に一族郎党がそこに車座してるみたいな。
でも豪族だったら余計に人と人が近いんじゃないですか。人に対する興味とか悩みとか、より一層大きくなりそうですけど。
優秀な人を採るとか、強い組織をつくるとか、口で言ってる割には行動が伴わない。
なるほど。じゃあ人に興味がないというより、採用に興味がないってことですね。
そういうことです。人の調達に興味がない。
だけど「優秀な子が欲しい」「社員のレベルを上げたい」って、いつも言ってますよ。
言ってるけど、その気持ちが長続きしないんですよ。
へぇ。
そういう気持ちになるのは事実です。でも忘れちゃう。
忘れちゃう?
そう忘れちゃう。中小企業って日々いろんなことがあるから。だから優先順位が下がっちゃう。
でもコロナの前はみなさん相当焦ってましたよ。
構造的に採れなくなったから慌て始めたわけです。
そんなの昔からじゃないですか。
昔は多少目をつぶれば、人はいくらでも来た。
なるほど。目をつぶっても採れなくなったと。
その通り。
で、事業が回らなくなった。
そう。回らなくなって焦り始めた。
もともと採用熱心な社長もいますけどね。新卒の説明会には「社長自ら必ず行く」みたいな。
それは、かなり少数派ですね。
へぇ。そうなんですね。私の周りには多いですけど。
それは安田さんがそういう発信をし続けてるから。だからそういう人が集まってくるだけ。
なるほど。
よく「ヒト・モノ・カネ」って言いますけど、中小の経営者は順番が逆。「カネ・モノ」ですね。
ヒトは?
ヒトまで行く人って、なかなか少ない。
え!ヒトまで行かないんですか?
はい。ヒト・モノ・カネをバランスよく考えられる社長って、実はすごく少ない。まずカネが回って、モノを買って、最後に付け足しみたいな感じ。
カネが大事っていうのは分かりますけど。モノに関してもあんまり考えてない気がします。
僕が言ってる“モノ”は設備やシステムの投資ですね。
なるほど。商品開発という意味の“モノ”ではなく。
商品開発に関してはおっしゃるとおりです。従来のことを従来どおり繰り返すだけ。それはヒトに関しても同じ。従来のことを従来どおり繰り返すだけ。
でも「とにかく人を入れれば利益が上がる」という時代は、もう終わりですよ。
そこまで思い至らないですよ。コロナ前はとにかく人が取れなかったので。
じゃあ「人さえ採れれば何とかなる」って思ってたんですか?この時代に。
そこは変わってないですね。
でも、それじゃあ利益が出ないですよ。この時代。
おっしゃるとおりです。ただ中小企業って歴史のある会社が多いので。
それが関係あるんですか?
たとえば社歴30年の会社って、30年間なんとかなってきたんですよ。
これまではそうだったかもしれませんけど。もはやなんとかなったりしませんよ。
そうなんですけど。なんとかなるという気持ちが根底にあるんです。
それが抜けきらないと。
もちろん「このままじゃダメだ」という考えはあるんですよ。
ですよね。わざわざ私の講演を聞きに来てくれたりしますし。
はい。それが重要なことはわかってる。分かってるし「安田さんの言うとおりだよな」とも思う。
じゃあ話は早いじゃないですか。。
いやいや。そこから腰が重いんですよ。
確かに。「いい話でした」って言ってもらえますけど、実際に変わる人はほとんどいませんね。
まあ100人にひとりでしょうね。緊急性がないから優先順位は下がっていく。
十分緊急性はあると思いますけど。
彼らにとっての緊急って、倒産が目の前に見えたときですから。
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石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。
安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。