第10回 官僚経験は理想のキャリアプラン?

この対談について

国を動かす役人、官僚とは実際のところどんな人たちなのか。どんな仕事をし、どんなやりがいを、どんな辛さを感じるのか。そして、そんな特別な立場を捨て連続起業家となった理由とは?実は長年の安田佳生ファンだったという酒井秀夫さんの頭の中を探ります。

第10回 官僚経験は理想のキャリアプラン?

安田
以前聞いた「昔に比べて、役所を辞めた理由を聞かれる回数が減った」って話が面白いと思ったんですけど。「そりゃ辞めるよね」って思う人の方が多くなったってことなんですかね。

酒井
そうでしょうね。それに、そもそも役所を辞める人数自体が増えてるんだと思います。
安田
ああ、なるほど。辞める人が珍しくなくなっちゃったってことですね。

酒井
そうですね。例えば以前だったら、名前を伏せたプロフィールを見ただけで、私だとわかっちゃう人もいるくらいでした。つまりそれだけ辞める人が少なかったんですけど、今の20代だと、2〜3割は辞めてるんじゃないかと思います。
安田
へえ、そんなにいるんですね。昔は20代で辞めるなんて考えられなかったと。

酒井
昔は本当に少なくて、毎年0人が当たり前で、いても1人とか。ただ、僕の代では40人中6人が20代で辞めたんです。これは前後の年を見ても前代未聞で(笑)。
安田
へぇ。ひどい世代だったんですね(笑)。でもある意味、国を変えるんだったら、「辞めてしまうくらい勢いのある人」を採用するっていうのは戦略的には間違ってないような。

酒井
そうですね。僕の代を採用した方は、そういう思いだったみたいです。その後議員になって今は市長さんになられてるんですけど、よく「役所を辞めるつもりぐらいの人間でないといかん」と仰っていたので。
安田
で、その言葉通りにご本人も辞められて(笑)。

酒井
そして、我々も辞めると(笑)。
安田
そうなると、さすがに採用の方向性も見直されるんじゃないですか?

酒井
と言うよりも、実は役所には人事部というものが存在しないんです。今まで政策をやってた人が持ち回りでやるので、毎年採用する人のカラーが変わるんですけど。
安田
へえ。面白いですね。

酒井
おそらく我々の代でそういうちょっと変わった人を入れ過ぎたので(笑)、次の代の人はもう少し「まともに組織に仕える人」を採用してたような気はします。
安田
なるほど、揺り戻しがあったわけですね(笑)。

酒井
そうなんでしょうね(笑)。
安田
官僚で辞める人が増えてきたってことなんですけど、大企業でも特に20代は、新卒より転職組の方が幅を利かせてるぐらい、辞める人が増えていて。新卒入社の段階で、「一生この会社で勤め上げるぞ」っていう人がほとんどいないらしいんです。

酒井
大企業といえども、もう死ぬまで働く前提じゃないんでしょうね。
安田

そういう意味では、最初から何年かで辞めるつもりで官僚になる人も増えてるんですかね?


酒井
増えていると思います。キャリアとして考えても、20代で役所の経験をしていることは大きな強みになると思いますね。
安田
それはそうですよね。だって、ルールを作ってる側の思考がわかるわけですから。

酒井
ええ。大きな視座で物事を考えるのに慣れていますし、官僚だからこそ会える人とかもいますから。
安田
立派な人脈もできますよねえ。

酒井
そうですね。ただ人脈そのものより、すごい人と会ってもビビらなくなるのが大きいと思います。総理とか大臣とかも、その辺にいるおっちゃんぐらいの感覚になるので(笑)。
安田
笑。確かに、それはなかなか得られない感覚ですね。

酒井
ええ。ですから20代で官僚として経験を積み、その後30代で民間のビジネスを経験して、40代でまた官僚に戻る、というキャリアプランはアリですよね。むしろそういう人の方がいい政策が打てるんじゃないかな。
安田

じゃあ例えば、官僚を目指している後輩から「将来的に起業するつもりなんだけど、最初は官僚の仕事で勉強しようと思ってます」みたいな相談を受けたらどうします?


酒井
最近私が学生に言ってるのは、「起業経験はむしろ大学生時代に済ませておいた方がいい」ってことですね。大学生で起業するのが既にトレンドになってますし、事業が世の中に知られた際、代表が大学生だとわかるとチヤホヤしてもらえるので。
安田
それは絶対そうですよね、有名な社長さんにも会いやすかったり。

酒井
そうですよね。起業を大学生時代に済ませて、その後「公共的なこともやりたいから役所で3年ぐらい働いてみる」っていうのはいいですよね。結構強いキャリアだと思います。
安田

なるほど。公務員試験を受ける上で、「大学の時に起業するようなタイプはちょっと良くないんじゃないか」みたいな話にはならないんですかね。


酒井
いえ、逆にそういう人を欲しがると思います。少なくとも経済産業省では、ベンチャー育成や企業育成もやっていたりもするので。最近では、経済産業省の審議会の委員をやってる学生社長さんもいますし。
安田
へえ、そうなんですね。何年か官僚をやって再び実業に戻るとしても、それは暗黙の了解として受け入れてくれるんですかね?
酒井
まあ、それは採用担当者の考え方によるんだと思います。「学生時代にこれを経験したから、それを国にも活かしたいんだ」みたいな意識は求められるでしょうね。
安田
そうすると、理想のキャリアステップとしては、大学生で起業してある程度稼いでおいて、その後、国のためにと言いつつ視座の高いところで勉強して、そこからまた実業に戻るのもありって感じですかね。

酒井
学生へのアドバイスとしてはまさにそうですね。ただ、国側がそういう人をうまく育成できるかというと、課題はあるかと思いますけどね。
安田
なるほど。ちなみに、官僚になりたいと思ったら、やっぱり新卒の方が入りやすいんですか?

酒井

入りやすいという以前に、官僚への入り口は原則として新卒だけなんです。中途も公募で徐々に入れ始めてはいますけど、「3年間だけ出向で働く」というようなパターンが多いので。

安田

そうなんですか。中途採用者にとっては大企業よりさらに狭き門になりますね。


酒井

そうですね。さらに言えば、官僚になるにはまず公務員試験を受けなきゃいけないんですけど、中途だと試験に合格してなくても採用されています。

安田

そうすると、中途で官僚になってどれだけ頑張っても、公務員資格がないから幹部にはなれないということはあるんですか?


酒井
ええ、そこの扱いが微妙でして。もちろん登用制度とかもあるんですが、過去に試験に合格していれば中途でも正当性があるので。良くも悪くも新卒で入っておいた方がいいって言うのは、中途でキャリア官僚になるチャンスはほとんどないってことなんですよ。
安田

なるほど。理想のキャリアプランを叶えるには、学生の時から先を見越して動けるかどうかが決め手になりそうですね。

 


対談している二人

酒井 秀夫(さかい ひでお)
元官僚/連続起業家

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経済産業省→ベイン→ITコンサル会社→独立。現在、 株式会社エイチエスパートナーズライズエイト株式会社株式会社FANDEAL(ファンディアル)など複数の会社の代表をしています。地域、ベンチャー、産官学連携、新事業創出等いろいろと楽しそうな話を見つけて絡んでおります。現在の関心はWEB3の概念を使って、地域課題、社会課題解決に取り組むこと。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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