第16回 国の借金はだれの責任?

この対談について

国を動かす役人、官僚とは実際のところどんな人たちなのか。どんな仕事をし、どんなやりがいを、どんな辛さを感じるのか。そして、そんな特別な立場を捨て連続起業家となった理由とは?実は長年の安田佳生ファンだったという酒井秀夫さんの頭の中を探ります。

第16回 国の借金はだれの責任?

安田
今回は「国の借金」について聞いてみたいんですが。国の借金=国債ってことですが、国債はあくまで「政府の借金」であって国民の借金ではない、と言う人もいますよね。一方で、増税して国民に返済させろ、という声もある。

酒井
確かに、意見の分かれるところではありますね。
安田
その点、国を実質的に動かしている官僚さんからすると、「国の借金」は「国民の借金」なのか「政府の借金」なのか、どっちなんでしょうか?

酒井
それは考え方次第というか。ともあれ、どちらと考えるにしても、政府が自由に使っていいお金ではないですよね。
安田
そうなんですか?「政府の借金」と考えればそれは政府のお金なんですから、政府の意向で自由に使えるんだと思ってましたけど。

酒井
いやいや、あくまで「国民が幸せになるかどうか」を考えて、慎重に使わなければなりません。
安田

なるほど。でもいずれにせよ借金は借金なわけで、いつか返さなきゃならない。そのあたり政府はどういう算段でいるんでしょうか。


酒井
それについては2つあって、1つは「将来的に増税して返せばいい」というもの。もう1つが「将来的なインフレに収れんさせる」というもの。で、いずれの理屈でも「今は」使ってもいいという考え方になるわけです。
安田

なるほど(笑)。でもそれって随分乱暴な考え方じゃないですか? 10年後20年後にどうなっているかなんて、誰もわからないわけで。そもそも誰も生きてないかもしれない(笑)。


酒井
そうですね(笑)。逆に言えば、わからないからこそ選択できるのかもしれません。
安田
そういうものですか。でも「国の借金」って、国が発行した国債を、銀行が「国民の預金」を運用して買ってるわけで、間接的には国民が買ってるのと同じですよね。

酒井
そうですね。国債を「国民の借金」ではなく「政府の借金」だとする見方の根拠はそこで、国民が国にお金を貸してる状態と捉えてるわけですね。
安田
だとすると、おかしくないですか。「国が国民から借りてるお金」を返済するために税金を上げる? それって、国民に返すために国民がお金を払ってることになりませんか?

酒井
まあ、そうとも言えますね(笑)。ただ、将来どうやって国がお金を返すのか? を考えると、国が税金を上げてそこから払ってくれるという理屈なので。でも、さらに言えば、「借金を返さない」というのも政策としてはあり得るかもしれないんですよ。
安田
えっ、貸してたお金が返ってこなくなったら、それこそ国民が困るじゃないですか。

酒井
それはそうなんですけど、貸してるのって実は一部のお金持ちなんですよね。お金に余裕がない人は国債も銀行預金もないので、そういう意味では「国の借金」に関与してないわけです。
安田
なるほど。国が借金を返さなくても、みんながみんな困るわけじゃないんですね。

酒井
極論ですが、そういう考え方もできると思います。
安田

返す返さないの論点で考えると、金利だけ払って借り続けてくれた方が銀行としては嬉しいんですよね。そうすると、金利さえ払っていれば別に返す必要がないんじゃないかという理屈も出てくると思うんです。


酒井
もちろんそういうことも考えられるでしょうね。
安田
だから国債の金利をものすごく下げて、「国債は買い戻さないけど利子は払い続けます」と宣言したら成立するような気がするんですけど、どうなんでしょう?

酒井
一応成り立つとは思いますが、状況によるというか。国にしても企業にしても、借り続けることができるのは、元本も返す当てがあるし、かつ、「金利を払えるくらいの余裕がある」と思われている間だけであって。
安田
確かに。企業も経営状態が悪くなってくると、途端に銀行に返さなきゃいけなくなりますもんね。

酒井
ええ。国債も同じで、国民に「国が金利をずっと払い続けてくれる」と思われているうちはいいですが、「もう無理でしょ」となった瞬間に終わるわけです。
安田

とはいえ、日本人は「日本という国」というか「日本円」を信じ切ってるように感じますけどね。これだけ円が暴落しても頑なに貯金し続けてるわけですから。


酒井

そうですね。基本的には、円の価値はどんどん落ちていくでしょう。この1年くらいで日本は確実に貧しくなってますからね。

安田

それは間違いないですね。


酒井
円の価値が下がると、個人や企業が自分たちの持ってる日本円を「日本という国」に貸しても意味がないんじゃないかって思うようになるわけです。少なくとも企業はもうそう思っていて、日本国内ではなく海外に投資するようになっている。
安田
日本企業が海外の企業に投資して、そこで得たお金をまたさらに海外に投資して……となると、日本企業の利益は、事実上日本をスルーして得ていることになりますよね。

酒井
ええ。実際、グローバルな視点でも、日本国債の格付けは想像以上に低いというか。例えばトヨタの格付よりも下ですからね。
安田

ちなみに酒井さんご自身は、日本の借金は増税してでも減らすべきだと思いますか?


酒井
すべきすべきでないうという議論以前に、毎年の予算をトントンにするだけでも相当な増税をしないと無理な状況なので……なんとも言えないですね(笑)。ともあれ、年金や医療費など高齢者向けの予算削減はやらなきゃいけないでしょうね。
安田
確かに。そこに関しては確実に持続不可能ですからね。
酒井

ええ。個人的には、今のペースでお金を刷り続けると、インフレだけでカバーできるという考えはリスクが高く、おそらく無理だと思うんですよ。

安田
少しは増税が必要だってことですかね。

酒井
ええ。ただどこを増税するか、つまり誰からお金を取るかが重要で。所得税や法人税だと働く人から取ってることになるんですけど、働く人自体が減っていくのでこれは取れる範囲が狭くなっていく。
安田
消費税はどうですか? お金を使ってる人全員から取れますよ。

酒井

そうですよね。消費税が大事なのと、あとは検討するとしたら資産課税ですね。現状の法律だと、たとえば預金が1億円あっても年収100万円なら所得税は払わなくていい。でもこれを変えて、収入ではなく資産に対して毎年課税する形にしてみるとか。

安田

そんなことしたら富裕層が日本から出て行っちゃいますよ。日本にいるだけで、どんどんお金が減っていく。


酒井

そうなりますね。まあでも、結局どこかから取らないと立ち行かないわけです。誰からどう取るのがベストなのか、そこの決断が難しい。

安田

これからインバウンドが増えて外国人旅行者がたくさん来るようになるので、消費税を上げるのが公平だと思うんですけどね。

酒井

はい。もちろん、資産課税を無理にやるくらいなら消費税を上げるほうが良いのはその通りかなと。あとは、視点を変えると、AppleとかGoogleとかにきちんと課税するっていう方法もあると思います。

安田

確かに、我々日本人はAppleやGoogleにはめちゃくちゃお金払ってますからね。

酒井

もちろん日本一国だけでできることではないので、世界で協力してやろうっていうことにはなってますよね。どこに本拠地を置いても同じ税率にして必ず払わせるような。

安田

それが実現できれば、一番の解決策になるかもしれませんね。「国民の借金」なのか「政府の借金」なのかという以前に、「国の借金」という問題を解決できるかが大事ですね。


対談している二人

酒井 秀夫(さかい ひでお)
元官僚/連続起業家

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経済産業省→ベイン→ITコンサル会社→独立。現在、 株式会社エイチエスパートナーズライズエイト株式会社株式会社FANDEAL(ファンディアル)など複数の会社の代表をしています。地域、ベンチャー、産官学連携、新事業創出等いろいろと楽しそうな話を見つけて絡んでおります。現在の関心はWEB3の概念を使って、地域課題、社会課題解決に取り組むこと。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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