精神科医は心理学を知らない!?
産業医っていうのは、「会社の中のお医者さん」みたいな仕事ですか?
労働安全衛生法という法律に基づいてまして。従業員が50人以上の会社は「医師免許+産業医の資格をもっている医者と契約しなさい」という法律があるんです。
契約した産業医さんは、何をしてくれるんですか?
基本的には従業員の健康管理ですね。
健康診断とか?
健康診断自体ではなく、診断の結果を見て「安全に働ける健康状態か」というのを判断して、仕事のやり方を変えてもらったり、会社にアドバイスしたり。
なるほど。
あと工場だと労災なんかも起こるので。健康障害が起こらないような職場環境づくりとか。そういうところも関わったりします。
やってみてどうだったんですか?産業医という仕事が合っていたんですか。
当時の私は「タバコとか、お酒とか、そういうものをやめたら病気って減るんじゃないか」って単純に思ってたんです。
それはみんな思ってます(笑)
思いますよね(笑)
違うんですか。
「タバコは減らしたほうがいいですよ」「運動しましょうね」って、保健指導するんですけど。それで健康になるんだったら病気の人なんていないよなって。
言うこと聞きませんからね。
たとえばストレスを解消するために、タバコを吸ったりお酒を飲んだりすることって、あるじゃないですか。
そういう言い訳をしちゃいます(笑)
それは本人たちが必要でやっていることだから。単に「それはだめだよ」って言ってもまったく意味ないなって思って。
理解のあるお医者さんですね。
だって、本人なりに自分の身を守るためにストレスの対処方法としてやっていることなら、そもそも「ストレスをなんとかしなくちゃいけない」と思い当たって。
元から断たなきゃダメだと。
それで、自分なりの保健指導の方法について書いたのが、1冊目の本なんです。
『勇気づけ保健指導』という本ですよね。どういう内容なんですか。
アドラー心理学を勉強して、「不適切な生活習慣を選んでいる人はダメな人じゃなく、勇気がくじかれている人なんだ」ってことに気がついた。そんな気づきをまとめた本です。
なんだか精神科医の仕事に近づいてませんか。
そうなんです。精神科医というか、本当に私がやりたかった対話だったりカウンセリングだったり。いつの間にかそれをやっていたんですよね。
医学部ではアドラー心理学も勉強するんですか?
いや、精神科の先生たちって心理学の勉強はしないんです。精神医療と心理学には、すごく隔たりがあって。
え!精神科医は心理学の勉強をしないんですか。
しないです。すごく隔たりがあります。
はじめて知りました。
心理学のことをご存知ない精神科の先生のほうが多いです。なかには心理療法を軽んじているような人もいます。
薬を出すことが医療だと思ってるってことですか?
薬物療法はとても大事なんですよ。薬に意味がないってことじゃなく、ただそれだけだとやっぱりよくならない。
> 第4回「 薬の役割・対話の役割 」へ続く