第54回 「飲食店でうまくいく人」に共通するものとは?

この対談について

地元国立大学を卒業後、父から引き継いだのは演歌が流れ日本人形が飾られたケーキ屋。そんなお店をいったいどのようにしてメディア取材の殺到する人気店へと変貌させたのかーー。株式会社モンテドールの代表取締役兼オーナーパティシエ・スギタマサユキさんの半生とお菓子作りにかける情熱を、安田佳生が深掘りします。

第54回 「飲食店でうまくいく人」に共通するものとは?

安田

起業しようと思った時に、飲食系って結構始めやすいイメージですよね。スポーツ選手が引退してから焼肉屋さんを始めたりするじゃないですか。


スギタ

ああ、確かに。お相撲さんがちゃんこ鍋屋さんを始めたりとかね。

安田

そうそう。ただ始めやすい分、うまくいく人とうまくいかない人の差も大きい気がして。スギタさんから見て、「この人はうまくいきそうだな」ってわかるものですか?


スギタ

まぁ単純にお金に余裕がある場合は成功しやすいですよね。既に手元に開店資金はあるという。実際、「奥さんがカフェをやってみたいと言っているから始めてみようと思ってる」という話はよく聞きます。

安田

ほう、なるほど。どういう人がそういう流れになりやすいですか?


スギタ

旦那さんが経営者で、奥さんが専業主婦みたいなケースが多いですね。要は資金面で余裕がある人たちというか。

安田

ああ、そのパターンはよくありそうですね。新たに事業を始めるというより、ある意味奥さんへのプレゼントみたいな感じですよね。


スギタ

そうそう。「妻がやりたいことをとにかく全力で応援するんだ」っていうスタンスで、そのためのお金もちゃんとあって。それならもう始めたらいいと思いますけどね。

安田

生活のための貯金を取り崩してやるんじゃなく、余剰資金でやれるってことですもんね。


スギタ

ええ。万が一回収できなくても、生活が根幹から揺らぐわけでもないので。とはいえ本人が真剣に「飲食で成功したい」と考えているなら、業態より立地が重要かなと思いますね。料理の味ももちろん大事ですが、「そもそもお客さんが来てくれる場所かどうか」が成功を左右するというか。

安田

へぇ、なるほど。美味しいケーキが作れるかどうかより、「その立地ならいいんじゃない?」みたいなことなんですね。逆にいうと、うまくいかないケースも立地によるところが大きいと。


スギタ

そう思います。それくらい立地が占める要素は大きいです。

安田

ふ〜む、なるほど。じゃあとりあえず立地はいい所が見つかったとして、自分がオーナー兼店長として動くタイプと、人を雇ってオーナーになるタイプだったら、どっちがうまくいきやすいと思います?


スギタ

前者でしょうね。飲食って本当に難しいので、人を雇ってお店をやるならよほどコンセプトが面白くないと厳しい。「この店に足を運ぶ理由」は何なのかが明確じゃないと、なかなか選んでもらえないと思います。

安田

「これだ!」というアイデアがあって人を雇うならいいけど、「とにかくオーナーになりたいからシェフを雇おう」だと厳しいんじゃないかということですね。


スギタ

そうそう。もちろん100%そうだと言うつもりはないんですけどね。でも僕に相談されたとしたら、反対してしまうかもしれない。

安田

オーナー志向の社長さんでよくいますよね。ちょっと余裕があるから若者を応援する目的で出資するんだけど、あまり思ったとおりにいかず、そのまま閉めちゃうみたいな。

スギタ

フランチャイズが難しいのと同じ理由かなと思います。本部からの一括仕入れだけだとコスト調整の自由度が低いし、しかも今は物価が上がっているので。かなり臨機応変に判断できる人が現場にいないと厳しいでしょうね。

安田

ああ、なるほど。自分で数字を見れて、仕入れ先や量をその都度判断できる人じゃないと難しいということですね。


スギタ

ええ。あとはやっぱりビジョンがあるかどうかは重要だと思います。「こんな店を作りたい」という具体的なイメージがないと。

安田

わかる気がします。まず「何の店をやったら儲かりますか?」って人に聞くような人はやめておいた方がいいですよね。…それにしても、飲食店ってやっぱり難しいんですね。


スギタ

参入障壁が低い分、競争が激しいですからね。ケーキ屋だけでも正直、差別化するのは簡単じゃない。まして飲食全般となれば業態がさらに膨大ですから、生き残り競争は一層厳しくなるでしょうね。

安田

業界に長くいるスギタさんがそう仰るんだから、実際そうなんでしょうね。「この料理を広めたい」とか「これを食べてほしい」という強い思いがないなら、そもそも始めない方がいいと。


スギタ

まぁ、気持ちはわかりますけどね。例えば焼き鳥屋さんに行った時に「こんなお店持てたら楽しそう!」って思う人は多いと思います。ただそれで実際に始めてうまくいってる人はあまり見ないというか。

安田

そりゃそうですよ。ある程度飲食店で働いた経験があるからといって、それだけで成功できるなら苦労しないわけで。


スギタ

そうそう。ただ、別に前向きな理由じゃなくてもいいと思うんです。強烈に現状への不満があるとか。例えば寿司屋によく行くけど「どうしてもここが許せない」みたいなポイントがあったり。それを改善した寿司屋を自分でやりたいなら結構うまくいくんじゃないかなと思います。

安田

確かに。どちらにしても強い想いが必要ということですね。


対談している二人

スギタ マサユキ
株式会社モンテドール 代表取締役

1979年生まれ、広島県広島市出身。幼少期より「家業である洋菓子店を継ぐ!」と豪語していたが、一転して大学に進学することを決意。その後再び継ぐことを決め修行から戻って来るも、先代のケーキ屋を壊して新しくケーキ屋をつくってしまう。株式会社モンテドール代表取締役。現在は広島県広島市にて、洋菓子店「Harvest time 」、パン屋「sugita bakery」の二店舗を展開。オーナーパティシエとして、日々の製造や商品開発に奮闘中。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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