第31回 遺族の想いに寄り添った「家じまい」

この対談について

株式会社ワイキューブの創業・倒産・自己破産を経て「私、社長ではなくなりました」を著した安田佳生と、岐阜県美濃加茂エリアで老舗の葬祭会社を経営し、60歳で経営から退くことを決めている鈴木哲馬。「イケイケどんどん」から卒業した二人が語る、これからの心地よい生き方。

第31回 遺族の想いに寄り添った「家じまい」

安田
最近は「墓じまい」という考えも市民権を得てきましたよね。そして私は今後、「家じまい」「会社じまい」というのも一般的な考え方になるのではないかと思っているんです。

鈴木
ほう、なるほど。
安田
昔は墓も家も会社も、「先祖代々守り続けなくてはいけないもの」だったじゃないですか。しかし現実に、「墓」はしまわれ始めている。

鈴木
お墓って「心の拠り所」ということ以外に、特に機能はないですからね。ご先祖様を感じるためのものではあるけれど、じゃあそれ以外、一体何があるの、と(笑)。
安田
そうなんですよ。そういう意味では負の遺産と言えるのかもしれない。冷静に見ればあれ、ただの石ですし(笑)。

鈴木
笑。つまり墓じまいをする目的は、「負の遺産の清算」ということなのかもしれませんね。このまま残していたら後世が苦労すると。
安田
ええ。そういう感覚が、今後は家に対しても出てくると思うんです。そしてそのうち家じまい=家を遺さない、というブームが絶対にくる。

鈴木
なるほどなぁ。我々の親世代くらいまでは、家を遺すこと=子どもの幸せだと信じて疑いませんでしたけど。
安田
そうですね。昔は二世代・三世代が1つの家に同居していたから、そういう感覚が醸成されやすかった面もあると思います。

鈴木
ああ、なるほど。確かに今は、親子で別々に住んでいることがほとんどですもんね。親は地方で子どもは都心、ということも多い。
安田
ええ。それなのに、みんな平気で家を遺したまま死んでいっていると思うんですよ。

鈴木
仰る通りですね。だから最近は空き家の再利用・再活用の需要がどんどん高まってきています。まあ、現実には需要より供給のほうが多すぎる気もするんですが(笑)。
安田
墓、家、そして会社もですが、それらを「しまう」ことを躊躇させているのは「罪悪感」だと思うんです。両親が頑張って守ってきた家を、相続したからと簡単に売り飛ばしていいのかな…という。

鈴木
私がやっている相続不動産テラスにも、引き継いだ家の売却を検討し始めた方が相談に来られますよ。皆さん「今すぐじゃないけど、心の整理がついたら売りたい」と言いますね。
安田
へ〜。じゃあいつになったら心の整理がつくんでしょうかね(笑)。

鈴木
現実的な話で言えば、固定資産税の通知が来た時でしょうね(笑)。「こんなに高いの?」「この額を毎年払い続けなきゃいけないの?」って驚くんですよ。
安田
あ〜なるほど。そこで一気に「家じまい」が現実味を帯びてくるんですか(笑)。ということは心の整理がつかない方も、相続してから1年ほど経てば、家じまいを検討せざるを得ない瞬間がやってくるわけですね。

鈴木
そういうことですね(笑)。
安田
でも「家じまい」は「墓じまい」よりも罪悪感は少ないと思うんですよ。だってお墓は跡形もなくなりますが、家なら引き続き誰かが住んでくれる可能性が高いわけで。

鈴木
う〜ん、確かにそのまま引き継いでくれる人が見つかればいいんですけど。でもほとんどの場合、「そのままの状態」で住み続けてもらえることはないですね。
安田
え、そうなんですか。それはどうしてなんでしょうか。

鈴木
まず「家じまい」を検討する時点で、ある程度築年数が経っているからです。さらに、長らく人が住んでいなくて、すごく傷んでしまっていたりね。そのような状態で住むことはできないので、解体して更地にするか、あるいは大掛かりなリフォームが必要になるんです。
安田
ああ、なるほど。実際のところ、更地にするケースの方が多いんですか?

鈴木
そうですね。家は解体してくださいという依頼が多いです。
安田
ははぁ、なるほど。とは言え、まだまだキレイで問題なく住めそうな家が、空き家のまま放置されているのもよく見ますよ。

鈴木
確かにそういうケースも増えているでしょうね。
安田
それで私、中古住宅販売の新しいビジネスアイデアを思いついたんですよ。現状だと「買う側はできるだけ安く買いたい、売る側はできるだけ高く売りたい」というのが常識ですが、この常識を打ち破れないかと思いまして。

鈴木
ほう、どういうことでしょう?(笑)
安田
住宅を売る人の中には、「高値で売れなくてもいい。大事に住んでくれる人に引き継いでもらいたい」という人も少なくないと思うんです。

鈴木
確かに思い入れのある家だったら、そういう想いはありそうですよね。
安田
で、私が考えたのは、買い手側が「なぜここに住みたいか」をプレゼンする。それを聞いた売り手が「この人に住んでもらいたい」という気持ちになれば、売買成立というビジネスなんです。どうでしょう鈴木さん。やってみませんか?(笑)。

鈴木
なるほどおもしろい(笑)。売る相手を探すプロセスを工夫すればできそうですし……うん、ちょっと考えてみようかなぁ(笑)。

 


対談している二人

鈴木 哲馬(すずき てつま)
株式会社濃飛葬祭 代表取締役

株式会社濃飛葬祭(本社:岐阜県美濃加茂市)代表取締役。昭和58年創業。現在は7つの自社式場を運営。

安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 

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