第32回 不安解消のために稼いではいけない

この対談について

株式会社ワイキューブの創業・倒産・自己破産を経て「私、社長ではなくなりました」を著した安田佳生と、岐阜県美濃加茂エリアで老舗の葬祭会社を経営し、60歳で経営から退くことを決めている鈴木哲馬。「イケイケどんどん」から卒業した二人が語る、これからの心地よい生き方。

第32回 不安解消のために稼いではいけない

安田
世の中には意外と、歳を重ねても野心が続く人が多いイメージです。私たちは既に「イケイケどんどん」を卒業しましたが(笑)、いつまでも野心の尽きない人たちと私たちは、何が違ったんでしょうね。

鈴木
そうだなぁ。野心が尽きない人って、お金に対する執着心を持ち続けているイメージです。逆に言えば、お金じゃ充足感や満足感は得られないってことなのかも。
安田
イケイケどんどんな人たちの中には、何軒も別荘を所有したり、何十台も車を保有したりする人もいますよね。子どもの頃はそういう生活が羨ましいと思ってましたけど、今の私にとっては全く豊かには見えないですね。

鈴木
たぶんそういう人たちは、資産価値の総額が重要なんじゃないですか? あるいは投資目的とか。純粋に別荘ライフを楽しんだり良い車でドライブしたりを楽しむためなら、そういうおかしな所有の仕方はしないかなと。
安田
なるほど。確かに「自分で使える範囲」で手に入れたい人であれば、ある程度のラインに達した時点で満足する気がします。投資目的で保有するのは「さらにお金を増やしたい」という気持ちの表れなのかもしれません。

鈴木
そうなんでしょうね。ある意味そういうギラギラを維持できるのは羨ましいですけど。だって僕らはもうあんまり欲がないじゃないですか(笑)。
安田
確かに(笑)。お金に関して言えば、3000万円ある人が5000万円まで増やしたい、それはわかるんです。でも3000億円を5000億円にしたところで何も変わらないじゃんと、私なんかは思ってしまいます(笑)。

鈴木
同感です。そんな金額、死ぬまでに使い切れないですし(笑)。
安田
そういえばこの前、年間1億円くらい稼いでいる研修講師の方と話す機会があったんです。そうしたら、年1億稼ぐために1日2〜3回の研修を、1年365日休みなしでこなしているんですって。

鈴木
へ〜! それは大変そうですね。というか、せっかく稼いでも使う暇がなさそう(笑)。
安田
まさにそう言ってました。ただその方は、そもそもお金を使うことに興味がないんですって。だったらなぜそんなに働くのかと聞いたら、「いつか突然仕事がなくなるんじゃないかと不安だから」って言うんです。

鈴木
はぁ、なるほど。不安感を払拭するために、ひたすら働き続けているというわけですか。
安田
ええ。でも「安心感を得るためにお金が必要」って人は、いくら稼いでも結局不安な気がするんですよ。

鈴木
確かにそうでしょうね。同じコップの水を見ても「まだこんなに残っている」と言う人と「もうこれだけしかない」と言う人がいますけど、彼は後者なんでしょう。
安田
なるほど。本当は十分足りているはずなのに、それに気付けないと。

鈴木
ええ。それで思い出したんですが、昔、僕の知り合いに「稼いでも稼いでも不安になる」と言っている人がいました。でもそれを聞いたある人が「あと何年生きるつもり?」「1日にいくら必要?」と質問していって、一生にかかる金額をその場で計算してくれたそうなんです。
安田
へ〜。トータルでいくらになりました?

鈴木
だいたい5億円だったそうです。彼は「自分が思っていたより少なくて驚いたよ」と言っていましたね。具体的な金額を知って安心したようです。
安田
知らないから不安になる、といういい例ですね。そもそも私、「お金がないと惨めだ」という考え自体がどうなんだろうと思っていて。

鈴木
確かに全くないのは大変でしょうけど。5億円が30億円になったところで、幸福度が大きく変わるかといったら…恐らくそうでもないわけで(笑)。
安田
仰る通りです。そして不安感の強い人は、往々にして倹約家なので、大半のお金は使わず遺したまま死んでいく。

鈴木
そして遺されたほうは、そのお金が争いのタネになってしまう、と(笑)。まさに不安は不安しか生まないとは、よく言ったものですね。
安田
ええ。一方で、不安だからではなく、承認欲求のために稼ぎ続けてる人もいると思うんです。

鈴木
ああ、わかる気がします。実際、大金を持っていると羨望の目で見られることも多いでしょうからね。
安田
ええ。その優越感のために稼いでいると言ってもいい。

鈴木
安田さんも、そういう人をみると「わ〜羨ましい〜」って思います?(笑)
安田
いや〜思わないですね(笑)。私の場合は、収入云々よりも、どういう生き方をしているか、の方が重要かな。稼ぎが多い人を見ても特に何とも思いませんが、「ああいう生き方は羨ましいな」と感じることはあります。

鈴木
僕も収入にはあまり興味は湧きませんが、「稼ぐための原動力は何か」は割と気になります。人に喜んでもらいたいと頑張っていたら結果的に稼げちゃったのか。あるいはさっき出たように、不安だから稼いでいるのか。
安田
人間だから不安は絶対あると思います。でもその不安を、できるだけ「やりたいこと」に変えていく。それがきっと人間の成長につながるんでしょうね。

鈴木
なるほど。確かに「やりたいこと」を原動力にするのが、人間としても正しい気がします。
安田
そうですよね。いや、今日もまたいい話をしちゃいました(笑)。

 


対談している二人

鈴木 哲馬(すずき てつま)
株式会社濃飛葬祭 代表取締役

株式会社濃飛葬祭(本社:岐阜県美濃加茂市)代表取締役。昭和58年創業。現在は7つの自社式場を運営。

安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 

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