この対談について
株式会社ワイキューブの創業・倒産・自己破産を経て「私、社長ではなくなりました」を著した安田佳生と、岐阜県美濃加茂エリアで老舗の葬祭会社を経営し、60歳で経営から退くことを決めている鈴木哲馬。「イケイケどんどん」から卒業した二人が語る、これからの心地よい生き方。
第54回 マネタイズポイントの見つけ方
第54回 マネタイズポイントの見つけ方
鈴木さんはご実家がたまたま葬儀のお仕事をされていたから、それを継がれたわけですよね。もしも家業がお寺や墓石屋さんだったら、今のこのシュリンクしている業界の中で、どう対応されていたと思いますか?
うーん、どうするかなぁ。
今は信心深い人も減ってきていて、法事もやらない人も多くなってきたと聞いています。「お葬式にお坊さんなんていらないんじゃないか」とまで言われている。そんな状況の中、たとえばお寺を継いだら何をしましょうか。
たぶん「普段の生活に取り入れてもらえるもの」を探すでしょうね。葬儀とか法事とか「特別なこと」じゃなくて。例えば「心を落ち着かせるために写経をやりましょう」とか。
ああ、なるほど。そういえば宿坊体験も人気ですよね。お寺に泊まって精進料理を食べたり座禅を組んだりを経験できるって。
そうそう。そうやって昔からの檀家さんだけを相手にするんじゃなくて、幅広く門戸を広げるというのかな。そういうキッカケになるようなことを考えると思います。
つまり新たなマネタイズを考えるというわけですか。
そうですそうです。で、SNSとかで常に情報発信やPRをしていきますかね。
なるほど。以前、お坊さんたちがサイドビジネスとして幼稚園や塾を経営したり、ディベロッパーをしているみたいな話がありましたけど、やっぱり「本業」に近いところで別のお金の稼ぎ方を考える方がいいですよね。
同感です。それにお寺にはせっかく広い場所と空間があるので、そのあたりも有効活用した方がいいかなと。
なるほど。では墓石屋さんを継いだ場合はどうしましょうか。今って「永代供養をするからお墓は買いません」っていう方も増えているじゃないですか。つまり墓石はなかなか売れない。
僕だったら、片付ける方をやりますかね。墓じまい専門のお仕事。
へぇ! 墓石屋なのに墓石を売らず、むしろ「しまう方」をやる。
そうです。お墓って管理が大変なんですよ。先祖代々守り続けろなんて言われても、こまめにお墓参りに行くのすら大変でしょう? 住んでいる場所からすごく離れている場合もありますし。
そうですよね。実家を出て別の場所で暮らしている子孫も多いわけで。そういう事情もあって、手入れされず荒れ放題になっているお墓も少なくないと。
ええ。だからこそ、墓のプロである墓石屋自身が「墓じまい」の事業をやるんです。「その墓石、最後までちゃんとウチで面倒見ますよ」ということですね。
いやあ、その発想はすごいです。鈴木さんって抽象力が高いですね。物事の本質を捉えるのがすごくお上手だと思います。
ありがとうございます(笑)。
普通の墓石屋さんだったら「どうやって墓石を売るか」という方向にしか考えないと思うんです。でも別に墓石屋さんが墓じまいの事業をやってもいいわけですもんね。
今後の業界の動向を見据えた時に、きっと墓じまいの方がメインになってくると思いますからねぇ。
以前、創業社長や承継社長のお話をした時に、鈴木さんは「ゼロイチではなくて、1を2や3に増やしていくほうが楽しい」と仰っていましたけど、実はゼロイチも得意なんですね。
いやぁ、そんなことはないと思いますよ?(笑) やっぱりネタというか何かチョロっとアイディアの紐みたいなのが出ていないとダメですね。その紐をグッと引っ張って、それを展開していくのは好きですけど。
いやいや、ゼロイチのビジネスでもそれは同じです。全くなにもないところからビジネスを立ち上げるわけではないですから。
そういうもんですか?
そうですよ。だって私も人材関係の会社で働いていた過去があったからこそ、人材系のビジネスで会社を立ち上げたわけですし。
つまり、たとえゼロイチのビジネスでも、何かしらのネタやキッカケがあるわけですね。
ええ。だからきっと鈴木さんとしては「1に付加価値をつけて大きくしていくこと」が得意だと感じているんでしょうけど、ある意味でそれはゼロイチをやっているということなんですよ。お話していてそんな気がしてきました。
そうか、自分ではわからなかったなぁ(笑)。
鈴木さんは先ほど、おそらく無意識的に「墓石屋とはなんぞや」ということを抽象化されていた。で、その「本質」を元に新たなビジネスを考えられたんだと思うんですが、どうですか?
どうだろうなぁ…。本質というか、そもそも墓石を管理するのが大変だという人が増えているんだから、そのニーズに応えればいいんじゃないかと考えただけなんですけどね(笑)。
それが素晴らしいんです(笑)。経営者にとって、「抽象的な思考」で物事を捉えることってすごく大事なんです。どうしても多くの経営者は、自分の置かれている「業界」や「地域」に縛られてしまっていて、事業の本質をなかなか見抜けない。
確かにそれはありますね。「ウチの業界はこうだから仕方ない」とか「この地域にはこういう客しかいないから無理だわ」とか言ってるのを聞くと、僕なんかは「えー? そんなことはないでしょうよ」って疑っていますけど(笑)。
たぶん鈴木さんのように考えられる人は少ないんですよ。皆、どちらかというと「この業界」「この地域」の範囲内でできることを模索しているだけというか…。
正直、そっちのほうが簡単だからだと思います。他の業界や地域のことに思いを馳せなくてすむので。
なるほどなぁ。でもそうやって考えることを止めてしまうことが、結果的に自分たちの首を絞めていることになっているって、早く気付いたほうがいいと思いますけどね。
対談している二人
安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。