第63回 社長のベストな「引き際」は、会社の業績が良い時

この対談について

株式会社ワイキューブの創業・倒産・自己破産を経て「私、社長ではなくなりました」を著した安田佳生と、岐阜県美濃加茂エリアで老舗の葬祭会社を経営し、60歳で経営から退くことを決めている鈴木哲馬。「イケイケどんどん」から卒業した二人が語る、これからの心地よい生き方。

第63回 社長のベストな「引き際」は、会社の業績が良い時

安田
鈴木さんは「社長の辞め時」はいつだと思われますか? 辞めるタイミングとして一番いい時期とでもいいますか…。

鈴木
そうだなぁ…僕は60歳で引退すると決めていますけど、そこが「ベスト」かどうかと聞かれるとちょっとわからないですね、まだ辞めていませんし(笑)。
安田
笑。私もあらためて考えてみたんですが、結局「会社が一番うまくいってる時」こそが辞め時なんじゃないかなと。

鈴木
ええ? 一番うまくいってる時なんて、一番辞めづらい時じゃないですか(笑)。
安田
そうなんですよ(笑)。ただ、全てが自分の考えたとおりに進み、結果も出て、業績も良い、つまり「辞める理由」が何1つないという時こそが、実はベストな「引き際」なんじゃないかって。

鈴木
うーん…今のお話で思い出したんですが、僕の同業者の方が、まさにそういう時期に会社を売ったんですよね。周りも「なんでこんないい時に?!」って驚いていたんだけど、あとで考えると一番高い時に売れていたんだなって。
安田
なるほど。「会社が一番いい時」だと、そのお話のように高く売れるのはもちろんのこと、社長としても後ろめたさがないと思うんですよ。だって業績が悪化してから辞めるとなると「敗戦処理」のような辞め方になるわけで…。

鈴木
敗戦処理というと?
安田
それまでは社長としてずっと「会社を伸ばすための戦い」をしてきたのに、業績が悪くなると、一転して「会社を潰さないための戦い」になってしまうんですよ。

鈴木
ああ…。確かにそんな状態で「責任とって、社長を辞任します。後はよろしくね」なんて言われても、それこそ無責任ですもんね(笑)。残された人たちが大変すぎる(笑)。
安田
そうそう(笑)。だからこそ私は会社に十分な余力があるうちに、社長が引退するのが一番いい気がしているんですよね。

鈴木
そういうことでしたか。でも「会社が一番いい時」って見極めが難しそうですね。株価と一緒で、上昇している時期は「もっと上がるかもしれない…」と期待しちゃうもので(笑)。
安田
わかります(笑)。で、そうこうするうちにどんどん落ちていって、結局やめ時を逸してしまうんですよね。でもだからこそ、そこで冷静に先を見据え、そして自分の引き際を決めるのが、社長の最後にやるべき仕事なのかもしれない。

鈴木
なるほどなるほど。そう言われると、それって非常に重要な仕事ですね。
安田
業績がいい時の経営って楽しいから、手放したくないのもわかりますけどね。現場は全て社員に任せ、自分はお金の使い方や人の動かし方のような美味しい部分だけやれるじゃないですか。で、たまに社員の前で「ありがたい話」をしてあげればいい(笑)。

鈴木

笑。そう考えると、第三者に「そろそろ辞め時ですよ」って言われた方がいいのかもしれないですよね。例えばM&Aを持ちかけられた時とかは、もしかすると絶好のタイミングなのかもしれない。

安田
ああ、それは一理あるかもしれません。よく「こんな安い金額で売れるか!」ってM&Aを断り続けていた社長が、業績が落ち始めた時になって初めて売却を考え出すパターンがありますけど。

鈴木
ありますねぇ。で、結局、最初に打診が来ていた時よりも大幅にダウンした値段しか提示してもらえなくなると。
安田
そうそう(笑)。しかもそこからまた「じゃあもう1回、会社の価値をあげよう!」となってしまうと、これまた辞め時がどんどんわからなくなってしまって…。

鈴木
「チャンスの神様には前髪しかない」とはよく言ったもんですよね(笑)。ここぞという瞬間は1回しかこないので、それを逃したら、どうやっても損をしてしまうんでしょう。
安田
ということは、あらかじめ「終わりにする時期」を決めておいたほうがいいのかもしれませんね? 例えば「15年目に社長を辞める」と決めれば、そこにピークを持ってくることもできるわけで。

鈴木
確かにそうですね。それって、安田さんがよく仰っている「経営者や議員にも定年を作るべき」というお話とも通じますね。
安田
まさにそうなんです。もっと若い世代に経営をさせてあげるべきなのに、いつまでも上の世代が居座っているのは、あまり好ましくないですよね。「ルールを決める側」が高齢者ばかりっていう状況を、まずなんとかしないと(笑)。

 


対談している二人

鈴木 哲馬(すずき てつま)
株式会社濃飛葬祭 代表取締役

株式会社濃飛葬祭(本社:岐阜県美濃加茂市)代表取締役。昭和58年創業。現在は7つの自社式場を運営。

安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

Twitter  Facebook

1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 

感想・著者への質問はこちらから