第71回 「条件」ではなく「感性」で勝負する空き家販売

この対談について

株式会社ワイキューブの創業・倒産・自己破産を経て「私、社長ではなくなりました」を著した安田佳生と、岐阜県美濃加茂エリアで老舗の葬祭会社を経営し、60歳で経営から退くことを決めている鈴木哲馬。「イケイケどんどん」から卒業した二人が語る、これからの心地よい生き方。

第71回 「条件」ではなく「感性」で勝負する空き家販売

安田
鈴木さんはこれまでにもいくつもの空き家を販売してこられた実績があると思うんですが、「絶対売れないだろう」と思っていた空き家が売れることって、よくあるんですか?

鈴木
そうですね。それこそ安田さんが好きなあの物件(笑)。あれも僕らは「こんな家、誰が買うの?」って思っていたけれど、実際売れていますから。
安田
ちなみに逆に「ここはすぐ売れそうだな」と感じるのはどんな空き家なんです?

鈴木
やっぱり、「築年数がそれほど古くない家」とか「それなりに小綺麗に見える家」とかですね。あとは病院や駅までの距離が近いとか。実際そういう物件の方が売りやすいし、お客様からの問い合わせも多いです。
安田
なるほど。要するに「条件がいい家」ってことですよね。逆に言えば、「売れなさそうなのに売れた家」というのは、条件で選ばれるわけじゃないってことですか?

鈴木
そうそう。購入してくれたお客様が「この家でこういうことがしたい」という明確なビジョンがあって、たまたまそれに合致して買ってくれる、という感じです。「ライフスタイル」で選ばれたというか。
安田
なるほどなぁ。以前にもお話ししましたが、「求人」と「空き家」って本当に似ていると思っていて。求人も「応募がたくさんくること」を目的にすると、給料を高くしたり休日を増やしたり社風の良さをアピールする。要は「条件の良い求人」にしていくわけです。

鈴木
確かに、築浅や生活環境の良さをアピールしている「売れそうな家」と似ていますね。
安田
そうそう。でもかたや「なんでこんな仕事に?」と思うような仕事でも、実際には喜んでやっている人がいるわけじゃないですか。多くの人にとっては人気がないけど、その人にとってはすごく快適な仕事、というか。

鈴木
ふむふむ。そういう仕事が、いわゆる「売れるとは思ってなかった空き家」と同じだということですか。
安田
仰るとおりです。それで私は、前者が「条件」で選んでいるんだとしたら、後者は「感性」で選んでいるんじゃないかと思うわけですよ。鈴木さんの言葉を借りれば「ライフスタイル」です。

鈴木
なるほど、そうですね。選ぶ時の基準に、「好き・嫌い」の感情が関与してくる。
安田
そういうことです。誰も見向きもしないような空き家であっても、誰か1人が「この部屋であの山を見ながらコーヒー飲みたいな」とか「この広い土地で美味しい野菜をいっぱい作れたら楽しそうだな」なんて思ってくれれば、実際家は売れる。その方にとってみれば、他の人に人気があるかどうかなんて関係ないわけで。

鈴木
なるほどなぁ。そうすると、そもそもの「売り方」を大きく変えないと難しそうですね。だって「たった1人のその人」に何が刺さるのかは、全く未知数ですもん。それこそ空き家1軒ずつに「この家ではこんな暮らしができますよ」というようなことを丁寧に説明する専用のWebサイトでも作らなきゃいかん(笑)。
安田
私はむしろ、それが一番面白いところだと思いますけどね。もちろんWebサイトだけじゃなく、空き家そのものを「魅力的に仕立て上げる」ことも大事だと思いますけど。

鈴木

ほう。それは空き家をリフォームしてあげる、ということですか?

安田
いや、そうやって住みやすくすることは「損得=条件」に近い気がするので、ちょっと違うかなと。それよりも「お庭」をキレイにすることで、空き家全体が魅力的になると、私は思っているんですよ。

鈴木
庭ですか…。別になくても困らないけどなぁ(笑)。だって日々の快適な暮らしにはほぼ関係ないじゃないですか(笑)。
安田
いやいや、キレイな庭があると生活が豊かになるんですよ。そしてそこが「感性」で買いたい人には刺さるはずだと思うんです。…鈴木さん、全然ピンとこないような顔をされていますが(笑)。

鈴木
いやぁ〜僕自身が庭にあんまり興味がないもんだから、全然イメージがわかなくて(笑)。そういえば安田さん、美濃加茂市の庭師の方とも対談されているって仰っていましたもんね。何かいいアイディアを思いつかれました?(笑)
安田
そうなんですよ(笑)。その庭師の方が言うには、100万円もあれば空き家のお庭を素敵にリフォームすることができるんですって。しかも「借景」と言って家の周りの景色を取り入れながらお庭を作るから、周りとも一体感が出て、空き家全体がすごく素敵な空間に仕上がるんだそうです。

鈴木
へぇ、それはすごい! 空き家の庭に残っている木とか石なんかも再利用してくれるんですか?
安田
もちろん。雑草が生い茂っていたり、木が茂りすぎたり、結構とんでもないことになっている場合も多いですけど、とりあえずそのままの状態で渡してくれれば、余分なお金をかけることなく素敵なお庭に仕上げられます、って仰っていましたよ。

鈴木
なるほどなるほど。空き家自体の築年数や立地は変えられないけど、庭ならいくらでもキレイに手をかけられますもんね。そうすることで空き家全体の価値が上がるかもしれないというわけか。いいですね!
安田
ですよね? そしてそういう空き家であれば、「感性」で買いたい方の琴線に触れる可能性もぐっと上がると思うんですよ。ぜひ一度、草ボーボーの廃墟のような空き家を素敵に生まれ変わらせる「共同プロジェクト」やりましょう!

 


対談している二人

鈴木 哲馬(すずき てつま)
株式会社濃飛葬祭 代表取締役

株式会社濃飛葬祭(本社:岐阜県美濃加茂市)代表取締役。昭和58年創業。現在は7つの自社式場を運営。

安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 

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