この対談について
株式会社ワイキューブの創業・倒産・自己破産を経て「私、社長ではなくなりました」を著した安田佳生と、岐阜県美濃加茂エリアで老舗の葬祭会社を経営し、60歳で経営から退くことを決めている鈴木哲馬。「イケイケどんどん」から卒業した二人が語る、これからの心地よい生き方。
第88回 実は「過去」も「未来」も存在しない? あるのは「今」だけ?
第88回 実は「過去」も「未来」も存在しない? あるのは「今」だけ?
今日は、ご葬儀をお仕事にされている鈴木さんにお聞きしたいことがありまして。仏陀の教えの中に「人生は永遠ではなく、一瞬である。この世のことはすべて幻なんだ」というものがあるそうなんです。さすが仏陀はいいことを言うなと思っているんですが、鈴木さんはどう思いますか?
うーん…人生は一瞬ですか。そんなこと思ったこともなかったな(笑)。
そうですか(笑)。でも私自身はよく「人生は一瞬なのかも」と感じるんです。より正確に言うなら、「今しかない」んじゃないかと。
それは「過去」や「未来」は存在しないということ?
そういうことです。ちなみに鈴木さんは「壁に向かってボールを投げても、ボールは壁に到達しない」という理論のことをご存知ですか?
ん? ボールは投げれば壁に当たると思いますけど(笑)。それが間違ってるってことですか?
そう、「理論上は届かない」んですって。高校生の時に習ったことなんですけどね。考えてみてほしいんですが、まず壁に向かってボールを投げると、壁と自分の中間地点をボールが通過しますよね。
うん、そうですね。
すると今度は、その中間地点にいるボールと壁の間に、また新たな中間地点ができ、そこをボールは通過する。するとまた、ボールは今通過したポイントと壁との間に新たにできた中間地点を通過していく…。こう考えると、ボールと壁の間には「中間のポイント」が無限に存在することになるわけですよ。
「中間ポイント」っていうのは、要は2つの物体を結んだ距離の、ちょうど真ん中ってことですよね? うん、それなら確かに「中間ポイントが無限に存在する」のは理解できます。でもそれは必ずしも「ボールが壁に届かない」という話ではないような気が…。
この理論でいけば、壁までの距離の間に「中間ポイント=点」が無限に打てる。ということはボールは「無限の空間」を進むわけだから、壁には届かないことになるんですよ。中間ポイントが無限にあるということは、壁までの距離はどこまで行っても「ゼロ」にはならないわけですから。
ふーむ…。理論的にはそうかもしれないけど、現実世界だったら実際ボールは壁に当たるじゃないですか(笑)。つまり、距離はいつかちゃんと「ゼロ」になる。
ええ、私もそう思って先生に質問したんです。そうしたら「答えは教えない。自分で考えてみなさい」って。で、私1年くらい考え続けたんです。それである時ひらめいた。「そうか、点には距離がないんだ!」って。
点には距離がない…。また難しい話になってきました(笑)。もうちょっと噛み砕いて説明して下さい(笑)。
我々が「点」と呼んでいるものって、実は「面」なんですよ。面積があるから現実世界に存在することができる。ところが理論上の「点」には面積がない。つまり「概念」だから、この世界には「存在しない」ということになるんです。
あ〜なるほど。僕らは「点」だと思っているけど、現実世界に点を描写すると、それは実際には面積を持つ「面」になっちゃうと。だから「距離」も存在してくるわけですね。
そうそう。つまり本当の意味での「点」は、理論上にしか存在できない。だから「ボールが壁に到達しない」という現象も、理論上でしか成り立たないわけです。
なるほどなるほど。いやぁ、それに気がつく安田さんがすごいなぁ(笑)。
ありがとうございます(笑)。そこから考えると「私たちは今を生きている」と言いますけど、実際は「今」といっているこの瞬間も、もはや「今」ではないわけですよ。0.1秒とか0.01秒とか0.001秒という「時間」であって、「完全な今」というものは現実世界には存在しない。
ふ〜む。「点」が「面」になっている話と同じですね。
そうそう。その「点理論」で考えると、物理世界には「今」は存在しないのかもしれない。とはいえ間違いなく「今」はありますよね。我々は「今」を生きている。となると、逆に「今」しかないんじゃないかな、というのが私の考えなのです。…これ、伝わりますかね(笑)。
あ〜、それが最初に言ってた「過去」も「未来」もないってことに繋がるわけですね。
そういうことです。脳の中に「過去の記憶」があるから「過去はある」と思っているだけで、実は地球も1秒前に作られたっていう理論もあるくらいですから。
え、1秒前?
そう。脳内に「過去の記憶」を持ったまま1秒前に作られた、と。
ははぁ…記憶があるから「ずーっと生きていた」ように感じるけど、実際は1秒前に出現したかもしれないと。だから「人生は一瞬」ということになるわけか。いやぁ〜面白いですね(笑)。
他にも、物理の法則が通用するのが物理世界=現実で、それ以外…例えば死後の世界なんかは全部幻だと思いこんでいる。だけども実は逆なのかもしれない、っていう考えもあったりして。どうでしょう、こんなの屁理屈だと思います?(笑)
いや、屁理屈だとは思いませんよ。やっぱり理屈だけではうまく説明できないこともたくさんあるじゃないですか。輪廻転生とか霊的なこととか。そういうものを「説明できないから存在しない」とは、僕も思えないですね。
ですよね。でもまあ実際のところ、そればっかりは死んでみないとわからないのが難しいところで(笑)。仏陀はそれを死なずに認識できたからこそ、偉人と呼ばれているんでしょうね。
確かにそうだ。じゃあ僕らみたいな凡人は、「目に見えているこの世界が全て」だと思って、現実を頑張って生きていくしかないのかな(笑)。
そうですね。死ぬまで現実を頑張っていきましょうか(笑)。
対談している二人
安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。