泉一也の『日本人の取扱説明書』第82回「ジメジメの国」

泉一也の『日本人の取扱説明書』第82回「ジメジメの国」
著者:泉一也

このコラムについて

日本でビジネスを行う。それは「日本人相手に物やサービスを売る」という事。日本人を知らずして、この国でのビジネスは成功しません。知ってそうで、みんな知らない、日本人のこと。歴史を読み解き、科学を駆使し、日本人とは何か?を私、泉一也が解き明かします。

 

今年のラグビーW杯では、ボールをハンブルする(捕らえ損ねる)シーンがたくさん見られた。名手と言われた選手までも。汗がべったりとボールにも手にも腕にもついていたので滑らせたのだ。

日本は細長い国土の周りがすべて海。自然と湿度が高くなる。湿気は人間の体にも心にも影響を与える。ジメジメは人の心を腐らせるのだ。カビのようにひっそりと繁殖して腐敗させるように。

日本は医療がこんなに普及しているにもかかわらず、肺結核の罹患率が高い。昭和25年まで死因の1位であり、現在でも人口10万人あたりの患者は、米国3.6人、ドイツ5.6人、フランス8.2人と比べて日本は16.1人と異常に高い。湿度の高さと関係していないだろうか。

人はイライラする動物であるが、それにジメジメが重なると、陰湿、陰険といった感情に変容する。陰湿な言葉に陰険な行為。異常なジメジメが「イジメ」である。死んでも陰湿なのが「恨めしや〜」である。

南国に行くと日本より暑くてもジメジメ感がなく、カラッとしている。嫌なことやムカつくことはあっても、陰湿さや陰険さをほとんど感じない。ムカつくのは瞬間で、その後スカッと忘れる。

ジメジメ感はいつまでもグジグジと尾を引いた状態。それが腐敗を生み出していくと日本人はよくわかっている。だから腐敗しないようにと様々な工夫をしてきた。

ラグビーの試合が終わった後の「ノーサイド」。なんとも清々しさを感じる。この言葉は日本でしか使われていないように、終わったら後腐れないようにしようと意識しているのだ。こういった陰を陽転させる工夫が日本に独自文化をもたらした。
礼に始まり、礼に終わる。しめの一本締め。ダラダラと終わるのではなく、ピシッと清々しく終わらせる。その「締め」に文化が生まれる。締め方が緩いと、ジメジメ感が残ってしまうのだ。鯖もしめ鯖にしておくと美味しく保存も効く。

ジメではなくシメ。ジとシの一文字の違いは大きい。武士道とは死ぬことと見つけたりという。まさに「シ」に清々しい生き様が現れるわけだ。本来日本では切腹の時もお葬式の喪服も「白装束」であった。しかし、西洋の葬式を真似るようになって「黒装束」に変わってしまった。

死の際もジメジメ感が残り、ジワジワとその影響がカビのように広まっている。そして、陰湿・陰険がはびこる国に変わろうとしていないか。

子供の頃、鉄筋コンクリート造りのマンションの北向きの部屋に住んでいた。ある時、箪笥を動かすと裏の壁がカビで真っ白になっていた。子供ながらに衝撃をうけた。そういったこともあり、南側の部屋に引越しをしたら、カビはなくなった。

箪笥を動かしたら裏の壁がカビだらけ的なことは、企業の活性化でよくある。外から見たらちゃんとした会社なのに、一人一人の本音を聴きだすと不満と不信がわんさかと出てくる。

このカビを一掃したくないだろうか。風通しをよくして、お日様に当てて、カラッとしたい。であれば「シメの場」である。

令和元年をみんなで労い、感謝し、1年のジメジメを忘れる。忘年会で杯をかわし、最後はシメのラーメンで2019年を終わらせればいい。

今年1年コラムを読んでいただき、ありがとうございました。よいお年を。

著者情報

泉 一也

(株)場活堂 代表取締役。

1973年、兵庫県神戸市生まれ。
京都大学工学部土木工学科卒業。

「現場と実践」 にこだわりを持ち、300社以上の企業コーチングの経験から生み出された、人、組織が潜在的に持つやる気と能力を引き出す実践理論に東洋哲学(儒教、禅)、心理学、コーチング、教育学などを加えて『場活』として提唱。特にクライアントの現場に、『ガチンコ精神』で深く入り込み、人と組織の潜在的な力を引き出しながら組織全体の風土を変化させ、業績向上に導くことにこだわる。
趣味は、国内外の変人を発掘し、図鑑にすること。

著者ページへ

 

感想・著者への質問はこちらから