泉一也の『日本人の取扱説明書』第112回「敵も味方の国」

泉一也の『日本人の取扱説明書』第112回「敵も味方の国」
著者:泉一也

このコラムについて

日本でビジネスを行う。それは「日本人相手に物やサービスを売る」という事。日本人を知らずして、この国でのビジネスは成功しません。知ってそうで、みんな知らない、日本人のこと。歴史を読み解き、科学を駆使し、日本人とは何か?を私、泉一也が解き明かします。

この狭い島国で争っていたら、攻めるところも逃げるところもなくなる。

大陸であれば新天地を開拓し続けていけばいい。戦い通して領地を拡大する国のことを「帝国」という。ユーラシア大陸のほとんど、世界陸地の1/4を支配したモンゴル帝国、世界陸地の1/4と世界人口の1/4を支配した大英帝国。歴史を紐解くと、人間は帝国の夢を持ち続けている。

帝国は歯向かうものは滅亡させていくが、日本でもその帝国を作ろうとした織田信長は、天下をとった後、広げる陣地がなくなり大陸への進出を目指した。しかし信長は明智光秀の謀反で滅ぶ。そのあとを追った秀吉は朝鮮出兵が失敗に終わり、秀吉死後、豊臣家は一気に衰退する。そして帝国型ではなかった徳川家康は、300年近い平和安寧の時代を築いた。

その徳川幕府の後に誕生した「大日本帝国」は、信長と秀吉の果たせなかった夢を叶えるがごとく大東亜のビジョンを掲げ、大陸に進出する。一時は成功を収めたが、アメリカ帝国に負けて大日本帝国は滅んだ。

帝国型は日本に合わない。なぜならこの狭い島国で何千年、何万年と生きてきたからだ。モンゴルのような騎馬民族でもなければ、英国のようなバイキングでもなければ、米国のように数百万の先住民を戦と疫病で殲滅する開拓民でもない。

日本書紀を紐解いても、伊勢と出雲で2つの国を共存させている。天照大神とスサノオといった姉弟の神として祭り、両国のシンボルにしていることからもわかる。

日常の遊びもそう。代表が将棋だろう。ただのボードゲームが将棋界を生み出し、そこから名人が生まれ、名人は日本人から尊敬を一手に集める。囲碁も人気があるが、将棋ほどではない。ちなみに競技人口は、囲碁は200万人、将棋は530万人といわれている。

将棋の方が日本で人気が高いのは、陣地をとりあう帝国型ではないからだ。奪った駒は自分ものとなり、再び盤に戻ることができる。駒が捨てられることはない。このルールがあるのでチェスと違って将棋は手数が無数に多くなる。人間に勝るAIの開発は、チェスより将棋に時間がかかるのはパターンが多いからだ。

将棋よりもわかりやすいのが、漫画。世界的に人気が高い「ドラゴンボール」では、強敵であったピッコロもベジータも味方になっていく。敵が味方になるのだ。バットマンのジョーカー、スーパーマンのゾッド将軍は、絶対味方になることはない。

「敵も味方」というのは、日本人のDNAに深く入っている。それはドラゴンボールの孫悟空のように「間の抜けたお人好し」という遺伝子である。加藤一二三さん、羽生善治さん、藤井聡太さんといった将棋界の名人たちからも「間の抜けたお人好し」を感じるのは私だけではないだろう。

著者情報

泉 一也

(株)場活堂 代表取締役。

1973年、兵庫県神戸市生まれ。
京都大学工学部土木工学科卒業。

「現場と実践」 にこだわりを持ち、300社以上の企業コーチングの経験から生み出された、人、組織が潜在的に持つやる気と能力を引き出す実践理論に東洋哲学(儒教、禅)、心理学、コーチング、教育学などを加えて『場活』として提唱。特にクライアントの現場に、『ガチンコ精神』で深く入り込み、人と組織の潜在的な力を引き出しながら組織全体の風土を変化させ、業績向上に導くことにこだわる。
趣味は、国内外の変人を発掘し、図鑑にすること。

著者ページへ

 

1件のコメントがあります

  1. そもそもが八百万の神の国なのに、“白黒ハッキリさせる”みたいな1神教的な2項対立の概念を植え付けて定着させようとするのは、相手が人間でも、動物でも、ウィルスでも限界(というか無理)がありますよね。時代はvsからwithに移行していますよね。

感想・著者への質問はこちらから