泉一也の『日本人の取扱説明書』第116回「ゆる〜い国」
著者:泉一也
日本でビジネスを行う。それは「日本人相手に物やサービスを売る」という事。日本人を知らずして、この国でのビジネスは成功しません。知ってそうで、みんな知らない、日本人のこと。歴史を読み解き、科学を駆使し、日本人とは何か?を私、泉一也が解き明かします。
日本はゆるい。ゆるくてぬるい。それでも、一流のものが生まれてくる。プロフェッショナル意識の高さとゆるさが共存しているのだ。
この“ゆるさ”はどこからくるのか。それはことばである。やまとことばには“ひらがな“があるが、このひらがなは“ゆるさ”をあらわしている。
一方で、漢字は硬い。堅苦く厳か。ばらと薔薇。銘々の言葉から受ける感触に相違がある。言葉にする対象物は同様でも書いた途端、違うものになる。ゆるくしたいときは、ひらがなことばをたくさんつかって、硬くて厳かな雰囲気を出したい時は漢字言葉を多用すればいい。
クールな印象を与えたいのであれば、英語を使えばいい。ロックダウンにクラスターにステイホームにソーシャルディスタンスにオーバーシュートに。最近ではエピセンターに・・エンドレスだ。
こうしてなんでもありのことばをつかってオッケーなのが、やまとことばである。ああ、ゆるい、ゆるすぎる。
色は匂へど 散りぬるを
我が世誰ぞ 常ならむ
有為の奥山 今日越えて
浅き夢見じ 酔ひもせず
と書いたら、厳かな雰囲気が伝わる。
いろはにほへと ちりぬるを
わかよたれそ つねならむ
うゐのおくやま けふこえて
あさきゆめみし ゑひもせす
ゆるい世界を感じただろう。
言葉を学ぶのも「あいうえお」といった規則性で学ぶのではなく「いろはにほへと」とゆるく学ぶのだ。
子供もゆるく学べる。例えば、子供が「このバラきれい!」と言った時、じゃあ書いてごらんといったら、「此薔薇綺麗!」と書けるだろうか。もし漢字しかなかったら、子供はしゃべれても書けない。大人でも苦しむ。言葉での表現に対して距離を感じるだろう。
それにしても「此薔薇綺麗」は、まるで暴走族が着ている特攻服の刺繍である。厳かさを演出するには漢字が有効であるということは、暴走族が漢字ばかりを刺繍に使うのは「厳か」に格好良さを見ているからだろう。
暴走族は「厳か」を走りで体現しようとしている。ゆるすぎる世界では生きている実感がない。ぬるすぎるのだ。「厳か」の中にあるアツさを感じたいのだ。といっても今は暴走族も絶滅危惧種となり、ゆるさとぬるさが社会のスタンダードになった。
ゆるキャラブームにはじまり、現在はゆるさ>厳かである。そろそろゆるさに飽きてくるころだろう。ゆるさがゆるんでしまったわけである。
これからやってくる「厳か」の時代。ゆるさ<厳かという式が成立するのなら、あなたは何を「厳か」にしますか?ちなみに私は「契り」です。
泉 一也
(株)場活堂 代表取締役。
1973年、兵庫県神戸市生まれ。
京都大学工学部土木工学科卒業。
「現場と実践」 にこだわりを持ち、300社以上の企業コーチングの経験から生み出された、人、組織が潜在的に持つやる気と能力を引き出す実践理論に東洋哲学(儒教、禅)、心理学、コーチング、教育学などを加えて『場活』として提唱。特にクライアントの現場に、『ガチンコ精神』で深く入り込み、人と組織の潜在的な力を引き出しながら組織全体の風土を変化させ、業績向上に導くことにこだわる。
趣味は、国内外の変人を発掘し、図鑑にすること。