泉一也の『日本人の取扱説明書』第137回「天然の国」
著者:泉一也
日本でビジネスを行う。それは「日本人相手に物やサービスを売る」という事。日本人を知らずして、この国でのビジネスは成功しません。知ってそうで、みんな知らない、日本人のこと。歴史を読み解き、科学を駆使し、日本人とは何か?を私、泉一也が解き明かします。
天然の湯が好き。
ホテルに「天然温泉」がついているとつい予約してしまう。あれ、天然温泉というが「自然温泉」といわんぞ。英語だとnatureで一緒なのに。いいところに目をつけた。天然と自然は同じようで同じじゃない。この両者の違いは何?なんて問いを立てると、まるで境目研究家のよう。本家の境目研究家、安田さんに答えを聞いてもいいのだが、ここは自力で解いてみよう。
天然温泉と同じように天然ガスというが自然ガスといわない。天然の湯に天然ガス、両者とも価値あるもの。これはどうやら天の恵みという意味合いがありそうだ。「天恵」という言葉あるように。この仮説が正しければ、天然ボケも天の恵みを表している。だから愛されるのだろう。自然ボケとはいわないが、無理にイメージしてみると、なんとなく嫌な感じがしないだろうか。
天然は人にとって貴重な価値を含む。英語だとgift of nature なのである。
逆のパターンも見てみよう。自然体というが天然体といわない。自然現象というが天然現象といわない。自然とは自ずから然りというように、価値があるかないかは関係なく、中立な状態、ニュートラルであるということ。
両側から違いを見極めたので、これで境目ははっきりした。私も一端の境目研究家になれただろうか。境目検定準一級ぐらいは欲しい。今度、検定を受けてみよう。検定があればの話だが。
まとめると日本人は「天が自然を通して恵みを与えてくれている」と捉える種族といえる。「天」はそれぐらい日本人にとって大切な概念。神(God)とは違う。天子とは天命を受けて地上を治める帝王であり、神の子イエスは人々の魂を救う教祖であるように。
天と神の違いは?という問いは面白そうだが、どうも難しそうなので、ここは本家に任せるとして、天は自然より、神は魂よりといったんしておこう。とすれば、神の国は人間の魂の救済が主軸となるので、そのための自然破壊はやってよいことになる。日本は自然の恵みを天から授かっているので、自然破壊はしてはならない。
自然科学がなぜ神の国で発展し、天の国で発展しなかったのか。神の国では自然を人間の救済のために利用できたのだ。それが物理学、化学、生物学・・となって発展し、自然を利用して人類は飛躍的に豊かになった。しかしその結果、自然はボロボロにまで破壊されている。この勢いは止まらない。もし自然科学を使って100億人の魂を救済したら、100億人が住めない世界になるだろう。
ちなみに昭和天皇は南方熊楠という天才植物学者にお会いになって触発を受けられ、植物学者の道を歩まれたという伝説があるが、昭和天皇は天然のお方だったに違いない。この天然と天才の邂逅から、自然の恵みがさらに研究され、全国植樹祭につながる道が生まれた。
このまま自然破壊が進めば、天恵ではなく天災が与えられる。そして、多くの動植物が天然記念物になっていく。やがて人間という種も天然記念物になる日がくるだろう。そうやって数が減ってはじめて存在価値がわかるのだが、これもまた天の采配。今、怖さを感じたらそれを畏敬という。
天は敵でなく味方にしたいものだ。もっと天然になろ。
泉 一也
(株)場活堂 代表取締役。
1973年、兵庫県神戸市生まれ。
京都大学工学部土木工学科卒業。
「現場と実践」 にこだわりを持ち、300社以上の企業コーチングの経験から生み出された、人、組織が潜在的に持つやる気と能力を引き出す実践理論に東洋哲学(儒教、禅)、心理学、コーチング、教育学などを加えて『場活』として提唱。特にクライアントの現場に、『ガチンコ精神』で深く入り込み、人と組織の潜在的な力を引き出しながら組織全体の風土を変化させ、業績向上に導くことにこだわる。
趣味は、国内外の変人を発掘し、図鑑にすること。