小説家をめざす人はたくさんいるが、
小説家として食べていけるのは、ほんの一握りである。
ほとんどの人は、
小説とは関係のないアルバイトで食い繋いでいたり、
本業の隙間時間で小説を書いていたりする。
実にもったいない話だ。
小説とは、妄想作品である。
現実には絶対に存在しないような不思議な人物が登場したり、
あり得ないような出来事が起こったりする。
たった30秒で終わる普通の会話を引き延ばし、
30分のドラマに仕立てあげたりもする。
道端で転けるだけのシーンや、
コンビニでおつりをもらうだけのシーンの描写に、
10ページくらい費やすことなど当たり前。
こんな妄想癖は、通常のビジネスでは何の役にも立たない。
だから彼らはそのエネルギーを小説に注ぎ込む。
彼らは妄想せずにはいられないのだ。
そして小説を書いていない時は妄想を遮断し、
本業やアルバイトを淡々とこなすのである。
現実は現実。小説は小説。
小説の中での妄想は許されるが、
ビジネスシーンに妄想を持ち込む事は許されない。
多くの人はそのように考えている。
だからこそ、小説家をめざすような人たちも、
その妄想癖を押さえながら通常業務に励んでいるのである。
だが本当にそうなのだろうか。
現実のビジネスには、妄想を持ち込んではならないのだろうか。
妄想とは、言い換えれば思考の飛躍である。
前提を無視した、現実的ではない、飛躍したアイデア。
もちろん、多くの仕事現場では、
そのようなものは必要とはされない。
そんな非現実的なアイデアは生かしようがないし、
目の前の仕事を効率よくこなす方が遥かに大切。
昨日と同じように、できれば昨日よりも手際よく、
仕事をこなしていくことが重要なのだ。
だがその結果はどうだろう。
効率を重視し過ぎたビジネスの限界が、
もう目の前まで来ているのではないのか。
今必要なのは、まさしく飛躍なのである。
これまでのビジネスの常識を超える、大きな飛躍。
だがそのようなアイデアは、ビジネスの常識や、
業界の常識に染まった脳みそからは、決して出てこない。
求められているのは、非常識な発想。
まさに妄想力なのである。
小説家としては食っていけないが、妄想では誰にも負けない。
そういう人たちは、
コンビニや建築現場でアルバイトをしている場合ではない。
今こそ、その妄想力を、ビジネスに生かすべきなのだ。
商品開発も、販売戦略も、採用も、お店づくりも、
新しいアプローチはすべて、妄想からスタートする。
無から有を生み出す妄想力は、
高値で取引されるべきスキルなのだ。
セミプロの小説家、セミプロのミュージシャン、
セミプロの漫画家。
彼らは確かに、本業で食べていくことは難しい。
だが彼らには、素人には到底及ばないスキルがある。
それを使わないのは、あまりにももったいない。
今持っているスキルを、ちょっとだけ場所をズラして、
本業ではないシーンで生かすのだ。
好きな事や、得意な事のすぐ側に、
意外な天職が待っているかもしれない。
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