儲かるという理由で始めた事業が、儲からなくなってしまう。
最近、そのような状況に直面する機会が増えた。
そもそも事業にはライフサイクルというものがあるので、
儲からなくなること自体は不思議なことではない。
成長期の次には成熟期が訪れ、
その後衰退期へと移行するのは自然な流れだ。
だが、私たちが今直面しているのは、
まったく別次元の問題であると感じる。
ライフサイクル云々の話ではなく、
儲かる事業の構造自体が変化し始めているのだ。
儲かる事業は、儲からない。
そういうパラドックスが、
あちこちの業界で起き始めているのである。
では、儲からなくなった最大の理由は何か。
それは、顧客の購買感覚の変化ではないだろうか。
損得という分かりやすい基準から、
好き嫌いという複雑な基準への変化。
好きじゃない、面白くない、楽しくない、
というビジネスに、顧客が飽き始めているのである。
儲かるビジネスモデルを真似て、いち早く参入する。
かつてはそれがビジネスの王道であったと言ってもいい。
成長期のうちに参加すれば、大きな利益を見込むことが出来た。
だがその王道が、通じない時代になりつつあるのだ。
顧客の損得に訴えるビジネスは、
真似ることが比較的簡単である。
真似るポイントと真似るタイミングさえ外さなければ、
大きなリスクはない。
資金力のある会社にとっては、
まったく新しいビジネスを編み出すよりも、
はるかに効率のいいやり方だ。
だが、顧客の好き嫌いに訴えるビジネスは、
真似することが難しい。
いや、真似出来ないと言ったほうが、正確だろう。
それは、つくり出すものではなく、伝播するものだからだ。
最初にやり始めた人(多くの場合は社長)が抱いている、
好き、楽しい、面白い、という感情。
それが周りの人間に伝播し、顧客を巻き込んでいくのだ。
儲かるから始めたのではなく、楽しいから始めた。
そんないい加減な考えで、ビジネスが成功するはずがない。
それがこれまでの常識。
だがその常識は、根底から変わりつつある。
儲かるから、という理由で始めたビジネスが
儲からなくなってしまった。
そして、楽しいから、面白いから、好きだから、
という理由で始めたビジネスが、儲かるようになった。
それが今起きつつある、パラダイムシフトなのである。
もちろん、損得に訴えかけるビジネスの、
全てが無くなる訳ではない。
生きていくために必要な、生活必需品に関しては、
顧客は常に安くていいものを求めている。
だがそのビジネスは、小さな規模では利益が出ない。
だからこそ、業界を巻き込んだM&Aが、
どんどん繰り返されているのである。
生活に必要なものは、世界規模の大企業が、
どんどん安く提供してくれる。
その時に、小さな会社は、何を売っていけばいいのだろうか。
必要ないけど、欲しいから買う。
好きだから買う。楽しそうだから買う。
そう言ってもらうためには、自分自身が楽しむしかない。
楽しめない社長は、儲けられないのである。
尚、メールマガジンでは、コラムと同じテーマで、
より安田の人柄がにじみ出たエッセイ「ところで話は変わりますが…」や、
ミニコラム「本日の境目」を配信しています。
毎週水曜日配信の安田佳生メールマガジンは、以下よりご登録ください。