メニューを制するもの

 

夕飯の買い出しでスーパーに行った時、
見たこともない肉や野菜を、いきなり購入する人はいない。
なぜなら、見たこともない食材は、
どのように調理していいのか、分からないからである。

当たり前の話なのだが、
人は調理法を知っている食材しか買わない。
青森でホヤが売れるのは、
青森の人がホヤの調理法を知っているから。
和歌山で梅の実が売れるのは、
梅酒の作り方を知っている人が多いからである。

食材を売る側から見た場合、
多くのメニューをこなせる人(=多くの食材の調理法を
知っている人)には、たくさんの食材を売ることが出来る。
少ないメニューしかこなせない人には、
限られた食材しか売ることが出来ない。

つまり、多くの食材を売りたければ、
顧客がこなせるメニューを増やさなくてはならないということ。
「作ってみたい」と思うメニューが広がれば、
食材は勝手に売れていくのである。

あらゆる業界において、
商品やサービスは、顧客にとっての食材である。
自動車も、コピー機も、ヘッドスパも、
コンサルティングも、全ては食材なのである。

たとえばタクシー会社が自動車を買うのは、
タクシービジネスというメニューを持っているからだ。
消費者が車を買うのは、
車があることによって充実するマイカーライフ、
というメニューを持っているからだ。
当たり前すぎて、私たちはこの事実を忘れてしまいそうになる。

だが想像してみてほしい。
タクシーというビジネスが知られていなかった時代、
消費者がマイカーライフを知らなかった時代、
彼らは今と同じように車を買っただろうか。

タクシー会社をやれば儲かる、
マイカーを持てば生活が豊かになる、というメニュー。
それが広まることによって、車は売れて行った。
だがそのメニューには、魅力がなくなってしまった。
だから車は売れなくなったのである。

誰もメニューを知らない商品は売れない。
皆がメニューを知っている商品は売りやすい。
だがその反面、競争は激しく、利益は薄くなる。
時間と共にメニューは劣化し、その商品は売れなくなる。
メニューは生まれ、広がり、劣化していくのである。

マーケットが縮小し、商品が売れなくなった時、
多くの経営者は新しい事業を考える。
その時に気をつけなくてはならないのは、
新しい食材をつくり出そうとしないことだ。
つくり出すべきは新しい食材ではなく、
新しいメニューなのである。

自社の商品やサービスを使い、
いかに豊かな人生に結びつけるのか。
いかに儲かるビジネスに結びつけるのか。
そのメニューを考え、消費者や経営者に広めていく。
老舗の和菓子が突然売れ出すのも、
寂れた商店街に突如人が集まるのも、
そこに新たなメニューが加えられたからだ。

ひとつの食材に無限の調理法があるように、
ひとつの商品、ひとつのサービスには、
無限の使い道が存在する。
自社の商品を分解し、他の商品やサービスと繋げ、
新たなメニューをつくり出す。
メニューを制するものが、食材を制するのである。


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