なぜ若者にビジョンは響かないのか

新卒は未来で惹きつける。中途は条件で選ばれる。かつて採用を生業としていた頃のマーケット常識は確かにこうだった。未来志向、ビジョン重視、希望に満ちた真っ白な人材。社長が直接ビジョンを語ることで中途では考えられない優秀な人材が採用できる。それが新卒採用の大きな魅力だった。

だが時代が変わり、若者が企業に求めるものも変化した。今、新卒が求めているのは「風通しの良いワクワクする」職場ではない。ここで新社会人を過ごすことで、どれだけ自分の市場価値が高くなるのか。最大の関心ごとはそこなのである。永久就職、終身雇用、年功序列、どれも若者には響かない。いや、むしろこれらは採用力を下げる言葉だと認識した方がいい。

彼らは30年も先の人生を保証して欲しいと考えていないし、保証できると信じてもいない。重要なのはマーケットでの価値を高め続けること。それ以外に方法がないという現実をとっくに受け入れている。もちろん労働条件は大切だ。体を壊さない働き方ができること。精神を病まない労働環境であること。そして他社に見劣りしない報酬が受け取れること。これは仕事を決める上での最低条件である。

しかし十分条件ではない。スキルアップできない職場は除外されていく。その会社でしか通用しないスキルなどは論外である。入ってすぐに転職サイトに登録する若者を非難する経営者は多い。だが相手の立場になってみれば当然のことではないか。常に自分のマーケット価値を把握し、より条件の良い職場をチェックしておく。自立した社会人として当然の行動ではなかろうか。

では魅力的なビジョンに意味などないのか。もちろん意味はある。どうせ働くならビジョンに共感できる会社で働きたい。人から喜ばれる仕事がしたい。そう思うのは当然のことである。しかし勘違いしてはいけない。どんなに素晴らしいビジョンも若者を繋ぎ止める決め手にはならない。ビジョンに人生を賭けるには彼らは若すぎるのである。

50代、60代となれば事情は変わる。残りの人生をどう過ごすのか。ここが最大の関心ごととなってくる。ゆえに優秀な中高年を集めるなら人生をかけるに値するビジョンが決め手になるだろう。だが若者は事情が違う。自分の市場価値を高めていくだけで手一杯。それが若者の本音なのだ。ビジョンは大事だが決め手にはならない。決め手はあくまでも市場価値が高くなる環境なのである。

 

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