さよなら採用ビジネス 第50回「食いっぱぐれない仕事」

この記事について

7年前に採用ビジネスやめた安田佳生と、今年に入って採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第49回『徳政令「ごめん!」は出るのか』

 第50回「食いっぱぐれない仕事」 


安田

大卒の職人が増えてるって話でしたけど。

石塚

大卒に限らず、手に職をつけようとする人が増えてますね。

安田

でも、いい大学からいい会社に入って「自分はエリートだ」と思ってる人が、切り替えられるもんですか?

石塚

そこはもう、どれぐらいその人に「リアルな現実が降ってかかるか」ですよ。

安田

現実を受け止められるかどうかだと。

石塚

実際にちょっとずつ増えてますから。

安田

どこかで割り切るんですかね。

石塚

それって短期的には不幸に見えますけど、中長期でみたら幸せなことなんですよ。

安田

いや、私はぜんぜん幸せだと思いますよ。職人仕事は好きですし。

石塚

僕も江戸時代の職人さんとか大好きですよ。

安田

でも残念ながら日本ではブルーカラーって「負け組の象徴」みたいに言われてきたじゃないですか。

石塚

ちょっとずつ変わってきてますけどね。

安田

とくに若い人の間で変わってきてますよね。職人になりたい人が増えてる。

石塚

いつの時代も変化が遅いのは年配のおじさん達ですよ。頭がカタい。

安田

ですよね。40〜50代の大手サラリーマンって、この先どうするんですかね。

石塚

前からよくある質問で「うちにはお金がありませんが、子どもは食いっぱぐれないようにしたい。いいプランありませんか?」って。

安田

あるんですか?そんなプラン。

石塚

「あるよ」って言うと、みんなすごく聞いてくれます。

安田

あるんですか!

石塚

聞きたいですか?安田さん。

安田

そりゃあ聞きたいですよ。

石塚

家に金がなくて、息子や娘を大学に行かせられない。だけど、そこそこの年収で、食いっぱぐれないようにしたい。これ、あるんですよ。

安田

早く教えてください。

石塚

まず、女子からいっていいですか。

安田

どうぞ!

石塚

看護師で決まりですね。

安田

看護師ですか?

石塚

看護師。

安田

でも、資格いるじゃないですか。

石塚

看護師の資格取るのって、いろんな形で応援してくれるんですよ。学費の免除とか。

安田

へぇ。

石塚

高校にも看護学科もあって、そこに行くと正看護師が1年早く取れたりとか。

安田

でも家に金がないのに学校の授業料払えるんですか?

石塚

看護師は、いざとなったら学費の面倒見てくれる制度がいっぱいあるから。

安田

看護師になると、いくらぐらい稼げるんですか?

石塚

残業代込みで600万は下らないでしょうね。

安田

へぇ。それだけ看護師のなり手が少ないってことですか?

石塚

そのとおりです。

安田

なるほど。

石塚

たとえば老人をケアする施設って看護師を常駐させなきゃいけないんですよ。あと訪問看護も増えてる。

安田

介護と看護は違うんですか?

石塚

医療行為をする場合は看護師さんが必要。看護師資格を持ってると、仕事の幅がぐっと広がるんですよ。

安田
介護も資格いりますよね?
石塚

いりますよ。

安田

でも介護は、ものすごく給料が安いって聞きますけど。

石塚

安い。そのとおりです。

安田

じゃあ、介護と看護ではだいぶ差があるってことですか?

石塚

そうなんですよ。

安田

じゃあ今後は、看護師になるのがおすすめだと。

石塚

はい。さらに英語がしゃべれたら、もうどこでも食える。

安田

看護師プラス英語?

石塚

世界中で看護の仕事ができますから。

安田

なるほど。それが女子のおすすめですか。

石塚

べつに男子でも看護師できます。実際、看護コースは男子の生徒が増えてます。

安田

でも、頭よくないと資格取れないでしょ。

石塚

いやいや。普通の頭で十分いける。

安田

看護以外にもありますか?

石塚

こんどは主に男子だけど、女子もできるよっていう仕事。これ、電気工事士で決まりですね。

安田

電気工事士?配線工事とか、そういう?

石塚

いやいや、安田さんね。世間がそういうふうに見るから、逆にうまみがあるんですよ。

安田

どういうことですか?

石塚

だって、いま、電気ないと何も動かないでしょ?

安田

まあ確かに。動かないですね。

石塚

たとえばデータセンターの電気止まったらどうします?全部終わりですよね。

安田

終わりですね。

石塚

世の中全部、電気で動いてるってことは、メンテナンスとか検査が必要なんですよ。これ、誰がやるんですか?

安田

誰がやってるんですかね。

石塚

まさに電気工事の資格を持っている人が、定期検査をするんですよ。

安田

壁の向こうの配線する人が電気工事士だと思ってたんですけど。

石塚

それもあるけど、つくったものをメンテナンスしたり、定期的にチェックしたりする仕事。

安田

そういう仕事が稼げるようになってると。

石塚

商業施設だったり、オフィスだったり、ビルだったり。定期的に検査と修繕をしなきゃいけないから。

安田

どのぐらい稼げるものなんですか?

石塚

これも同じぐらい。600〜650万はぜんぜんいきます。

安田

仕事を選ばなければ、そのぐらいは稼げるってことですか?

石塚

意外に稼げるし、本当でやる気になったら自分で独立してやれるし。

安田

正社員にもなれますか?

石塚

いま電気工事士の奪い合いで、人を増やすためにM&Aやってるぐらいですから。

安田

じゃあ、安泰ですね。

石塚

だけど日本は自営業家庭が減ったから、こういう生々しい商売の世界を知らない。

安田

「そんなんで食えるのか?」って思っちゃいますもんね。

石塚

だからいまだに「大学まで行かせたのに」とか言うんですよ。「出たからって何もないですよ」って感じ。

安田

大卒ってだけじゃ、もう食えない?

石塚

医学部、薬学部、看護学部、あと、一部の理工系だけですね。確実に食えるのは。

安田

あんなに高い学費払ってるのに。

石塚

入るのも難しいし。本当にそれだけの教育投資して見合うの?ってこと。

安田

私の肌感覚としたら、専門学校を出てるほうが役に立つと思うんですけど。

石塚

その通り!現実には、高校中退して一念発起して料理の世界行って、料理店や寿司屋を経営してるほうが、大学出てるサラリーマンより稼いでるじゃないですか。

安田

なんで、みんなそこに目を向けないんでしょうね。

石塚

日本人のメンタリティーって、昔、学校で成績がよかった人を評価する傾向が強すぎるんですよ。

安田

強いですよねえ、たしかに。

石塚

強い強い(苦笑)勉強ができたとか、どこどこ大学出身だとか。「おまえ、一体いつの話してんの?」っていう。

安田

ホワイトカラーとブルーカラーの収入が逆転する、みたいなことも起きますか?

石塚

ホワイトとかブルーとかじゃなくて、「何ができんの?あんた」ってことですよ。

安田

じゃあ、スーツ着て仕事する人も減りますか?この先。

石塚

だって安田さん、スーツなんて着てないじゃないですか。

安田

確かに。


石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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