さよなら採用ビジネス 第101回「英断か無謀か。コロナ解雇」

この記事について

7年前に採用ビジネスやめた安田佳生と、今年に入って採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第100回『肉というビジネス』

 第101回「英断か無謀か。コロナ解雇」 


安田

例のロイヤルリムジンの話。

石塚

600人を同時解雇にした。

安田

そのうちの80人ぐらいが解雇無効で訴えてきたそうです。

石塚

みたいですね。

安田

その80人に関しては解雇取り消し。残りの方は合意解雇になるみたいです。

石塚

日経新聞が丁寧に載せてましたね。

安田

「経営者の英断である」という意見と、「そんなの通らないだろう」っていう意見と、大きく二つに分かれてる。石塚さんの意見はどちらですか?

石塚

僕は断然、経営者の英断だと思います。

安田

ということは「解雇やむなし」ってことですか?

石塚

理由は2つあって。まず助成金の申請から受給まで、あまりにも時間がかかりすぎること。

安田

2か月ぐらいかかるんでしたっけ?

石塚

もっとかかるかもしれないです。

安田

分かりにくいって言われてます。

石塚

書面作成が煩雑な上にルールがコロコロ変わる。もう1つの理由は、この案件を引き受ける社労士さんが少ないこと。

安田

ほお。それはなぜ?

石塚

書面作成すると連帯保証欄に社労士が名前を書かなきゃいけないから。

安田

連帯保証ですか。

石塚

「不正受給があった場合は、あなたもバッジが飛ぶからね」っていう。

安田

だからやりたがたない?

石塚

顧問以外の会社は怖くて引き受けられない。「雇調金はちょっと勘弁してください」っていうのが現状。

安田

でもロイヤルリムジンのやり方が通るなら「いったん解雇して、業績が回復したらまた戻す」ってことをみんなやりそう。

石塚

もちろん通常では認められない。でもコロナのこの状況は通常ではない。

安田

じゃあ普通の状態だったら石塚さんも賛成しない。

石塚

しないです。

安田

今回のコロナはそこまでしないと乗り越えられないと。

石塚

このままズルズル行ったら、解雇しなくても運転手さんの歩合給は激減します。

安田

運転手さんってそういう給与体系ですもんね。

石塚

失業給付って直近何か月の給与実績を基準にするから。あとで解雇になったら給付も減っちゃう。

安田

そこまで考えてのことだと。

石塚

そう思います。ズルズル様子見するとドライバーさんにもプラスにならない。だから非常時の経営判断としては正しい。

安田

なるほど。

石塚

まず失業給付を得て社員に安心してもらう。会社としてもボロボロになってから閉めるより、余力のあるうちに撤退したほうがいい。

安田

でも実際80人の社員は賛同しなかったわけですよね。

石塚

残念ながら。

安田

彼らが賛同しない理由ってどこにあるんですか?

石塚

急すぎるってことじゃないでしょうか。

安田

でも急がないと会社が潰れてしまいますよね。

石塚

社員には分からないから。雇用が続いてれば一応基本給は出るし。

安田

社員は休んでいても給料が出ますからね。

石塚

語弊あるけど長期休暇みたいな感じでしょ。「給料出るし、意外にリモートも悪くないな」みたいな。

安田

まあ、そんな感じですね。

石塚

いわゆるホワイトカラー系からは悲痛な声は聞こえてこない。でも現業系で直撃くらうようなところはすでに解雇も始まってる。

安田

経営者がいちばん大変そうです。

石塚

僕が運転手の立場だったら早く決断してほしいですけど。

安田

ちゃんと説明はしたと思うんですよ。それでも80人が不当解雇を訴えてきたってことは、そもそもの信頼関係に問題があるのかも。

石塚

そうですね。

安田

「社長の英断」とおっしゃってましたけど、「そもそも社員との信頼関係はどうだったんだろう」って思います。

石塚

うーん。でも600人もいて90%近くが納得してるわけですから。80人の方も不意打ちをくらったような気持ちなんだと思う。

安田

突然サインさせられて不安になったと。

石塚

日本人によくありがちな。「その場の流れで納得してないけどサインしちゃった」「あとから考えると実は納得いかない」みたいな。

安田

1人も訴えてこなければ社長の英断だと言えますけど。それだけ信頼関係があったということだし。

石塚

安田さん、厳しいですね(笑)

安田

厳しいっていうか。「また景気がよくなったら雇用する」というのが美談になるほど、簡単ではないだろうと。

石塚

確かに手紙の中の「また将来」っていう、あの部分はいらなかったなと思う。

安田

解雇でズバッといくべきだったと。

石塚

それで同時に会社もつぶすべき。

安田

それだったら納得いきますけどね。

石塚

「申し訳ないけど3か月後に倒産する。いまならあなた方に少し払えます。最悪の中の最善策はこれしかない。本当に申し訳ない」って僕だったら言うかな。

安田

そうですね。

石塚

よかれと思ったのか、社長のパフォーマンスなのか。僕にはそこまではわかりませんけど。手紙の中の「将来また」っていうのは言うべき話じゃないと思う。

安田

社員も納得して「また戻ってきてくれる」って信じてたんでしょうね。

石塚

たぶんそうでしょう。

安田

そこがちょっとロマンを抱きすぎっていうか。もうちょっと社員は冷めて見てると思うんですけど。

石塚

そこは同感です。シビアにやればよかったと思う。

安田

とは言え気持ちは分かりますよ。なんだかんだ言ったって、どこかで社員を信じてる。

石塚

安田さんもそうでしたか。

安田

でなきゃ経営者なんてできないですよ。

石塚

実感こもってますね(笑)

安田

はい。でもそういう思い込みが通用しない時代というか。

石塚

そうなんですよ。社員はもっと割り切ってますから。

安田

昭和の家族経営を引きずってる社長さんにはしんどい時代ですよね。

石塚

おっしゃる通り。

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石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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