さよなら採用ビジネス 第110回「変化できる経営者とは」

この記事について

2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第109回『二極化は進むよ、どこまでも』

 第110回「変化できる経営者とは」 


安田

ポストコロナの企業対応って二極化して来ましたよね。採用もリモートワークも。

石塚

個人的には二極化というより多極化だと思ってます。分かりやすい白黒っていうよりは、いろんな立ち位置やポジショニングを企業が主張し始めてる。

安田

単に人を「とる」「とらない」、リモートを「やる」「やらない」の問題ではないと。

石塚

おっしゃるとおり。たとえば新卒も採用する・しないの話じゃない。リモートワークを導入するなら、未経験の人を採用すること自体が難しくなるし。

安田

新卒でいきなりリモートは難しいですよね。

石塚

未経験者採用はリモートワークをメインにするのであれば難しい。そういう場合は「誰かの家に1か月下宿しろ」みたいな、“社内弟子入り制度”が生まれるかもしれません。

安田

弟子入りですか!受け入れる方も大変ですよ。でも1か所に集めての「ぎゅうぎゅう詰め研修」は、しばらく無理でしょうね。

石塚

難しいとは思います。でもそこも多極化していくと見てます。

安田

リアルな研修を継続する会社もあるってことですか?

石塚

「うちは職務上リモートができない」という物流の会社とか。密は避けるけど、マンツーマンの研修が必要ってことになれば、やるでしょうね。

安田

やらざるを得ないと。

石塚

やらなきゃしょうがないから、いろんな選択肢が出てくる。完全にどっちかっていうことではなく。今後は選択肢がものすごく増えると思う。

安田

多極化というご意見ですけど、「コロナ前に戻る」という会社と「戻らない」という会社と、大きく2つに分かれませんか。

石塚

おっしゃるとおり単純化するのであれば2つですね。「未来志向で変える会社」と「従来どおりの延長線で考える会社」。

安田

で、未来志向の会社は多極化していくと。

石塚

そういうことです。

安田

「元に戻る」と思っている会社は一極化ですよね。

石塚

崖に向かって一直線です。

安田

結構ありそうですけどね。「元に戻る」と思ってる会社。

石塚

これ実名出していいと思うんですけど、伊藤忠商事って僕は未来志向の会社だと思ってたんですよ。だけど緊急事態宣言が明けてすぐ「全社員出社しろ」って言ってる。

安田

未来志向ではないと。

石塚

青山の本社ビルも「賃貸に出せ」ぐらい斬新なことをやるかと思いきや。いつもどおりっていう。

安田

そもそも伊藤忠ってそんな斬新なイメージありますか?

石塚

伊藤忠って会社で朝食出すんですよ。つまり「早く来て早く帰れ」っていう。経験者採用も総合商社の中ではいちばん早く取り入れた。総合商社って新卒純血主義が多いから。

安田

つまり変化をいとわない会社ってことですね。

石塚

おっしゃるとおり。

安田

それでも「全員出社させる」ってことは、元に戻ると信じてる?あるいは、さらに裏をかいた新しいやり方なのか。

石塚

どうなんでしょう。僕は古さを感じましたけどね。もし裏をかくならもっと伊藤忠なりの新しさが出てくるはず。

安田

歴史が長い会社や規模が大きい会社ほど、ベクトルを変えにくいと思うんですけど。大手はやっぱり難しいんじゃないですか。

石塚

「規模は関係ない」と僕は見てます。

安田

へえ。そうですか。

石塚

大手でも、たとえばIBMやリクルートは「リモートワーク続行中」じゃないですか。

安田

確かに。

石塚

中小って、いかにもフレキシブルな対応ができるように思うけど、そうでもなかったりするし。

安田

言えてますね。じゃあ業界によって対応が別れると。

石塚

いや、業界も関係ないですね。

安田

じゃあ何によって変わるんですか。

石塚

経営者の考え方ですね。

安田

年寄りはダメってことですね。

石塚

いち早く「完全リモートワークの子会社」をつくった社長がいますよ。その人はなんと昭和20年生まれです。

安田

へぇ~。

石塚

規模も大きな会社です。年齢も業界も関係ない。

安田

社長の価値観というか、性格というか。それ次第だと。

石塚

経営者の感性だと思いますね。

安田

見分ける方法はあるんですか?「気をつけたほうがいい」「早く見切ったほうがいい」という頭の古い経営者。

石塚

うーん、あえて言うなら「真面目な社長」じゃないですかね。

安田

真面目?

石塚

はい。

安田

不真面目なほうがいいってことですか。

石塚

「ちょっといい加減」ぐらいがいい(笑)メイン事業に対しても「元々はこうだけど、どうなるかわかんないし」ぐらいな。変なこだわりや執着が少ない人。それが未来志向の経営者だと思う。

安田

あえて“残存利益”を狙うという戦略はダメですか?競合が減れば「生き残っていける」って、石塚さんも言ってましたよね。

石塚

そうなる可能性もありますし否定もしません。ただ、いまみたいに業界・業種・業態の境目がなくなってくると、思わぬところから競合が現れるので。

安田

確かに。

石塚

いずれにしても変化をしながら生き残らなきゃいけない。地方で周りがどんどんやめていくのは、ある意味ねらい目なんですけど。

安田

なにも工夫しないと生き残れないと。

石塚

それなりに規模が大きなマーケットは、新たなライバルが必ず出現します。それもどこから現れるか見当もつかない。だから常に変化を考えながら、マーケットの残存者利益を取っていく。

安田

同じことを繰り返すだけでは、もう生き残れないと。

石塚

そう思います。逆説的ですけど「変化し続けるからこそ、変わらないで済む」という。

安田

そういう経営者って少ないですよ。せいぜい2割ぐらい。残り8割は通り過ぎ去るのを待ってるだけ。

石塚

おっしゃるとおり。多くの経営者は「目の前の収益を戻すこと」だけに集中してます。

安田

それでは乗り切れないですよね。

石塚

難しいでしょうね。戻ると信じたいんでしょうけど。

安田

表参道なんか見てると、だんだん人通りも戻ってきましたけど。

石塚

地域によっては戻り始めてますね。

安田

すでに満席で入れないお店もあります。10万円もらって「ぱっと使うか!」って人も増えたんじゃないですか。

石塚

はい。「なんかコロナでお金が増えちゃった」って人もたくさんいます。

安田

ニュースでは悲惨な話ばかり出てきますけど。貯金が増えた人も多いはずですよね。

石塚

使う機会が減りましたから。せいぜい家飲みでちょっと贅沢するぐらいで。

安田

だけど石塚さんの考えでは、このまま戻りはしないと。

石塚

これで終わりじゃないですから。新たな感染症リスクも出てくるかもですし、そもそも消費者の生活様式が激変しましたから。

安田

確かに。

石塚

これを警告と捉えて「常に新しい変化対応」を考えるようになるか。あるいは「ああ、晴れ間が差してきたな」って安心しちゃうか。

安田

安心しちゃう会社はダメだと。

石塚

その半分ぐらいは、次の10年でなくなっていくでしょうね。

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石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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